日本アカデミー賞「八日目の蝉」が10冠 最優秀主演男優賞は原田芳雄さんに
2012年3月2日 23:01
[映画.com ニュース] 第35回日本アカデミー賞の授賞式が3月2日、東京・新高輪グランドプリンスホテルであり、成島出監督の「八日目の蝉」が最優秀作品賞を受賞した。成島監督は、「夢を見ているみたい。こんな九日目を見られるとは」と喜びを語った。成島監督の監督賞、主演の井上真央の最優秀主演女優賞を合わせ、「八日目の蝉」は正賞10部門と新人俳優賞を獲得し、各賞総なめの最多受賞作となった。
角田光代の小説を映画化した本作は、自分の子を失った喪失感から、不倫相手の子どもを誘拐した希和子と、希和子を母と信じた恵里菜が成長し、それぞれの女性としての心のひだ、母性を描いたドラマ。井上は実の母親との喪失した乳幼児期を埋められずに葛藤する恵里菜を熱演した。
引き裂かれた家族を描いた作品のため、成島監督は震災後の公開に不安があったと明かす。しかし、「被災地で大事な人を亡くした方に、この映画を見て頑張ろうと思えたというコメントをもらった。こんなに愛していただけた映画を作れたのは初めて」と感無量の面持ち。「この映画になければならなかった小豆島のみなさんに感謝を申し上げたい。役者にもスタッフにもそれぞれきつい役、きつい仕事だった」と述懐し、「この映画を愛してくださったお客様にありがとうと言いたい」と感謝を述べた。井上は「何よりも欲しかった賞で、成島監督に逃げずについていってよかった」と、最優秀助演女優賞を受賞した永作博美ら共演者と喜びを分かち合った。
最優秀主演女優賞の栄冠に輝いた井上は、昨年は本作のヒットのほか、NHK朝の連続ドラマ主演や紅白歌合戦司会を担当するなど飛躍の1年だった。日本アカデミー賞は今回初の受賞となり、「映画に貢献できる役者になっていきたいと思います。この賞を誇りに、自信に変えて頑張っていきたい」と目を輝かせて誓った。
最優秀主演男優賞は昨年7月に死去し、主演作「大鹿村騒動記」が遺作となった原田芳雄さんに贈られた。授賞式には原田さんの長女で女優の原田麻由が出席し、「体力は消耗するけれど、どんどん気力が満ちて元気になっていくようだった」と撮影時の原田さんの様子を振り返る。そして、「芳雄は『映画館はおれたちの宝箱だ』と申しておりましたので、映画が世につながっていくことを代わりにお願い申し上げます」と観客に呼びかけた。メガホンをとった阪本順冶監督は「芳雄さんの最後の作品を芳雄さんの好きな35ミリのフィルムで撮影し、送り出してあげることができて本当に良かった」としみじみ語った。故人が俳優部門の賞を受賞するのは、1996年の乙羽信子さん以来2度目となる。
長年映画界に多大な功績を残した故人に贈られる会長特別賞は、元東映会長の岡田茂さん、照明担当者の佐野武治さん、女優の高峰秀子さん、俳優の原田芳雄さん、映画監督の森田芳光さんが受賞。家族らが故人の思い出を語ると、会場は大きな拍手に包まれた。