今だからこそ響く、再編集版「赤毛のアン」の魅力 ジブリ美術館館長に聞く
2010年7月23日 18:08
[映画.com ニュース] カナダの女流作家ルーシー・モード・モンゴメリ原作の同名小説を、名匠・高畑勲監督らがTVシリーズ化した「赤毛のアン」が、約30年の時を超え、劇場版「赤毛のアン グリーンゲーブルズへの道」として帰ってきた。本作を三鷹の森ジブリ美術館ライブラリーの2010年夏の劇場公開作品に選んだ同館館長の中島清文氏に話を聞いた。
本作は1979年に放映された全50話あるTVシリーズのうち、高畑監督が第1~6話を約100分の劇場版として再編集した作品。20世紀初頭のカナダ・プリンスエドワード島を舞台に、孤児院から農家のカスバート家に引き取られてきた少女アンが、自らの哀しい過去と向き合いながら自分の居場所を見つけるまでが描かれる。高畑監督は本作を89年に完成させており、約20年間お蔵入りになっていた幻の作品だ。
「毎年、ライブラリーの劇場公開作のセレクションは何にするか迷うんです。そんななかで、鈴木(敏夫)プロデューサーが教えてくれたのが高畑監督による再編集版『赤毛のアン』の存在でした。20年前、高畑さんは『なかなかTVで放映されないので劇場版を作って欲しい』という要望を受けて再編集したんですけど、その依頼人の諸事情で一般公開されないままになっていたそうなんです。そこで、作品を見せてもらったらきれいに残っていたので、これも何かの縁だと思い、デジタルリマスターして公開しようということになりました」
中島氏は「80年代の製作当時より、むしろ2010年の公開のほうが良かったのではないか」という。
「80年代のバブル時のようなイケイケどんどんの時代より、むしろ、こうやって時代が停滞している中で、どういう風に日々を楽しく送るか、どういう風に自分たちが成長していくのかを考える時代のほうが合っていると思うんです」
それは、今年公開のジブリの新作「借りぐらしのアリエッティ」のテーマとも重なる。
「私は普段美術館にいるので、『アリエッティ』については製作途中の様子は詳しくは分からないのですが、試写で見た時に、そこにはジブリ作品に通じる何かがあると思ったんです。それはアリエッティもアンも同じで、辛いことがあってもひたむきに世の中を生きていく姿ですよね。だから、両方の作品を見てみると、高畑さんや宮崎さんが築いてきたジブリの主人公像をしっかりと新人の米林(宏昌)監督が受け継いでいることがよく分かると思います。そういう意味で、『アリエッティ』の裏で『赤毛のアン』を見直すことは理にかなっていることだと思いますね」
そんなアンの魅力はどんなところなのだろうか?
「アンは日常的なちょっとしたことに喜びを見つけられる空想力豊かな子供なんですよね。孤児院に返されてしまうかもしれないという不安を抱えながらも、彼女は『このドライブを楽しむことにするわ』と物事を前向きにとらえる。それは仕事も同じで『この仕事を楽しむことにしよう』という気持ちでやれば、充実感も変わってくるわけですから。そういうところがアンはすごいと思うし、今の人たちに見てもらいたいところですね」
「赤毛のアン グリーンゲーブルズへの道」は、渋谷シネマ・アンジェリカにて公開中。また、三鷹の森ジブリ美術館では、本作の美術資料を映画の紹介とともに展示した「赤毛のアン グリーンゲーブルズへの道」展も9月まで開催中。(三鷹の森ジブリ美術館は日時指定の予約制。チケットはローソンでのみ販売)
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