名優・仲代達矢が期待して止まない徳永えりの可能性
2010年5月21日 17:23
[映画.com ニュース] 「愛の予感」「バッシング」などで知られる小林政広監督が、自らの居候先を求め親類縁者たちを訪ね歩く元漁師の老人・忠男とその孫娘・春の姿を描いたロードムービー「春との旅」が、5月22日に公開される。同作に主演した仲代達矢と徳永えりに話を聞いた。
2002年の「白い犬とワルツを」以来、実に8年ぶりの映画主演となる仲代。約60年にわたる長い俳優生活のなかで、150本もの映画に出演してきた名優が「いままで読んだなかで5本の指に入る」という脚本に惚れ込んでの出演となった。
「もう歳だから、気負いなんてないけど、久しぶりにいい映画の仕事をしたと思っています。小林監督が書いたセリフには嘘がないし、説明的セリフがないのもいいですね。すべて構成で伝えようとしている。また、老いの問題を描いていることも大きかった。かつて黒澤明先生は『舞台は扮装したり、メイクで変えられるけど、映画は年なりの役をやったほうがいい』とおっしゃっていながら、『乱』では50歳の僕に80歳の役をやらせていましたが(笑)、今回の『春との旅』はまさに等身大の役として楽しんで演じることができました」
一方、日本映画界を代表する名優・仲代の相手役を務めることになった徳永は、仲代との共演を前に、代表作「影武者」(80)は見たが、その他の出演作はひるんでしまい見ることができなかったという。
「(劇中の)この人と対峙(たいじ)してお芝居をするんだって思ったら、ちょっと恐くて。でも自分でいろいろ考えて、その人の内面を勝手に想像してしまうのは良くないと思い、撮影のときは目の前にいる仲代さん扮する忠男を見つめることに集中しました。そうじゃないと、仲代さんに対しても、小林監督に対しても失礼だと思ったんです」
そんな2人が共演した同作だが、小林監督は撮影時、2人に極力コミュニケーションをとらせなかったという。仲代は小林監督のその態度を見て、すぐに「これは昔ながらの演出法だ」と気づいたそうだ。
「顔合わせのあと、徳永さんと僕の2人で『明日から頑張ろうね』と一緒に寿司を食べたのです。それを聞いた小林監督に『仲代さんとあまり口を利くな。食事など一緒にするな。お前はひとりで部屋に……』と徳永さんが怒られましてね。僕はすぐに昔の監督さんの俳優の使い方だって分かりました。かつて黒澤さんの映画に出たときは『三船(敏郎)くんとあまり仲良くするな』と言われていて、そんなときは大体三船さんと対決する映画でした(笑)。だから、和気あいあいと仕事したからいい映画になるというわけではないんです。小林監督という人は、昔の監督の雰囲気や体質を持っている人で、基本的にリアリズム重視ですよね」
小林監督のリアリズム演出を頭では理解していたが、監督の指示でフェリーの甲板の上に一晩中立たされるなど、辛い経験も少なくなかったと語る徳永。撮影中は「自分自身を客観的に見ることができないほど、かなり追いつめられていたので、ずっと仲代さんの背中だけを見て撮影についていきました」と振り返る。
それを受けて、仲代は「僕も小林正樹監督の『人間の條件』の軍隊のシーンでは、本気で殴られたりしましたからね(笑)。でもこれだけ長い間やってきて思うのは、俳優はキャリアがあるからいいとは限らないということ。経験があると引き出しはいっぱいあるんでしょうけど、逆にその引き出しが邪魔になることもある。これは私の持論ですけど、いくら良い魚だって鮮度が悪ければおいしくないわけで、僕も鮮度という意味においては、徳永さんにかなわないんです。だから、彼女みたいな次の次の世代の人にはもっと『新人の権利』を行使してもらって、頑張ってもらわないとね」と自らの孫よりも若い演技派女優にエールを送っていた。
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