DOGMAN ドッグマン : 映画評論・批評
2024年3月5日更新
2024年3月8日より新宿バルト9ほかにてロードショー
リュック・ベッソンの最新作を支える犬を従えたドラァグクイーンの正体は!?
5歳の時、家族によって檻に入れられた少年の実話に触発されたリュック・ベッソン監督、脚本による渾身の最新作。渾身と呼ぶのは、これがベッソン久々の快打だと思うからだ。
マリリン・モンロー風の衣装とメイクを施した血だらけの容疑者、ダグラスが逮捕され、警察内に収監される。彼はなぜそんな格好で身柄を拘束されることになったのか。映画はダグラスと彼の聞き取り調査を受け持つ精神科医、エヴリンの対話を追う形で進んでいく。時間軸を前後させながら明らかになるのは、ダグラスが抱え込む子どもの頃に父親から虐待され、犬小屋に閉じ込められたことによるトラウマと克服だ。「犬は唯一愛を返してくれる対象」と言い切るダグラスは、父親の銃弾を浴びた時に脊髄を損傷して以来、車椅子での生活を余儀なくされるが、彼の側にはいつも最愛の友であり、“神の使者”にも例えられる犬たちがいた。
ダグラスが住む街の向こう側には摩天楼が見える。街ではチンピラ集団が住民たちを苦しめている。犬を使って奴らを懲らしめたり、富豪の金庫から宝石を盗み出したり、まるで心に闇を抱えるロビンフッドみたいな主人公が暗躍する様子を、ベッソンはフレンチノワール風にそつなく、手早く描写していく。職を探して辿り着いたキャバレーでダグラスを出迎える心優しいドラァグクイーンたちも含めて、この犯罪ドラマを支えるのは社会の片隅で生きる弱者たち。離婚した暴力夫の影に怯えるエヴリンもそのひとりだ。ダグラスがエヴリンに自らの過去を語る気になったのは、彼女から同じ匂いを嗅ぎ取ったからだ。
キャバレーのステージでシャンソンの女王、エディット・ピアフになり切り、拍手喝采を浴びるダグラスからはもろにフランスの香りがする。演じるケイレブ・ランドリー・ジョーンズのジェンダーフリーで変幻自在な雰囲気が、終始観客の目を惹きつけて離さない。そして、本作のロケ地は物語の舞台と同じくアメリカのニュージャージー州ニューアークだ。劇中にはハドソン川を挟んでニューヨーク、ウエストサイドのビル群がカメラに収められている。思えば、ベッソンが監督としてアメリカに渡ったのは、ニューヨーク・シティでも撮影した「マラヴィータ」(2013)以来、約10年ぶり。それ以前にはニューヨークのチェルシーやニュージャージー州のホーボーケンにカメラを据えた、あの忘れ難い「レオン」(1994)がある。映画界にデビューしてから40年以上、その間、ハリウッドへの愛憎を胸に秘めつつ、主に母国フランスをベースに、評価はさておき膨大な量のハリウッド的アクション映画を作り続けてきたリュック・ベッソンにとって、これはある種区切りの1作として捉えることもできそうだ。
(清藤秀人)
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