ほかげ

劇場公開日:

ほかげ

解説・あらすじ

「野火」「斬、」の塚本晋也監督が、終戦直後の闇市を舞台に絶望と闇を抱えながら生きる人々の姿を描いたドラマ。

焼け残った小さな居酒屋に1人で住む女は、体を売ることを斡旋され、絶望から抗うこともできずに日々をやり過ごしていた。そんなある日、空襲で家族を失った子どもが、女の暮らす居酒屋へ食べ物を盗みに入り込む。それ以来、子どもはそこに入り浸るようになり、女は子どもとの交流を通してほのかな光を見いだしていく。

「生きてるだけで、愛。」の趣里が主人公の女を繊細かつ大胆に演じ、片腕が動かない謎の男役で森山未來、戦争孤児役で「ラーゲリより愛を込めて」の子役・塚尾桜雅、復員した若い兵士役で「スペシャルアクターズ」の河野宏紀が共演。2023年・第80回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門に出品され、優れたアジア映画に贈られるNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)を受賞した。

2023年製作/95分/G/日本
配給:新日本映画社
劇場公開日:2023年11月25日

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(C)2023 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

映画レビュー

4.0居酒屋から覗く闇の戦後社会

2024年1月24日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

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マユキ

4.0戦争という火に翻弄される影

2024年1月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

火の影と書いて「火影(ほかげ)」だが、ここでの火とは戦争のことか。戦争が終わって残ったものは半分焼けた居酒屋、そこで1人、身体を売りながら生きる女性、転がり込んできた身寄りのない子どもと奇妙な共同生活が始まる。戦争の火が消えて遺されたものたち、生きるのもやっとの世界で寄り添う人々。戦争という火に翻弄された影としての人々の物語と観るべきか。
物語は、身寄りのない少年を軸に二つの展開がある。前半は、居酒屋での趣里と少年との束の間の共同生活。後半は少年と片腕が動かない元兵隊の森山未來との旅。森山未來の何を考えているかわからない雰囲気が怖い。旅の目的がわかってくると、彼も戦争の残り火が消えないで苦しんでいる人間だとわかってくるのだが。
2023年の年末は、太平洋戦争を題材にした作品が、大作映画、恋愛映画、アニメと重なり、どう戦争を描くかということの議論が起きていた。この作品もまた独自のアプローチで戦争を見つめた作品として、それらの作品群とともに観て色々なことを考えてほしいと思う。安易に正解は決められない。

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杉本穂高

5.0居酒屋を舞台にした壮大な反戦ドラマ

2023年11月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

怖い

終戦後、瓦礫と化した町の片隅で居酒屋を営み、奥の座敷では体を売って生計を立てているヒロインの視点で、物語は進んでいく。店には腹を空かせた少年や、心に深い傷を負った復員兵や、闇市で強かに生きるテキ屋の男たちがやってくるが、外の状況はあまりよく分からない。

塚本晋也監督の演出は、小さな窓(居酒屋)から大きな世界(瓦礫の町の状況と人々の生活)を覗き見するようなミニマムな手法に徹している。その効果は、膨大な予算を注ぎ込んだどんな戦争ドラマよりも強力だ。居酒屋を舞台にした壮大な反戦ドラマ、というのが率直な感想だ。

もう1点、別の復員兵に関するシーンでは一瞬鳥肌が立つほど怖い思いをさせられる。戦争の残虐を人物の顔と格子窓の光で表現したキラーショットは、今思い出しても体が震える。なぜなら、そこにも監督の強い思いが込められているから。大枠から細部まで、メッセージ性がパワフルな作品だ。

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清藤秀人

傷痍軍人の思い出

2025年4月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 僕が小さな頃には、「傷痍軍人」と呼ばれる人がまだ居て、白い帷子(かたびら)に軍帽を被り、或る人は失った足を松葉杖で補い、また或る人はアコーディオンを弾きながら軍歌を歌い道行く人の施しを受けていました。物乞いの人を見る事はそれほど珍しくはなかったのですが、傷痍軍人の方々だけはちょっと違っていました。子供心に何だか怖く感じ、触れてはいけない物の様に思えて近づけなかったのです。それは、当時には既に見られなくなっていた戦争の傷跡が露呈している姿への恐怖だったのかも知れません。でも、今にして思えば「この怖さってなんだろう」と言うゾワゾワした思いを言葉に出来ないながらも抱いていた気がします。本作を観ていてあの不思議な怖さとゾワゾワを思い出しました。

 戦争によって心に深い傷を負った人々の終戦直後の姿を戦災孤児の目を通して描いた塚本晋也監督の最新作です。「たとえ足を失っても、手がなくなっても生きて帰って来てくれさえすれば」と、家族を戦地に送った人々は祈ったかも知れません。でも、肉体的には五体満足で戦争を生き抜く事が出来たとしても、心が圧殺され摩滅し壊死していたならばその人は「生き抜いた」と本当に語れるのでしょうか。その人たちにとっては戦争直後から新たな戦争が始まったのではないのでしょうか。そうした見たくない物から目を背け、知らない振りし、ごまかし、鈍感でいる事を「生命力」と呼ぶのだとしたら、それは辛い事です。

 そうした思いを目力だけで表す趣里さんも森山未來さんも河野宏紀さんも、そして何より子役の塚尾桜雅くんの迫力が際立っていました。

 この様な映画を観たら「やっぱり二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない」と誰もが思うに違いありません。しかし、我々が注意せねばならないのはその先です。「だから、他国からの攻撃に備えて戦費を倍増せねばならないのだ」と自ら戦争に歩み寄る愚策を押し留めねばなりません。

  2025/12/13 鑑賞

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La Strada