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〇作品全体
広大な土地、スローモーションで描かれる主人公・コルピの姿…作品の始まりはとても重厚で、スケールが大きい。しかしふたを開けてみると重厚さはあまりなく、アクションも期待していたよりも薄味だった。
ただ、狙ってるのかどうかわかりづらいコメディみたいなドラマやアクションが予想外に面白かった。
まずはドラマ。
大切な金塊をナチス軍団に狙われたことから始まる復讐劇なわけだが、それ以上のバックボーンはなく、ソ連兵に妻や子を殺されてしまってから常軌を逸してしまったコルピ、というキャラクター性だけが軸にある。ソ連兵にやられたのに今回の敵がナチスなのもちょっとアレだが、既に家族はおらず、金塊に加えて大切な馬や犬を狙わることで復讐心を煽るあたりは、なんというか、すごいジョン・ウィックぽくて、二番煎じな復讐劇のように見えた。
コルピを執拗に追いかけるナチス軍団も、ちょっとギャグっぽいところがあった。
最初の登場シーンはまあ良かった。極悪非道なナチスたち…っていうザ・テンプレートなのは、たしかに二番煎じ感があるが今後の復讐シーンにノイズがなくて、むしろ清々しい。
ただ、ところどころシンプルにアホでギャグになってしまっている。地雷原にコルピを追いつめたものの硝煙で見えなくなってしまったところはまだいいが、自分たちが設置した地雷原なのに地雷に注意しながら追ってる姿とか、居場所が不確定なのに川の中に入っちゃってやられたりとか、小舟に乗ってる兵士は武器持ってきてないとか、コルピを恐れているのはわかるけど、アホが前に出すぎている。
そしてコルピを逃がしてしまったときのナチス軍団の表情と立ち姿。コルピをボーっと並んで見てるところはかなりアホな画面で、完全にギャグだった。川岸で後ろ姿を映すカットとか特に面白い。カット割らずに犬が出てきたときには、あまりにもアホすぎる絵面と短絡的な展開で、最高にギャグだった。
「狡猾で冷酷なナチス」として描けていれば違う雰囲気になったんだろうけど、役者の表情だけがやたらと冷酷な表情をしていて、だけどやってることはアホで…結果として「冷たい表情」じゃなくて「なんも考えてない表情」になっちゃってるのが、なんだかすごい化学反応だなと思った。
アクションも序盤は純粋にかっこよかった。
近接戦の緊張感、一発一発の攻撃の重さ、そして容赦のない描写。コルピが内に秘めた、重くて暗いフラストレーションを吐き出してくようなアクションは見ごたえがあった。
しかし、一斉射撃を盾で防御し始めたあたりから「あれ?」と思いはじめ、軍用犬から逃れるところでさらにフィクション感が増し、ラストのナチス軍団への反撃もあっさりしていて、正直拍子抜けだった。
傷口を直したりするシーンはやたらとグロテスクなんだけど、相手を倒すときにそのグロテスクさがない。コルピを正義の象徴にしたかったのかもしれないけど、そういった潔白さはコルピの生きざまに似合わない気がした。
川の中で戦うと赤い水が浮かんできたり、戦闘機の中で倒されたパイロットにコルピへ使ったはずの縄がかかっている…というような、コルピを映さずに恐怖を煽る演出は良かったが、もう少し明確なカタルシスが欲しかった気もした。
そしてなによりラストのツルハシアクション。コルピを象徴したプロップで戦いたかったんだろうけど、もう、完全に、ツボおじさんだった。
個人的にはフラストレーションを爆発させるような、重く激しいアクションを期待していたんだけど、なんだか随分ギャグっぽかった。ただ、安っぽさはあまりなく、「そういう作品」だと思えば楽しめる作品だった。
〇カメラワークとか
・なんかいろいろパロディっぽい部分を感じた。設定的には『ジョン・ウィック』シリーズだし、ド派手でコミックっぽいチャプター表示は『キル・ビル』っぽい。ナチス軍団の中尉が爆弾と一緒に落とされるカットは、映し方含めて『博士の異常な愛情』だった。
ジョン・ウィックって考えると、コルピの馬=ウィックの車という関連付けが頭のなかに浮かんできて、まんまジョン・ウィックなことにちょっと笑ってしまった。
・演出的には捕らわれていた女たちが銃を持って横並びで歩いてくるカットがカタルシスの頂点、って感じなんだけど、そこのカタルシスはすこしボルテージ不足だった。女たちは最初に弄ばれてる姿が少し映ったり、地雷原歩かされたりしてるんだけど、コルピが受けたフラストレーションを越えてない、みたいな。
〇その他
・小型犬にしたのはなんでなんだろう。コルピとのギャップ萌え的なやつなんだろうか。
・コルピのヤバめな頑丈さがこの作品の一番の注目ポイントな気がするけど、それは『太陽を盗んだ男』の菅原文太で見たって思ってしまった。