コヴェナント 約束の救出 : 映画評論・批評
2024年2月20日更新
2024年2月23日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
ガイ・リッチー初の戦争映画を観るべき“三つの約束”
この映画を“観たい”と思った理由は二つある。ガイ・リッチーが初めて描く戦場とはどんな映像になるのか。ジェイク・ギレンホールはなぜこの映画出演を決めたのか。
リッチーの監督デビュー作「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」(1998)は痛快だった。「スナッチ」(2000)は奇を衒いすぎで、「シャーロック・ホームズ」シリーズ(09~11)はちょっと濃すぎた。「コードネーム U.N.C.L.E.」(15)は気取りすぎだし、「ジェントルメン」(20)はキャストに押された感もいなめない。ジェイソン・ステイサムと再タッグした「オペレーション・フォーチュン」(23)は、肩の力が抜けた軽快娯楽作だった。
「様々な物語やドキュメンタリー、逸話を混合した。その根底には他者のために自分を犠牲にした人の物語がある」と初の戦争映画に向き合ったリッチーは、実話を掛け合わせた脚本を書き、戦争映画のダイナミズムに、無法者からの逃亡劇を掛け合わせ、自己犠牲という深いテーマを盛り込んだ。大作のスケール感と緊張感が持続するこのフィクションには、監督からの三つの“コヴェナント”が重ねられている。
第一は“契約”。ジェイク・ギレンホールが演じるのは米軍のジョン・キーリー。世界大戦の英雄でもなく、ベトナム戦争の苦悩する兵士でもない、ふて腐れた兵隊だ。アフガニスタンに派兵され、曹長としてタリバンの爆弾工場を暴き破壊する任務につく。言葉が通じない戦場では通訳が頼みの綱。ある日、時に仲間と諍いを起こす、一癖有りの通訳と契約を交わす。密告を受けて兵器工場に向かうが予期せぬ襲撃に遭い部隊は全滅。孤立無援となり、遂には敵に囲まれてしまう。
第二は“約束”。敵に撃たれ拉致寸前のキンリーを救ったのは、身を隠していた通訳だ。ダール・サリムが体現した強靱な行動力を持つアーメッドは、重傷を負った曹長を背負い山岳地帯を進む。米軍基地までの100キロを超える難路を、敵の目を欺きながら歩き続ける。なぜ、アーメッドはこれほどまでの重荷を背負うのか。身籠もった妻との未来を生きるために、アメリカが現地通訳に“約束”したビザがどうしても必要だったのだ。
第三は“誓約”。原題「Guy Ritchie's The Covenant」に自らの名を冠した監督リッチーの矜持である。アーメッドに救われ病院で眠り続けた後、安全が約束された自宅に戻ったキンリーは、命の恩人のその後に気を揉む。タリバンの標的となったアーメッドは、身を隠しながら戦地を転々と逃げ延びている。軍に電話しても埒が明かず、約束のビザも支給されてはいない。一刻も早く。業を煮やしたキンリーは、友を救うために私財を投げ打って再びアフガニスタンに向かうことを決意する。幼い娘に「1週間で戻る」と言い残した彼は、人生の垣根を越える“誓い”を胸に戦地に赴く。
国と友への忠誠心に満ちたジョン・キンリーを演じられるのは、ジェイク・ギレンホールだけ。ガイ・リッチーから振り幅が大きな役柄を託された演技派俳優が出演を決めた理由が、スクリーンに漲っている。
(髙橋直樹)