パスト ライブス 再会のレビュー・感想・評価
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この物語、僕には刺さった
映画を観る前に眺めたレビューの評価は今一つでどうかなと思いながら映画館に足を運びました。で、僕には…見事に刺さりました。
僕もそれなりに長く生きているので、自分の体験やら昔感じた心の動きやらを思い出しながら映画を観ることが多いのですが、実際この映画では過去のいろいろなことが思い出されました。過去に関わりがあった女性に会ってみたい、また相手の気持ち(自分の気持ちも)を確かめてみたい衝動(実際に行動に移したかは別として)やら、妻の元彼(夫)や初恋の人の存在が気になったり(これはアーサーの心の動き)など。また関わりのあった女性と長い時を経て再会したときの感覚、感情の高まりとか。
優等生だったはずのヘソンのあの拙い英語(韓国の人って日本人より英語に強いんじゃないの?)はヘソンという男の今を表現している。野心ある強い女のノラからすれば物足りなさを感じたんじゃないかな。アーサーはノラを深く理解しようと韓国語を勉強しているのとは対照的。結局ヘソンは韓国という枠から出ることのない平凡な男。ニューヨークで自分の人生を切り拓こうとしているノラには合わない。
最後にヘソンがタクシーに乗り込み別れるシーンで12才の二人の階段での別れの場面がフラッシュバックする(映像)、強い女を演じていたノラが泣きながらアーサーの胸に飛び込む。二人の永遠の別れ(少なくとも結ばれることはない)を暗示していて胸が締め付けられた。
✡️最後のノラの涙をどう考えるのかはこの映画の理解の仕方に関わるんじゃないかな。
久しぶりに出逢えた、大人っぽいビターなラブストーリー
ダイナミックで美しいニューヨークの街並み、そして雑多でエネルギッシュな韓国の街並みをバックに綴られる、切なくてほろ苦くて、すごくロマンティックな作品
セリーヌ・ソン監督、これが監督・脚本デビュー作でしかもオスカーの作品賞と脚本賞ノミネートとは、またとんでもない才能が生まれました、素晴らしかったです
ノラを演じたグレタ・リーさん、全身から出る雰囲気が何とも魅力的、特に表情が良くてすごく素敵でした
そんなノラが偶然facebookで幼なじみのヘソンと12年ぶりに再会するも、ニューヨークとソウルの距離は遠く直接会うことができず、想いがつのり過ぎて辛すぎて、本音とは裏腹に引き裂かれる想いで自ら関係を断ち切ってしまう、たぶん自分も同じタイプなのですごく共感できて、観ていて一番 辛かった展開です
ノラのアメリカ人の夫アーサーの存在がまた切なすぎる、演じるジョン・マガロさんがめちゃくちゃ味があって良かったです
妻の幼なじみへの想いを感じ怯えるも彼女の全てを受け止めて優しく接しようとするアーサーが観ていてとても辛かった
韓国語で寝言を言うノラに“自分には君の中で永遠に理解できない部分があるんだと不安になる”と伝えるシーンは涙ものでした
ノラとアーサー、そしてヘソンの3人がバーカウンターで話すくだりは何だか緊張感たっぷりで、観ていてものすごく疲れました・・・
本作、ノラとヘソンの関係に目が行きそうな所ですが、私はどちらかと言うとノラとアーサーの関係、特にアーサーの心持ちの方に感情移入してしまいました、やけに辛かったです
ラスト、夜のニューヨークの住宅街、ノラがヘソンをウーバーに送って行くロングショットがとても切なくて印象的
さらにノラが1人で同じ道を帰って行くロングショットがもっと切なくて、最後に家の前で待つアーサーが泣いてしまったノラを抱き締めるまでの一連の流れが自分の中で久々に忘れられない名シーンとして刻まれました
観てよかったなと思えた秀作でした
苦く切ない
2023年。セリーヌ・ソン監督。ソウルで幼馴染として育った男女が、12歳で離ればなれとなり、24歳でネットで再会するものの会えないまま、36歳でニューヨークで再会を果たす。その過程をしみじみと描く。
「縁」の考え方をベースに、輪廻転生(前世や来世)、この人生における複数の分岐点によってあり得たかもしれない人生(可能世界)など、複数の生(ライブズ)のなかで、今この唯一の現実を受け止めようとしていく男女の姿。可能性を夢のように追いかけないという苦く切ない決断が示されている。
劇中で「袖振り合うも他生の縁」として解説される「縁」は仏教由来だし、12年ごとの時代経過は十二支由来だろう。
グリーンカードのために結婚した女性と大人になりきれない男性の物語
レビューの評価が高いから観に来た。ずばり言ってグリーンカードのために米国人と結婚した女性と大人になりきれない男性の物語といったところかな。
まあ同級生はいいものだし、男女仲良しだったらなおさらだよね。ただ 12歳で彼女家族はカナダへ移住して仲は切れてしまった。
24歳になってFBで探し当てるのは普通の欲求だけど、36歳にもなってわざわざニューヨークまで行って、会うだけならともかくさらに結婚した女性の自宅まで行くのは如何かな。ちょっと自分勝手過ぎるわさ。ラストの女性の涙も複雑で、グリーンカードのための結婚を後悔させてどうするの。男性の正直な気持ちを現した映画はいいけど、踏み込みすぎだと思うよ。
どっちも失いたくないけど…
選ばなかった人生の方が、
キラキラして見えるのかな…
選ばなかったから、妄想するしかなく、それは都合の良い妄想になるかもだし…魅力的に見えるのかな。
選んだ方は現実だから。
辛いことも起きる…。
アーサーが
階段に座って待ってて…
泣けた…
どんな気持ちで待ってたの…
もう戻ってこないかも…て思ったりしたかな。
こんなに愛し、大切にしてくれる人、いないよね。
どうかこの先、アーサーを泣かさないでください、と切に思った。
微妙なバランスで成立した、良い作品
日本のプロデューサーが作ったら、つまらないモノになっていたと思う。
ビックリするようなストーリではなく、何なら話の先は読めてしまう。プロモーションのように、大傑作とも思わないし、感涙する様でもないけれど、登場人物それぞれの心情をずっと考えさせる、よき映画体験でした。
日本でこれを制作すると、キャストありきで進行する、いちいち途中で泣く、キーとなるセリフが繰り返されプロモーションでも使われる、マンハッタンの観光地を巡る、ここぞとばかりに劇版が流れるなどが予想されます。
衣装は取り上げるような特徴はないし、米国っぽい食事も出てこないし、ジャズもヒップホップもかからない。地下鉄やUberも全体像をみせない、モントークもただの原っぱしか出てこない、エンパイアステートビルやクライスラービルは遠景だし、ブルックリンブリッジの空撮はなし、自由の女神も横から移す。このため、キャストの表情に集中できる様になっている。
アーサーがユダヤ系というのも良かったのかも知れない。ボーはおそれているのフォアキン・フェニックスみたいにおたおたしている。(日本人が想像するステレオタイプの)WASPとかだと嫉妬して怒っちゃったりして、ぶち壊しになっちゃいそう。クリスマスも出てこないし。
タイトル通り、『縁』がテーマなわけですが、他の国の方がどのような感想なのか興味があります。輪廻ではないけど、『(500)日のサマー』やそれこそ『エターナルサンシャイン』だって『縁』の話しだし、ハリウッド作でも『クラウドアトラス』は輪廻の話しだし(韓国の話が出てくるけどね)。
鑑賞動機:抑制の効いた大人のラブストーリーって最近守備範囲に降ってこない気がする10割
トニー賞かな、と思ったらトニー賞だった。『エターナル・サンシャイン』はよい映画ですよ。
単純な二択で割り切れない心情の揺れ動きを、セリフを抑えることで逆に強く印象づけられたように思う。ただあまりにももどかしく感じられるところもあり、それをストーリーとして楽しめないと、焦ったく感じてしまうかもしれない。それでも終盤のロングカットは息を呑んで見入ってしまった。
グリーンカードは永住権のこと
映画を観終わって調べました。
グリーンカードとは永住権のことでした。
アメリカ人と結婚しても2年ほど待つらしい。
移民ビザでも永住はできるのですが、
いろいろな恩恵があるみたいです。
小学校で移民して凄く苦労したんでしょうね。
その苦労が描かれてないのが残念です。
もうちょっと仕事パートを増やして欲しかった。
悪くいえば恋に恋してる女々しい男の話だが
この作品は、ストーリー展開だけを抜き取ると、小学生の時に好きだった女の子のことが大人になってもずっと忘れられず、もうすでに旦那もいるのに異国まで会いに行っちゃう、恋に恋してる女々しい男の物語になるかと思います。
ただ、演出が素晴らしくて、2人や彼女の旦那の心情の描写だったり、光や影、反射を使ったエモい描写が多く、全体的に印象深い作品になっています。
なので、そうした演出に対する好みによって、この作品の評価は先ほど言った単なる女々しい男の物語にもなり得るし、心の機微を繊細に描いた表現作品にもなり得ます。
忘れられない人
12歳で初恋、24歳でオンラインで繋り
36歳で再会。
24年の歳月は長いよね。
ヘソンはナヨンの事、相当好きだったんだろう。
24歳でオンラインで繋り、もし再会して会って
いたら違っていたのかも。
前世とか輪廻転生あるかもしれないけど
タイミングと行動力も不可欠で運と縁。
仕事やキャリアを優先し選択したら
失う物も出てくる時もある。
常に上昇志向のナヨンと、その初恋時代の
まま立ち止まっているヘソン。
これだけ時が経てば色々とずれてくるよね。
『君の寝言が韓国語だから学ぼうとした』
アーサーの優しさもあったし、文化も知りたいと
思ったのだろう。あと、どこかで不安もちらついた感じもする。
愛して信頼できるアーサーが居たからこそ
3人で会えた。ただあの時のアーサーは切ない。
大人だし理解し待とうとする気持ちだけど
複雑でしんどいはず。
初恋は特別な物なんだと改めて実感。
二人の間で人生を豊かにしてくれた人と
なってくれればと願う。
どこが
イイのかよく解りませんが、最後夫の肩で涙を見せるシーンは良かった。やはり儒教的な考えなんですかね? 何故か、男が一人でホテルに入ってくる所もぐっと来た。エンディング曲も良かった。
総じて「ロストイントランスレーション」を観た時みたいな感覚が残りました。
けっこうよかった
見る予定になかったけどあまりに評判がよくて見る。旦那さんのアーサーが本当にいい人で、同業で心が通じるものがあるのだろう。ベストの選択だ。もしヘソンと結婚したとしてもそれまでの環境が違いすぎて、感覚も違ってうまくいかないことだろう。お互い傷つけあってボロボロになって別れることになる。特にもしノラが韓国に行って嫁いだとしたら、さらに最悪だ。お互い大切に思い合って遠くにいるのがいい。
気になったのが、ヘソンが恋人との結婚について条件が整わないことを理由に取りやめようとしていることだ。条件なんか本当はただの理由で、相手のことを本当に好きならどうでもよくなるはずだ。何がなんでも手放したくないと思えないならどうしようもない。
ノラとヘソンが再会する時に着ていた服がすっごく気合が入っていない。こっちは人妻なんだから変な気を起こすなよみたいなことなのか。別れる時はスリットの入ったロングドレスみたいな魅力的な服だ。
最後のウーバーを待つ間、すっごく見つめっていてキスしろよと思ったがハグで終わった。しかしもしキスしようとして顔をそらされたら、その後のタクシーで顔を覆って悶絶するほど恥ずかしい。なのでハグでよかった。もしキスしようとして拒否られたらその後の人生ずっとそれを背負って生きなくてはならない。あの年でトラウマを背負うのはつらい。
大人だから、言葉にできないから、沈黙で。
名作だ。
クラシックだが古臭くはない、現代のかたちにして。
なんとも切ない、ほろ苦さ極まる作品だった。
しかし悲壮感はなく鑑賞後は温かい気持ちが心にのこる。
「今はもう大人」ノラが言う。
大人・・・? そう、大人だよ。
ほろ苦いというより、本作で描かれた大人の恋事情は二人の男性にとっては「水なしエスプレッソダブル」ぐらいの、超ビターな心境のはず。にもかかわらず、ああこのコクいいね、、こんな人生もあるよね、くらいに装うのだ。大人だから。クゥーッッ!まいったまいった!
ノラさんは夢を追いアーティスティックなキャリアを重ねていて、多分ヘソンの気持ちは気づいてても半分くらい。あんなことあったよね程度に、いい感じに過去化している。それに比べてメンズふたりの、まあ女々しいとは言わないが、ロマンチックなのはむしろオトコの方なのねと。自分の胸に手を当ててみると……さてどうでしょう?(^_^;)
ヘソン ⇔ ノラ ⇔ アーサー
この三人はあくまで点と線だけで繋がっていて、決して三角関係にはならないのだ。おとなだから。でも食事会のあとメンズ二人だけの(おそらくお手洗いでノラが席外した2~3分の出来事)超絶気まずいタイミングで、「良い」三角関係にしようと努力する姿が、何とも涙ぐましかった。オトナダカラなのだ~(T_T)
そんなこんなが終始、続いて悶絶するほかなしだ。
***
映画として上手いな、と思うところが多々あった。
ノラとアーサーは税関に説明することで。
ヘソンは友人たちとの居酒屋トークで。
12年で移り変わった環境、事情のご説明をサラッとやっつけてしまう。
だらだらと冗長・長尺な作品が多い昨今、こういった面は良き良き。
私がこの作品で最も素晴らしいと感じたところは、カメラワーク。
物語中盤あたりから…おや?これは…。シーン毎の切り取り方の綺麗さ「ムービージェニック」な表現に気づき、それからは最後まで美しいカメラワークに目を奪われていた。
ニューヨークのちょっとした街並み、風景や環境の切り取り方が、そのままフォトグラフィックな表現というか、NY写真展をみているかのような気持ちになれた。しかも、ただ綺麗というだけではなく、物語の進行にあわせ登場人物のそのときの心境を上手く切り取り、風景シーンに代弁をさせていたように感じた。
「さよなら」と子供時代のヘソン。
道が二手に分かれていく。これから巡り合うことは無いのかもしれない。
水たまりに逆さに映る赤信号が、何かの拍子で広がった水の輪にかき消されていく…
例だが、このような表現が作品内にたくさん散りばめられていた。
陰影も駆使していた。
セリーヌ・ソン監督、おそるべしである。
鑑賞後どうしても気になったので当サイトで調べると、この作品の映像はシャビアー・カークナー氏の撮影によるもので、『Small Axe』という作品では過去に撮影賞も受賞されたとのこと。Small Axeの予告編をみると、ウン、やはり以前からその腕前はあったのかなと想像がつく感じだ。
パストライブスでは是枝裕和監督の技法を参考に"スウィンギン・カメラ”という手法を駆使したらしい。なるほど、これにはとても納得した。
この作品を通じて上手に描かれていった、登場人物の心の機微の表現。
ラストシーンでは最高潮に達する。
***
ウーバーに乗るまでの沈黙。
横並びだった体の向きが、どちらともなく互いに正面を向く。
見つめ合いは無言。ただひたすらに、見つめ合い、何も言わない。
このあたりの表現、凄い。
ハグは、愛情のあるそれでなく、気持ちを圧し殺した友情のハグで。
キスは、しないか。そうだよな。この作品、どこまでも物語を陳腐にはさせない。
「来世でまた会おう」というヘソン。この台詞。言えるか~~!?
今が past lives(前世)ってことにして無理矢理、気持ちを抑えるヘソン。
ウーバーを見送り、アパートまで歩き戻るノラ。
戻るまで100歩とあっただろうか。
この、ほんの短い間、ヘソンの人生でもアーサーの人生でもない、ナヨン=ノラだけの時間。ヘソンの本当の想いを強く理解し、涙する。泣いたのは、泣き虫のナヨン?ノラは泣かないからね。
玄関先で待つアーサー。
ああ、やっぱり部屋にいられず見てたんだなアーサー。こちらも切ないのう。
一連の流れを歩道と平行してワンショットで追いきるカメラ…
素晴らしいね。
12年ごとに出会うけど、結ばれない。
12年前=前世のような表現、皮肉。
これがこの作品の最大のロジックか。
良い映画との出会いに感謝したい。
脚本が素晴らしかった
細部まで練られていて、象徴や観念の連続。
そこに景色も相まってとても美しかった。
オープニングから、あ、これは凄そう、
と思える感じがもうね、ベテランの手腕。
笑えるシーンも多いのですよ。
夫のアーサーが、まるで映画でアジアンカップルを邪魔する米国人だ
とか言ったり。
でも最後にはアーサーの懐がデカ過ぎて敬服しましたな。
ヘソンは、ノラにとっては「コリアン」というアイデンティティの
メタファーだったのかもしれないな、とも考えてしまった。
割と不思議な映画で、断片断片で自分の記憶を思い出したりしつつも
すごく集中してしまって、夢中になって見ていた。
脚本の妙が細部まで行き届いているからかな。
個人的には、ヘソンが切な過ぎてもう泣くに泣けない感じでしたよ。
あの24年ぶりの再会の日に待っている感じが本当に愛らしくて。
ノラにずるいなあと思いつつも、気持ちはわかるし。
バーで、ノラとヘソンに待たされるアーサーも切なかった。
待っている男はなんであんなに魅力的なんでしょうね。
no way to say goodbye
彼は忘れられない初恋の人の気持ちと今の幸せを確かめたかったのだろうか。
場合によってはあの時の2人に戻れるのかも知れないと感じたのだろうか。
ノラが住む雨あがりのNY。
12年前のSkype以来、36歳で再会しに来た24年前の幼なじみヘソン。
ほほ笑みながらさらりとヘソンにハグしたノラ。
数秒遅れてぎこちなく腕をまわすヘソンにみえる複雑な動揺と別々の長い時の流れ。
そしてノラの夫•アーサーはこの再会の運命の成り行きを静かに見守っているようにみえた。
ノラをただ信じようとしながら。
冒頭のバーのシーンが印象的に繰り返される。
ヘソンの韓国語にはノラを想う一途な気持ちがポロポロとこぼれるように表れる。
ノラは隣でうつむきがちに佇む夫を少し気にしながら時々おおまかな通訳で繋ぐ。
アーサーは言語の全てを理解できなくとも話の内容をつかんでいるようだ。
やはりノラを信じようとしながら。
前日、アーサーがノラに聞いた言葉
「彼は君が恋しかった?」を思い出す。
〝?〟は〝。〟だ。
ノラへの優しさで疑問形を使ったけれど、3人とも、いや彼を見ている誰もがはっきりとわかるほど〝。〟だ。
あの質問にノラはあっさりと答えてみせた。
ノラとヘソンの〝イニョン〟を感じとるほどに内心は不安でいっぱいなアーサーを安心させたいのと、自分自身に言い聞かせるかのように。
だからアーサーはこうしてノラを信じてみようとしているのだろう。
ソウルへ帰るヘソンとの別れ際。
ヘソンを見送りに行くノラ。
アパートでノラを待つアーサー。
このシーンを見守りながらいつかの自分の記憶がフラッシュバックする。
勝手に混ざり合う経験と想像で3人の気持ちは私の頭の中で膨らむ。
それはヘソンのスーツケースのタイヤと同じスピードでくるくるとまわり、最後の選択を待つ彼らの分岐点に一緒に辿り着く。
バーでの最後にアーサーと会話し気持ちが落ち着いたようにみえたヘソンだった。
自覚する立場の違いや、アーサーの人柄や夫婦の愛にも納得した。
しかしまだ燻るものが隠せないほどヘソンはノラが恋しいあの時のままなのだ。
ノラも何かを堪えているのが切ないほどわかる。
タクシーが来るまでの息がとまるような長い沈黙。
ゆらゆらとする気持ちが輪郭をはっきりさせ何度も溢れそうになるけれど、あの坂道の岐路の風景と同じくまた立ち尽くすだけの2人の〝イニョン〟。
そして、ヘソンの精一杯の問いかけに〝わからない〟と言ったノラ。
その強い瞳が本心を塞ぐように「さようなら」を告げた。
ノラを外で待っていてくれたアーサーは全てを理解してくれた。
彼の安堵とその愛の深さがノラを包みこむと感謝が涙になって落ちる。
それはさっきヘソンとの別れに我慢して流さないようにした涙とは違う種類の温かく優しいものだったと思う。
3人の織りなす〝イニョン〟。
私も思いがけず心の奥底にしまいこんでいたなにかを引っ張りだされた。
それを重ねながら行ったり来たりし胸をざわざわさせ、決して思うとおりばかりではない人生の余波の豊かさに浸かる。
味わう記憶を呼び覚ますような体験は年を経てなおのことなのかも知れない。
今日のこの世界もまた格別だった。
Past Lives(前世)は信じないけど「もしも、あの時、ああし...
Past Lives(前世)は信じないけど「もしも、あの時、ああしてたら」は考える。
「ヘソンは中国語よりも英語の勉強に方向転換すればよかったのに。そしてNYに行けば、、」と自分事の様に見入った。
しかし相変わらず「引きずる」のはだいたい男だ。
ノラ(ナヨン)は子供の頃泣き虫だったが、自分の道をしっかりと進み、実家暮らしのヘソンとは違い国境を越えアメリカで仕事をする。しかし元々のきっかけは両親の都合だ。もし両親が韓国から出なかったら、、、当時の韓国が芸術に対して閉鎖的でなかったら、、、
時代背景も面白い。
今作が長編映画監督デビューとなるセリーヌ・ソン(1988年 生まれ)が、12歳のときに家族とともに海外へ移住した自身の体験をもとにした映画らしい。
ほとんどの構図が、左側がヘソンで右側がノラになってて反転するシーンに意味があるそうな。
運命はタイミング
想い合っていた幼なじみ同士の再会のラブストーリー。ストーリーの要点はただそれだけで観ている時はちょっと退屈ですらあった。しかし不思議と観終わったあとは余韻が残り満足度はとても高かったです。
アカデミーの作品賞と脚本賞にノミネートされましたが、この作品もしかしたら10年前とかだったらあまり評価されなかったような気がします。今の価値観にとてもマッチした作品なのだと思いました。
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