正欲

劇場公開日:

解説

第34回柴田錬三郎賞を受賞した朝井リョウの同名ベストセラー小説を、稲垣吾郎と新垣結衣の共演で映画化。「あゝ、荒野」の監督・岸善幸と脚本家・港岳彦が再タッグを組み、家庭環境、性的指向、容姿などさまざまな“選べない”背景を持つ人々の人生が、ある事件をきっかけに交差する姿を描く。

横浜に暮らす検事の寺井啓喜は、不登校になった息子の教育方針をめぐり妻と衝突を繰り返している。広島のショッピングモールで契約社員として働きながら実家で代わり映えのない日々を過ごす桐生夏月は、中学の時に転校していった佐々木佳道が地元に戻ってきたことを知る。大学のダンスサークルに所属する諸橋大也は準ミスターに選ばれるほどの容姿だが、心を誰にも開かずにいる。学園祭実行委員としてダイバーシティフェスを企画した神戸八重子は、大也のダンスサークルに出演を依頼する。

啓喜を稲垣、夏月を新垣が演じ、佳道役で磯村勇斗、大也役で佐藤寛太、八重子役で東野絢香が共演。第36回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品され、最優秀監督賞および観客賞を受賞した。

2023年製作/134分/G/日本
配給:ビターズ・エンド
劇場公開日:2023年11月10日

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(C)2021 朝井リョウ/新潮社 (C)2023「正欲」製作委員会

映画レビュー

4.0そのひと、ひとりじゃなかったらいいね

2024年6月25日
Androidアプリから投稿

結局のところ、人は誰にも明かすことのできない嗜好があるのだと思う。そしてそれは説明できない類のものであることが多い。
わかってほしいのだけど、わかったふりはしてほしくない。ひっそりと自分の嗜好とともに世界の片隅で、息を潜めて行きて行くことが自分が傷つかずに済む方法だとわかってはいるのだが、「共感」「理解」の幻影に騙されて淋しさに押しつぶされそうになる。
自分だけが違うと思って生きている人も世間一般の常識で生きていると思っている人にもそんなに差はないと思う。「生きる」ことをどの角度から見ているかが違うだけ。でも手に持ってる「信頼」とか「愛情」とかってプラスのアイテムをいくつ持ってて、それがハイスペックなものかどうかで「生きる」ことは受け入れやすくもなるし、受け入れがたくもなる。生きにくさこそが普遍的なものかもしれない。
多様性を語ると実は答えはシンプルなものになるのではないだろうか。
生きていくうえでの苦しみや辛さはひとりで抱え込めないからオーバーフローしちゃう。
もし奇跡的に「同志」が見つかったときは、いなくならないでほしい。お互いに。
普通に生きていく事がほんとはレアなのだから。
集中力のある構成で、佳作だ。これは日本でしか作れないタイプの作品。

八重子役をされてた東野絢香がいいと思った。「貞子」感溢れる動きや仕草、眼差しが印象的。

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イズボペ

3.0「多様性」と言いながら一つの方向に導こうとするのは誰か

2023年11月11日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館
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ニコ

4.5今作られるべき映画

2023年11月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

発売当時に原作小説を読んで凄い作品だと思っていたが、まさか映画化されるとは思わなかった。この性的欲望に映像でいかに説得力を持たせるのか、この作品が描くものはシンプルなエロスではない。あまりにもレアで多くの他社に理解されないがゆえの苦悩を描く作品だが、まさに多くの観客にとって普通に提示されても理解が難しい題材だ。
現代社会のキーワードに「ポリティカル・コレクトネス(政治的な正しさ)」がある。ポリティカルとコレクトネスと2つの単語が構成されているこの言葉は、「ポリコレ」と省略されて使われることが多いが、2つの単語から成るものだと意識した方がいい。
コレクトネスという観点で本作を観ると、本作で描かれた人々を犯罪者扱いするのは「正しくない」はずである。しかし、ポリティカル(=政治)な議席の数には限りがある。全員がその椅子に座れるわけではない。政治を社会をスムーズに営むための統治で多数決を原則とするなら、多くの人が理解できない性癖の持ち主は排除されるべきとなりかねない。この作品に描かれたものは、ポリティカルとコレクトネスに引き裂かれており、この単語の矛盾を的確に指摘している。
多様な人間が暮らす現代社会は、多数決の原則で動かざるを得ない政治的な正しさだけでは包摂しきれない。だから、マイノリティは政治運動を展開し、政治的なパワーを得ようと努力してきたわけだが、現実問題として、どんな属性でも政治的なパワーを持つことが可能かというと、そんなことはないかもしれない。皆が平等になるのが正しいが、政治の椅子の数は決まっている。今作られるべき映画だったと思う。

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杉本穂高

4.0透明感のある生々しさ。現代社会を捉えたひとつの写し鏡として。

2023年11月26日
PCから投稿

不思議な、得体の知れない手触りを感じさせる作品だ。透明感のある生々しさは「水」のイメージからくるものだろうが、水と言っても、澄み切ったものから濁りきったもの、澄んでいるけれど危険なもの、さらには性的なものまで実に様々だ。おそらく我々はこの「かっこ」的な部分に自分なりの様々な要素を当てはめて捉えることができる。「自分を理解してくれる人なんて誰もいない」という孤独感や、同じ嗜好性を持った誰かと奇跡的に出会うことの喜び(およびその反作用)は何も今に始まったことではないが、しかし本作はあえてギリギリの淵に立った者たちの繋がりに焦点を当てる。その上で、共に気づきや安らぎを重ね、いつしかふと相手を愛おしいと感じたり、守りたいと感じたり、つまりは知らぬ間に壁が融解し、「私」が「私たち」となっていく過程に寄り添おうとする。新垣の徐々に変わりゆく表情に心奪われる。それは対極的な軸を担う稲垣においても同様だ。

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牛津厚信