劇場公開日 2022年9月9日

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人質 韓国トップスター誘拐事件 : インタビュー

2022年9月7日更新

ファン・ジョンミンに“ファン・ジョンミン役”を演じてもらった理由は? 「人質」監督が明かす裏話

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韓国では主演作の累計観客動員が1億人を超える“1億俳優”と称されているファン・ジョンミン。「ベテラン」「哭声 コクソン」「アシュラ」等々、ヒット作は数知れず。そんな実績を備えたトップスターが“自分自身を役として演じる”。

このセンセーショナルな設定が話題となっているのが、韓国映画「人質 韓国トップスター誘拐事件」だ。

記者会見からの帰宅途中、突然拉致・監禁されてしまったファン・ジョンミン。彼を誘拐したのは、ソウルを震撼させている猟奇殺人事件を起こした凶悪集団だった。大スターの誘拐にも関わらず、証拠、目撃情報はなし。パイプ椅子に縛りつけられ、身動きはとれない。警察や関係者が懸命に行方を探すなか、ファン・ジョンミンは唯一の武器である“演技力”で犯人たちと対峙する……という内容のフィクションが展開していく。

監督を務めたのは、新鋭ピル・カムソン。実際に起きた“俳優誘拐事件”を題材としたドキュメンタリー番組を視聴したことで、本作の着想を得ている。では、どのようにして「ファン・ジョンミンが、ファン・ジョンミンを演じる」という奇抜なアイデアへと結びついていったのだろう。オンラインでのインタビューを通じて、製作秘話を明かしてくれた。


ピル・カムソン監督
ピル・カムソン監督

――まずはピル・カムソン監督のキャリアについてお伺いさせてください。どのような経緯を経て、映画業界を目指し、監督になろうと思ったのでしょうか?

私は伝統的なコースを踏んで映画監督になったケースだと言えます。高校生の頃から映画監督になりたいと思っていたので、オーストラリアの大学で映画を専攻しました。その後、映画学校(シドニー・KVBカレッジ、韓国・東国大学)を卒業し、映画の助監督を経験して、短編映画を作り、そして今回、長編映画まで作ることになりました。韓国で映画監督になるための伝統的なコースです。

――ファン・ジョンミンさんが実名で出演しているという点が、大きな話題となりました。シナリオ執筆の段階から構想していたアイデアだそうですが、なぜファン・ジョンミンさんにオファーしようと思ったのでしょうか? 俳優としての魅力とともに教えてください。

ファン・ジョンミンさんにぜひ出演していただきたい――そこには、3つの理由がありました。

まず、ひとつ目の理由ですが、本作の主役はずっと縛られたまま演技をしなければなりません。その状態で恐怖や強さを見せ、幅広い感情を一番うまく表現できる俳優といえば……私にとってはファン・ジョンミンさんが第1候補でした。

2つ目の理由は、アクション演技がうまいからです。映画の後半にアクションシーンがあります。劇中では、ファン・ジョンミンさんは俳優でもありますが、一般人でもあるので、アクションシーンがうますぎてはいけません。アクション俳優のようには見えないけれども、ある程度、アクションがうまくなければいけない。そんな俳優が必要だったのです。その点でもファン・ジョンミンさんが適役でした。

3つ目の理由は、監督としてファン・ジョンミンさんの新しい姿を引き出したいという欲があったからです。これまでファン・ジョンミンさんはヤクザや検事や警察など“強いマッチョな役”が多かったのですが、私が知る限り、誘拐事件の被害者のような“弱いキャラクター”はあまり演じたことがなかったと思います。そのような新しい姿を引き出したいと思いました。

私が考えるファン・ジョンミンさんの俳優としての最大の魅力は、私たちがこれまで思ってきた、あるいはネットで見てきた姿と、実際の姿が同じだということです。そこに違いはありません。とても率直で、思ったことを包み隠さずに話す情熱的な方です。

仕事をする時は誰よりもプロフェッショナル。演じる際の息の音ひとつまで、すべてを準備してくる、そんな姿もファン・ジョンミンさんの大きな魅力のひとつです。撮影しながら、勇敢なアーティストだと思いました。

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――ファン・ジョンミンさんは、シナリオに対して「自分だったらこうする」と意見を述べられていたそうですね。

ファン・ジョンミンさんの意見を反映した部分は、いくつもあります。当初、ファン・ジョンミンさんは本人役を難しく考えていました。なぜなら、本人が持っている“本来の姿”があるからです。それがどのような姿なのかは、私にはわかりません。しかし、本作には、私が考える「ファン・ジョンミンならこうするだろう」という姿があります。さらに観客が考える「ファン・ジョンミンならこうするだろう」というイメージもありますよね。それら“3つのファン・ジョンミン”をうまく混ぜ合わせる必要がありました。どれひとつとしてニセモノに見えてはいけませんから、その点については話し合いを重ねました。

例えば、コンビニの前で誘拐犯と接触するシーン。私が考えるファン・ジョンミン像に対して、ファン・ジョンミンさんは「いや、自分だったら、ここではこうはしない」と言うわけです。そこで「じゃあ、どうしますか」と聞いたところ「自分だったら、すぐに相手を罵倒する」と答えました。私が書いたシナリオでは「ただ(相手を)避ける」という描写でした。「誘拐犯に対して怒りを感じるが、感情を抑えながら避ける」と書いていたのですが、ファン・ジョンミンさんは「僕はすぐに罵声を浴びせる。ケンカをするかもしれない」と言ったのです。その意見を聞いて、私は「そのシーンで、ケンカはダメですね」と。そのように話し合いながら、新しい描写を模索する作業をよくしていましたし、アイデアもたくさん出してくださいました。

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――現在人気を博しているイ・ユミさん(「イカゲーム」「今、私たちの学校は…」)、リュ・ギョンスさん(「梨泰院クラス」「地獄が呼んでいる」)が出演されていますが、元々は「ファン・ジョンミンさん以外は、実力はあるが知られていない俳優をキャスティングする」という意図があったそうですね。重要な企画意図だったそうですが、何故でしょうか?

2つの理由があります。

1つ目は、ファン・ジョンミンさんがファン・ジョンミン役で登場するため、他の有名な俳優が出てはいけないという設定だったからです。他の有名な俳優が出てしまうと「なぜファン・ジョンミンだけが本人役で、他の俳優はそうではないのか」という疑問が生じてしまいます。そうすると、映画として、つじつまが合わなくなるため、他の俳優は新人にする必要がありました。

2つ目の理由は、演出者として常に新しい俳優と仕事をしてみたいという欲望があるからです。有名人が誘拐されるというモチーフは、それほど新しくはありませんよね。しかし、ファン・ジョンミンさんが本人役で登場するというのは新鮮です。また、私だけでなく、ファン・ジョンミンさんにも、これまで見たことのない、実力のある新人俳優を見つけようという意欲がありました。そうはいっても、私だけが希望してできることではありません。幸いなことに、製作会社がそのアイデアを気に入ってくださって、ファン・ジョンミンさんも積極的に賛成してくれたことで実現することができました。

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――撮影前、ファン・ジョンミンさんと誘拐犯を演じた俳優陣は、3週間のリハーサルを行ったそうですね。具体的にどのようなことを行ったのでしょうか?

先ほどもお話ししたように、本作では、実力はあるけれども、あまり知られていない俳優をキャスティングしています。ですが、彼らは、ファン・ジョンミンさんほど経験豊富ではありません。私も長編映画は初めてだったので、皆で集まって一緒にたくさん練習しようと約束しました。

練習室を借り、そこに演劇の舞台のように椅子を一脚置いて、私がファン・ジョンミン役として参加するつもりでした。そのような形で練習を始めようと思ったのですが、そのことを聞きつけたファン・ジョンミンさんが「一体どういうことだ? 僕がファン・ジョンミンなんだから、僕と一緒に練習しないとダメだ」と仰ってくれたんです。積極的に練習に参加してくださって、本当にありがたかったです。

最初はシナリオを読むことから始めて、それから動線もすべて決めていきました。その過程で新人俳優とファン・ジョンミンさんが親しくなり、お互いに気持ちが通じ合ったことで、撮影時間を短縮できました。これが、何よりも大きな成果です。もしリハーサルを行わずに撮影に臨んでいたら……新人俳優たちは気後れして緊張してしまい、撮影が大変になっていたと思います。リハーサルは、大きな助けになっていました。

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――ファン・ジョンミンさんは、完成した作品を観て、どのような感想を述べていましたか?

ファン・ジョンミンさんは、記者の皆さんと一緒に、マスコミ試写で完成した作品を初めてご覧になったんです。かなり緊張されていました。緊張しているファン・ジョンミンさんの姿を見るのは、その時が初めてでした。どのような作品に仕上がっているのかわからなくて緊張していたのでしょう。私は普段緊張するタイプではありませんが、その姿を見て、思わず緊張してしまいました。

「ファン・ジョンミンさんが気に入らなかったらどうしよう……」と心配していましたが、映画を見終わって、一緒に映画館を出た時、とても喜んでいらっしゃいました。感想を聞いたところ「すごく面白いよ」と仰ってくれたのが嬉しかったです。それが「人質 韓国トップスター誘拐事件」を作ってきたなかで、最も嬉しかった瞬間でした。

その日の夜、お電話もいただきましたね。「周りの皆が、僕の演技がよかったと褒めてくれた。だから『じゃあ、今までの演技はイマイチだったのか?』と聞き返した」と冗談も仰っていました(笑)。「ありがとう。感謝している」と仰ってくれて、本当にありがたかったです。

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――「生き残るための3つの取引」「ベテラン」でファン・ジョンミンさんとタッグを組まれたリュ・スンワン監督が製作に名を連ねています。何かアドバイスを受けましたか?

リュ・スンワン監督は、製作者である以前に、素晴らしい監督ですよね。ご本人が監督だからこそ、私にとってプレッシャーになるのではないかと気遣って、あえてアドバイスをしないようにしていたようです。でも、私が気になることがあって尋ねると、いつも積極的に助言してくださいました。私にとっては、大きな味方を得たようで心強い存在でした。

リュ・スンワン監督は、ファン・ジョンミンさんと何本も作品を撮ってきたので、とても助けになりました。ファン・ジョンミンさんは、現場で意見やアイデアをたくさん出す方なので、監督の立場としてはプレッシャーを感じることもあります。主演俳優が自分の意見をはっきりと言うわけですから。でも、リュ・スンワン監督は「それを恐れる必要はない。なぜかと言えば、僕に対してもそうだから、全く心配しなくていい。むしろ、それを楽しむように」と話してくださいました。その言葉がとても大きな助けになったんです。

――最後に、今後の展望についてお聞かせください。

次の作品は、シリーズ物になります。まだ発表はしていませんが、ジャンルはスリラーで、テレビシリーズを撮る予定です。

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