聖地には蜘蛛が巣を張る

劇場公開日:

聖地には蜘蛛が巣を張る

解説・あらすじ

「ボーダー 二つの世界」の鬼才アリ・アッバシ監督が、イランに実在した殺人鬼サイード・ハナイによる娼婦連続殺人事件に着想を得て撮りあげたクライムサスペンス。

2000年代初頭。イランの聖地マシュハドで、娼婦を標的にした連続殺人事件が発生した。「スパイダー・キラー」と呼ばれる殺人者は「街を浄化する」という声明のもと犯行を繰り返し、住民たちは震撼するが、一部の人々はそんな犯人を英雄視する。真相を追う女性ジャーナリストのラヒミは、事件を覆い隠そうとする不穏な圧力にさらされながらも、危険を顧みず取材にのめり込んでいく。そして遂に犯人の正体にたどりついた彼女は、家族と暮らす平凡な男の心に潜んだ狂気を目の当たりにする。

ザーラ・アミール・エブラヒミがジャーナリストのラヒミを熱演し、2022年・第75回カンヌ国際映画祭で女優賞を受賞。

2022年製作/118分/R15+/デンマーク・ドイツ・スウェーデン・フランス合作
原題または英題:Holy Spider
配給:ギャガ
劇場公開日:2023年4月14日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第75回 カンヌ国際映画祭(2022年)

受賞

コンペティション部門
女優賞 ザーラ・アミール・エブラヒミ

出品

コンペティション部門
出品作品 アリ・アッバシ
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(C)Profile Pictures / One Two Films

映画レビュー

4.5“無自覚な加害者”になっていないか。この問いは日本人にも他人事ではない

2023年4月15日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

怖い

知的

イランのマシュハド市は首都テヘランに次ぐ同国第2の大都市で、イスラム教シーア派の聖廟に多数の信徒が訪れる巡礼地でもある。日本の都市にたとえるなら、大阪市と京都市を足して2で割った感じだろうか。そんなマシュハドで2000年から2001年にかけて実際に起きた娼婦連続殺人事件に着想を得たドラマ映画だ。

監督・共同脚本のアリ・アッバシは、2018年の前作「ボーダー 二つの世界」(カンヌ国際映画祭ある視点部門でグランプリ受賞)で国際的な名声を博した。イラン出身のアッバシは、2002年から留学してスウェーデンで建築学を、デンマークで映画の演出を学び、以降はデンマークを拠点に活動している。事件当時まだイランに住んでおり、16人もの女性を殺害した犯人サイード・ハナイが一部の市民や保守派メディアから英雄として称えられたことに違和感を覚え、いつかこれを題材に映画を作ろうと思ったという。

映画は2つの視点で構成される。第1は、聖地で売春を行う女性たちを汚らわしい存在とみなし、「街を浄化する」という使命を自らに課して、客を装い娼婦を自宅に招き入れて殺害する犯行を重ねていくサイードの視点。原題の「Holy Spider」に比べて邦題の「聖地には蜘蛛が巣を張る」はかなり説明調だが、男が自宅(=巣=罠)に獲物を誘い込んで命を奪う手口から、実際の事件の報道でも犯人は“蜘蛛”に例えられていたのだとか。本編を注意深く観るなら、序盤に映る夜の街の俯瞰ショットで、モスクのある中心部から放射状と同心円状に広がる街路と建物の明かりで浮かび上がる夜景が、まさに蜘蛛の巣ように見えることに気づくだろう。

そして第2は、女性ジャーナリストのラヒミの視点。彼女はある事情でテヘランの大手報道機関の前職を解雇され、進行中の連続殺人事件を追うためマシュハドを訪れている。ラヒミ役のザーラ・アミール・エブラヒミはイラン出身の女優で、2000年代に同国のテレビドラマなどで人気を博するも、06年に元交際相手と彼女の性行為を撮影したものだとされる動画が流出してスキャンダルに。エブラヒミに非がない上に動画の真偽も定かでないにも関わらず当局から収監されるリスクが生じ、08年にイラクを脱出してパリに移住(後にフランスの市民権を得ている)。こうしたイランでの理不尽な処遇が、演じたラヒミ役の過去やマシュハドでの被差別的なエピソードに反映されている。

本作で描かれているのが、日本とは別世界のイスラム圏で起きた異常な連続殺人事件の話だと決めつけてしまうと、貴重な教訓を得る機会を失うことになる。男尊女卑、ミソジニー(女性嫌悪)がまかり通る社会で、16人の娼婦の命を奪ったサイードは、一部の市民から、また妻子から英雄視された。令和の日本から眺めたら確かに異常だと感じられるが、では半世紀前の昭和の時代、さらにさかのぼって戦中・戦前の男女格差や、性的・人種的マイノリティーに対する差別はどうだったか。つまり、倫理観や道徳観は地域や時代で移り変わる相対的なものであり、たとえば現在の常識で当たり前だと感じる他者への言動であっても、また時代が変われば攻撃的だとか暴力的などとみなされる行為と断じられる可能性だってあるということ。世の中がそうだから、みんながやっているからということを行動の基準にすると、無自覚な加害者になってしまうリスクを避けられない。正義だと思ってやっていることに、もしかしたら加害性があるのではないかと、疑ってかかること。「聖地には蜘蛛が巣を張る」にはそんな問いかけが含まれている。

コメントする 1件)
共感した! 22件)
高森 郁哉

4.0事件が辿る異様な展開に震撼させられる

2023年3月31日
PCから投稿

かつて北欧映画「ボーダー」を観た時の胸騒ぎが忘れられない。周囲との距離感、はたまた自分は異質な存在なのではないかという疑念はイランを舞台にした本作(内容は全くの別物だが)でますます顕著化しているかのようだ。もともとイランで生まれ、大学で学ぶために北欧での生活を始めたアリ・アッバシ監督にとって、二つの領域の間で揺れる日常は極めて身近なものだったはず。そんな彼が二十歳前後だった2000年初頭、母国で起こったのがスパイダー・キラー事件だという。このクライムサスペンス映画が特殊なのは、娼婦をターゲットに殺人を繰り返す犯人の素顔を最初からはっきりと写しつつ、そこに女性記者の奮闘をも描きこむところ。そうやって浮かび上がるのは、女性への文化的、宗教的抑圧の状況だ。単なる犯罪劇を超えた異常事態が蜘蛛の巣の如く社会へ広がっていく様に震撼させられる。リスキーな役柄に身を投じた主演二人の演技も実に見応えがある。

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共感した! 7件)
牛津厚信

4.0厳しい現実

2025年6月15日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

社会問題を取り上げたクライムサスペンス
実際にイランで起きた事件を元に作られた物語
あの「ボーダー」の監督の作品らしい作品だった。
しかしこの作品が問う人間の根源的な部分は、おいそれと答えは導き出せない。
特に最後にラヒミがバスの中で見ていた映像
サイードの息子の映像
あの世界観
さて、
正義とは何だろうか?
この正義なるものは国や文化の違い、そして戦時中か平和な世界家でも大きく違ってくる。
この背景にあるのが宗教だろう。
宗教という異常な思考
イエスやムハンマド、ブッダなど、そもそも宗教という概念など持っていなかったのだろう。
それを経典として文字にして、地獄を盾に人々から自由意志を奪い、人々を支配してきたのが宗教ではないのか?
戒律の厳しい宗教ほどその傾向が強く、そこにあるのは人ではなく神で、そもそも人のことなど二の次の癖に戒律を守らない人を弾圧する。
サイードは彼らの世界の象徴だ。
彼のしたことが正しいと認識し、それが世論となっている。
つまり、
この世界に正しいことなど何もないということもできる。
それはその宗教とか文化によって決められてしまうものだからだ。
正義とは、宗教や文化などの背景によって左右されるものなのだ。
ただし、
人は皆共感することができる。
この共感はいったいどこから来るのだろうか?
自分の経験 そして常日頃から考えていること 哲学的な問いやこの世の理
こうありたいと思う心
または他人の言動への反射 反感
この共感と反感があるのであれば、人は皆その全てを持っていることになる。
そこにあるのは「選択」だけなのかもしれない。
さて、、
物語の世界、2000年ごろのイラン
そして2003年3月20日 アメリカのジョージ・ブッシュ大統領は、「イラクが大量破壊兵器を保有している」との理由で、イギリスなどと共にイラクへの軍事攻撃(イラク戦争)を開始した。
この物語に隠されているこの史実
大量破壊兵器など何一つ出てこなかったことと、65万人のイラン人がアメリカ軍によって殺されている事実がある。
そして何食わぬ顔で生きている。
この部分があることで、この作品に描かれているイランという国を色眼鏡で見てしまう。
あの「君は行く先を知らない」の世界もまたイランだった。
戦争によって、アメリカによって変えられてしまった国だともいえる。
その結果、貧困が生じ、娼婦が登場したのではないのか?
娼婦が宗教上の問題という体で裁かれるよりも、その根幹となっている貧困層への取り組みこそ、聖職者なる者たちの仕事なのではないのか???
どこもかしこも腐っているのは間違いない。
しかし、
この作品は「現実」という枠としては非常に公平に作られているように見えるが、本当の問題点を露呈したのかどうかという是非は残ってしまったように思った。
世界にあるこのような現実
私は宇宙に問う。
「もっと宇宙と同調した世界になってくれ」

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共感した! 0件)
R41

4.0スパイダーキラー

2025年6月15日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

ホラーじゃないから怖い。犯行の手口がリアルで恐ろしい

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ゆうき