母の聖戦
劇場公開日:2023年1月20日
解説
誘拐ビジネスが横行するメキシコを舞台に、我が子を取り戻すべく奔走する母親の姿を、実話をもとに描いた社会派ドラマ。
メキシコ北部の町で暮らすシングルマザーのシエロは、10代の娘ラウラを犯罪組織に誘拐されてしまう。犯人の要求に従って身代金を支払うも娘は返してもらえず、警察にも相手にされない。自らの手で娘を救うべく立ち上がったシエロは、軍のパトロール部隊を率いるラマルケ中尉と協力関係を結んで調査していく中で、誘拐ビジネスの血生臭い実態を目の当たりにする。
製作陣には「ある子供」のジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟監督、「4ヶ月、3週と2日」のクリスティアン・ムンジウ監督、「或る終焉」のミシェル・フランコ監督が名を連ね、ルーマニア出身のテオドラ・アナ・ミハイが長編劇映画初メガホンをとった。2021年・第34回東京国際映画祭コンペティション部門では「市民」のタイトルで上映され、審査員特別賞を受賞。
2021年製作/135分/G/ベルギー・ルーマニア・メキシコ合作
原題:La Civil
配給:ハーク
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2023年2月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
誘拐犯罪が日常的にはびこっているメキシコで、娘を誘拐されたシングルマザーが単身で犯罪組織と相対していくプロセスを徹底したリアリズムで描く作品。カメラは終始、主人公の母親を捉え続け、観客は母親と一緒に何が真実なのかを探ることになる。警察が信用できないだけでなく、身内をも信用できない。通りかかった軍に協力を要請して、主人公は犯罪組織の実態に迫っていく。
主演のアルセリア・ラミレスが本当にものすごい存在感で、平凡なシングルマザーが驚異的なまでに精神的な強さを見せて、闇の深い犯罪組織の実態を暴いていく。この映画は元々、ドキュメンタリーとして制作しようとしていたらしいが、あまりにも危険な現実を映し出すため、ドキュメンタリーでは難しいと判断されたらしい。徹底したリアリズム描写は、劇映画とはいえ偽物ではない、あまりにも強烈な現実に打ちのめされる。
2023年1月20日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会
メキシコでは身代金目当ての誘拐が横行し、被害家族の大多数は組織からの報復を恐れて泣き寝入りするという。そんなメキシコを舞台に、娘を誘拐された母シエロが自らの手で取り戻そうと奔走する。別居中の夫も、警察も頼りにならない。素人探偵よろしく誘拐に関わっていそうな一味を尾行したりするが、当然限界があり、軍のパトロール部隊に直談判して協力を取りつけ、誘拐ビジネスの闇に迫っていく。
BGMを排し、カメラはシエロの視点で彼女の感情と会話、行動をストイックに追う。主演女優アルセリア・ラミレスの起伏に富む感情表現が素晴らしく、精細感が高く巧みにコントロールされた映像も相まって、娘を案じる母の命懸けの戦いに観客もまた飲み込まれていく。
本作で長編劇映画デビューを果たした女性監督のテオドラ・ミハイは、チャウシェスク独裁政権下のルーマニアで生まれ、のちにベルギーに拠点を移す。市民同士が監視して告発しあい誰も信頼できない社会で育ったこと、米国留学でメキシコをルーツとする友人たちができたこと、メキシコを訪れた際に麻薬戦争が起きて市民の日常が危険にさらされるのを目の当たりにしたことなどが、本作の製作につながったという(共同で脚本も書いている)。
思えば、ゴルシフテ・ファラハニがISの捕虜になった息子を救出するために戦う母を演じた「バハールの涙」も、女性のエバ・ユッソンが監督していた。“我が子のために戦う母”の映画を通じて、女性の連帯が広がり強まっているようで心強く、頼もしく思う。
「ボーダーライン」シリーズ2作や、ドキュメンタリー「ミッドナイト・ファミリー」など、メキシコ社会の現実を題材にした作品を楽しめた人なら、特におすすめだ。
2023年2月22日
Androidアプリから投稿
マフィア国家を読んでいたから、メキシコの麻薬と誘拐ビジネスは絵空事ではないことを理解していたが、本当にひどい。
軍隊が動いて、かろうじて、法治国家のていをなしているようだ。
音楽のない静かな哀しみ。
2023年2月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
こりゃ、色んな意味で容赦ない一作です。
そして、実話がベースってことに驚きです。本作のベースとなっている実話をかいつまんで読んだだけですが壮絶でした。メキシコって国の現状や主人公が歩んだ道が。それらを痛みを感じる映像と音でこれでもか!の迫力で見せ切ってくれる作品でした。
エグい展開、ハードな描写、誇張されているわけではないのでしょう。庶民が巻き込まれる犯罪がある日常。容赦無い暴力と不条理な世界。もう鬱々とします。特に音の演出が素晴らしかったのでは?と思います。暴力的なんですよね。情け容赦なく主人公に襲いかかり、巻き込まれていく望んでいない現実を、無機質に、痛みを感じるほどに伝えてくれます。非力な庶民から見える無慈悲な現実を突きつけてくれます。ドキュメンタリータッチの映像と相まって主人公と同じような感情になっていくような思いに駆られます。途中、怯えちゃってる自分がいました。見事です。
また、どこまで事実かわかりませんが(モデルとなった女性のエピソードとは異なる事実を織り交ぜたのかな?)とにかく心が休まる時間がないのです。それは、主人公が住んでいた環境がそれを許さなかったから?と思います。映画作品ではありますが、ほぼドキュメンタリーといっても良いのではないかなぁ?なんて思ったりもしました。・・・マジでメキシコ行きたくないし、旅行を考えている人いたら全力で止めたくなりました。
そしてサイドストーリーのように登場人物が語る昔話(カーブで転倒したトラックの荷物の話)にハッとさせられます。一般市民を犯罪に巻き込む状況を作ったのは一体何だったのか?と。そう、本作はヒロイックな物語ではなく、国の問題点を描く作品です。1年に6万件の誘拐事件が発生しているのは麻薬カルテルへ仕掛けた戦争、取締強化の副産物。犯罪を認めたくはないがバランスというものを崩した時にその皺寄せは生まれるのでしょうね。根絶やしにする覚悟がなければ手を出してはいけなかった領域だったのかもしれないです。しかし答えは全くわかりません、きっとないのでしょう。人間社会は善悪のバランスの形を変えながら進んでいくのだと思います。メキシコの一般市民が悲しい思いをしなくて良いバランスができることを祈りたいです。
本作のラストシーンは作り手の思いだったのかな?
ただ、モデルとなった女性の人生を考えると・・・・もしかしたらそこから?・・・って気になり気持ちが落ち込みます。あの柔らかい表情はこれからの安堵なのか?諦めなのか?
見て損無しの一作です。