モーリタニアン 黒塗りの記録

劇場公開日:

モーリタニアン 黒塗りの記録

解説

悪名高きグアンタナモ収容所に収監されたモーリタニア人の青年と、彼を救うべく奔走する弁護士たちの姿を、実話を基に描いた法廷サスペンスドラマ。モハメドゥ・ウルド・スラヒの著書「グアンタナモ収容所 地獄からの手記」を題材に、「ラストキング・オブ・スコットランド」のケビン・マクドナルド監督がメガホンをとった。弁護士のナンシー・ホランダーとテリー・ダンカンは、モーリタニア人青年モハメドゥの弁護を引き受ける。アメリカ同時多発テロに関与した疑いで逮捕された彼は、裁判すら受けられないまま、拷問と虐待が横行するキューバのグアンタナモ米軍基地で地獄の日々を送っていた。真相を明らかにするべく調査に乗り出すナンシーたちだったが、正義を追求していくうちに、恐るべき陰謀によって隠された真実が浮かび上がる。ジョディ・フォスターが敏腕弁護士ナンシーを演じ、第78回ゴールデングローブ賞で助演女優賞を受賞。軍の弁護士ステュアート中佐をベネディクト・カンバーバッチ、モハメドゥを「預言者」のタハール・ラヒム、テリーを「ダイバージェント」シリーズのシャイリーン・ウッドリーが演じた。

2021年製作/129分/G/イギリス
原題:The Mauritanian
配給:キノフィルムズ
劇場公開日:2021年10月29日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第78回 ゴールデングローブ賞(2021年)

受賞

最優秀助演女優賞 ジョディ・フォスター

ノミネート

最優秀主演男優賞(ドラマ) タハール・ラヒム
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映画レビュー

3.5黒塗りの原作のすごさ

2021年11月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

本作の原作は、この映画でグアンタナモに収監されるスラヒさん本人の手記だ。本編中に、その手記を書くシーンが出てくる。政府の検閲によって黒ぬりにされてしまうという描写があるが、実際に出版された本も黒塗り状態になっている。日本語版も発売されているので、是非原作と本作を比較してみてほしい。
本作の主人公は、ジョディ・フォスター演じる弁護士、ナンシー・ホランダーだ。原作には彼女は登場しない。グアンタナモでの過酷な日々を綴った手記なのだから、当然だが、その手記をそのままストレートに映画化しなかったのはなぜなのだろうか。やはり、アメリカの恥部はアメリカ人によって暴かれたというストーリーを必要としたのだろうか。もちろん、ホランダー氏がスラヒさんの解放のために尽力したのは事実なのだが。
今年はタリバン政権の復活もあり、この20年間のテロとの戦いの正当性が揺らいだ年だ。その年にこの映画が公開されたことは意義のあることだ。そして、できれば、原作も一緒に読んでほしい。スラヒ氏の真の崇高さや強靭な精神性とフェアさは原作にこそある。

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杉本穂高

4.0権力の闇、人道の危機、不屈の信念。日本にとっても他人事ではない

2021年10月31日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

怖い

知的

9.11の後、米軍のグアンタナモ収容所でひどい拷問や虐待が行われていたことは日本でもひところ大きく報じられたので、名称ぐらいは覚えている人も多いだろう。本作の主要人物の1人、モーリタニア人(=モーリタニアン)の青年モハメドゥ(タハール・ラヒム)は、同時多発テロに関与した容疑で逮捕され、同収容所に送られる。これはモハメドゥの手記と関係者の取材に基づく実話ベースのドラマだ。

裁判も受けられないまま長期間拘禁されているモハメドゥをプロボノ(公共善のため無報酬)で弁護することになるのが、人権派の弁護士ナンシー(ジョディ・フォスター)。一方、軍属の検察官ステュアート中佐(ベネディクト・カンバーバッチ)は、「モハメドゥをテロ首謀者の死刑第1号にすべく起訴せよ」と命じられる。

カンバーバッチが出てきたあたりで、有罪にしたい検察側と無実を訴える弁護側が争うありがちな法廷劇かとも思ったが、ほどなく早合点だと気づく。ステュアートは、調査に着手して早々に供述書などの資料に不審を抱き、軍属の立場よりも法律家でありキリスト教信者である自身の心の声に従い、真実を求めていくのだ。

ストーリーはこの3人の視点で語られるが、ナンシーとステュアートという、立場は違えど不屈の信念で公正さを貫こうとする2人の法律家の奮闘はリアルタイムで描かれる。一方、モハメドゥのパートは主にナンシーが受け取った手記に基づく回想シーンとして、4:3のスタンダードサイズで区別すると同時に、横幅の狭い画面比率で理不尽にとらわれの身となった閉塞感を強調してもいる。

この劇映画は製作面の主に2点で、公正さを確保できているように思う。第1に、弁護側のナンシーも検察官のステュアートも実在の人物であり、双方から脚本作りの段階で話を聞いていること。つまり、片方の立場から一方的な主張をするプロパガンダではないということだ。

第2は、本作がイギリス映画であること。カンバーバッチが共同経営者を務める英製作会社SunnyMarchが映画化権獲得に動き、監督のケヴィン・マクドナルドも英国人だ。もしハリウッド製作だったら、米軍の黒歴史に光を当てる映画を果たして客観的に作れたかどうか。米主導の対テロ戦争では、ブッシュとラムズフェルドが「大量破壊兵器」の大嘘で始めたイラク戦争に、当時の英ブレア政権が参戦したのは不当だったと、のちに英調査委員会が結論づけた。英国人なりの贖罪と名誉挽回の意識が、カンバーバッチたち製作陣にあったのではないかと想像する。

それにしても、本作を観て痛感するのは、強大な権力を持つ組織が個人の人権を蹂躙する構図という、悲しき普遍性だ。森友学園をめぐる公文書の改竄を指示された財務局職員の赤木俊夫さんが自殺した事件。在留資格を失ったスリランカ人ウィシュマ・サンダマリさんが収容された名古屋入管で死亡した事件。ブラックな労働環境で精神を病んだり自殺したりする人も大勢いる。人権を侵害され、非人道的な扱いを受けた人たちや遺族に対し、公正で誠実な対応がなされない社会でいいのだろうか。日本で生きる私たちにとっても、他人事ではない。

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高森 郁哉

5.0「なぜゴールデングローブ賞受賞の本作がアカデミー賞でスルーされたのか?」という理由を考えてしまうほど【必見】と思える作品!

2021年10月29日
PCから投稿

本作は、今年の第78回ゴールデングローブ賞で主演男優賞と助演女優賞にノミネートされ、ジョディ・フォスターが見事に受賞しています。監督はドキュメンタリーに定評がありアカデミー賞作品でも知られるケヴィン・マクドナルド。「ブラック・セプテンバー 五輪テロの真実」でアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞し、「ラストキング・オブ・スコットランド」では、主演のフォレスト・ウィテカーが、アカデミー賞を含め、その年のアメリカの主要映画賞の主演男優賞をほぼ独占しました。
それ故に、徹底的にリサーチし、映画の始まりには「This is a true story」と、あえて通常の「based on a true story」となっていないところが実に意味深です。

さて、本作の弱さをあえて挙げると、タイトルの意味がピンと来ない、という事でしょう。これは、私も同感で、だからこそ映画を見て初めて驚愕の真実を知る事ができるようになっているのです!
まず「モーリタニアン」とはアフリカの地名で、そのモーリタニアン出身のモハメドゥ・スラヒが2001年の9.11の2か月後にアメリカ政府にテロの首謀者の1人として拘束されます。
テロリストを擁護しようとは思いませんが、もし彼が全くの事実誤認で拘束され、キューバに作られたアメリカの収容所で自供の強要などを無理矢理させられていたとしたらどうでしょうか?

まさに、2015年に【検閲によって黒く塗りつぶされたモハメドゥ・スラヒによる「手記」】が出版され、衝撃が起こり、たちまちアメリカではベストセラーとなるなど大いに話題となり、問題視されるようにもなります。しかも、この時点でモハメドゥ・スラヒはまだ収容所に拘束されている状態です。一体、何が起こっていたのでしょうか?
「これこそ映画にすべき題材だ」と本作のプロデューサーとしてベネディクト・カンバーバッチが映画化に向け動き出します。
ちなみに、ジョディ・フォスターはアメリカ政府に戦いを挑む弁護士役で、対するベネディクト・カンバーバッチはアメリカ政府から「有罪にしろ」と急かされる軍の弁護士役を演じています。
本作は、なぜかアカデミー賞ではノミネートすらされませんでしたが、それは何かの意味があるのだろうか、とさえ考えてしまいます。
「アメリカの闇」と言っても過言ではない本事件を、まさに、見て知るべき【必見】と思える作品となっています!

【予備知識】
本作では「MFR」という言葉がよく出ます。この「MFR」とは「Memorandum For Record」の略で、要は、収容所での「尋問の際の記録用覚書き」を指すことを事前に知っておきましょう。
本作は実質的に裁判案件の作品のため、両方の弁護士が証拠の裏付けで必要不可欠となる存在で生命線となるものです。

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細野真宏

4.0硬派な魅力を放つ人間ドラマ

2021年10月29日
PCから投稿

硬派な魅力を持つ人間ドラマである。さすがマクドナルド監督。彼が手掛ける実話ベースの物語からは、題材の放出する”地熱”がじわじわと伝わってくるかのようだ。今回はグアンタナモ収容所という今や世界中の誰もがそこで行われていたことを知っている題材へと向き合いつつも、それは例えば「グアンタナモ、僕達が見た真実」(06)とは違い、複数の立場の視点を絡ませながら全体像を構築していくタイプの作品に仕上がった。すなわち、人権派の弁護士と検察側の米軍中佐という立場の全く異なる人物たちが”隠された実態”へ流れ着く過程をあぶり出すのだ。全ての中心にはタハール・ラヒムがいて、ジョディ・フォスターとカンバーバッチが各々の領域にて抑制された持ち味を添えていく。彼らの織りなすパズルのどこが欠けても弱くても、強すぎても、この絶妙なドラマ構造は成立し得なかったろう。非常にスリリングであり、かつ感動的な余韻が残る一作であった。

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牛津厚信
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