ファーザーのレビュー・感想・評価
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人の知覚の不確かさ
認知症を患った家族を面倒みる人の話ではあるのだが、本作は認知症にかかった側の視点を重要視している。認知症を題材にした大抵の作品は、介護側の苦労に焦点を当てる。本作にも当然そこは描かれるのだが、それ以上に認知症を患う状態を観客と共有することに主眼を置いている。
人は五感で世界を認識する。個人にとって、個人の感覚が刺激されて得られた情報こそが世界だ。他者にはどう見えているか、どう聞こえているかはわからない。アンソニー・ホプキンス演じる認知症の父は、正しく世界を認知できなくなっている。しかし、本作を観ていて不安になるのは、自分が認知している世界は、他者の認知と本当に同じものかどうかを揺さぶられる点だ。自分の知覚した世界は、自分にしかわからない。多分、他者も同じように見えているだろうという不確かな前提の上にコミュニケーションは成り立っている。
本作は、老いの話ではあるが、それ以上に人間の知覚と記憶という、極めて不確かで個人的なものを洞察する物語だ。人の知覚レベルでは、絶対に正しいことも、絶対に確かなものもない。
老いがもたらす上質なる密室心理劇
面白い、としか言いようがない。老いや記憶をめぐる映画は数多く存在するが、この緻密さ、大胆さにはゾクゾクさせられる。英国映画界の大御所が織りなす本作を私なりに形容するなら、それは老後社会や介護問題を扱った作品という以上に、完璧なまでに彩られた「密室心理サスペンス」。ホプキンス演じる主人公は、文字通りの密室で暮らす一方、彼の記憶の状態も迷路から出られなくなることばかり。介護を経験した人ならば誰もが思い当たるこういった場面を、上質な心理劇へと昇華してみせる筆致に舌を巻く。そして何よりも輝かしいのは主人公のキャラクターだ。自信と威厳たっぷりで、言葉の端々にウィットを散りばめ、時にはそれが相手を見下す態度へ変化していく彼。そんな姿がこれほど嵌るのは、私たちの頭に過去のホプキンスの役柄が無数に刻まれているからに違いない。それを受ける名優たちの柔軟な演技もまた素晴らしい。何度でも噛みしめたくなる傑作だ。
見る前に、ある程度の予備知識があった方が楽しめると思われる「認知症」をテーマにした舞台の映画化作品。
本作は第93回アカデミー賞において、作品賞、主演男優賞、助演女優賞、脚色賞など計6部門にノミネートされ、主演男優賞(アンソニー・ホプキンス)と脚色賞を受賞しています。
本作が特殊なのは、フランスの演劇界で最高賞とされるモリエール賞の作品賞受賞作を、原作者フロリアン・ゼレールが自らメガホンをとり、「映画監督デビュー作」となっています。
そして、題材が「舞台」では映えそうな「認知症」という、これから世界的にも大きな社会問題となっていく、難しい人間模様にスポットを当てています。
本作の凄さは、「認知症」という悲しい課題に対して、主人公の【アンソニー】(アンソニー・ホプキンス)が、それぞれのパートを全力で自然に演じ切っているのです。
そして、脚本は、あくまで【アンソニー】目線なので、「時系列」や「事実関係」がかなり曖昧になっていきます。
そのため、私達は「何が本当に起こっているのか」を冷静に見極める必要性が出てくるのです。
つまり、この映画を「アカデミー賞受賞作」ということだけで見ると、特殊な作りに「アレ?」となってしまう可能性が低くないのです。
そこで、映画を見る際に最低限、押さえておきたいことは、冒頭のオープニングで、まず「アンソニー・ホプキンス」という名前がバーンと出てきます。そして「オリビア・コールマン」。通常の映画のオープニングではメインの2人くらいなのですが、その後にも4人続き、計6人の俳優陣の名前が出ます。
実は、この映画の登場人物は、この6人だけ、と言っても言い過ぎではないのです。(エンドロールでは、少ししか出ない2人も追加され計8人になっています)
さらには、主人公の【アンソニー】(アンソニー・ホプキンス)とアンソニーの娘の【アン】(オリビア・コールマン)以外の4人については、1人が複数の役柄を演じたりもしているのです。
そのため、人間模様を正確に見極めるために、この6人を出来るだけ覚えておきましょう。
まず、主演の「アンソニー・ホプキンス」は、本作で「羊たちの沈黙」(1992年)以来、2度目のアカデミー主演男優賞を受賞して、「主演男優賞の最高齢の受賞記録」を「83歳」に塗り替えました。
そして助演女優の「オリビア・コールマン」ですが、「女王陛下のお気に入り」で、ぶっ飛んだ女王陛下を演じて、第91回アカデミー賞で主演女優賞を受賞しています。私はあの役柄で初めて認知したので、本作での素の演技の方が新鮮でした。
他には、男性2人と女性2人が出てきますが、この男女2人は区別がつきやすいと思います。参考までに【ローラ】役の「イモージェン・プーツ」は、最近公開された「ビバリウム」でヒロイン役を演じています。
あとは、最初に訳が出てきますが【アンソニー】がずっと使う「フラット」=「家」という言葉は覚えておきましょう。
これらの最小限の知識があれば混乱が防ぎやすく、感情移入などがしやすくなり本来の作品の深さを味わえると思います。
今年のオスカーウィナーは怪物的で魔力に満ちている
ロンドンで独居生活を送る81歳の主人公、アンソニーに認知症の症状が現れ始める。家の様子が異なって見えたり、娘と他人の区別がつかなくなったり。。。それらは、アンソニーの知覚と視覚を主体として映像にしたものであり、他の映画がよく用いる、年老いた夫や妻、父や母が近頃妙なことを言い始めた、というような他者の目線ではない。そんな状況を客観視した映像、つまり現実の描写も多用されるから、観客はアンソニーと共に混乱を来していく。そこが、この映画の凄いところで、認知症の恐怖が決して他人事ではなくなるのだ。そうして明らかになるのは、自己崩壊を目の当たりにする本人こそが、側で見守る誰よりも切実で孤独だということだ。アンソニーの視覚に合わせて変えられる部屋のインテリアや、娘を演じるオリヴィア・コールマンと瓜二つのオリヴィア・ウィリアムズのキャスティング、そして、世界中で上演された自らの舞台劇を映画に置き換えた監督、フローリアン・ゼレール、ゼレールと共に脚色を担当したクリストファー・ハンプトンの筆力もさることながら、自分と同名の主人公に老いの真実を注入するアンソニー・ホプキンスの、観客諸共絶望の闇に連れ込むような怪演ぶりには圧倒される。今年のオスカーウィナーはそう、名演と言うより怪物的。ハンニバル・レクターは83歳にして依然、魔力に満ち満ちているのだった。
認知の衰えを主観と客観の交錯により描く哀しき傑作
認知症を患った主人公または主要人物を描く映画は珍しくないが、当人の意識の状態をどう表現するかという点において、本作は実に画期的で巧妙だ。「ファーザー」という題が端的に示すように、年老いた父アンソニー(アンソニー・ホプキンス)とその娘アン(オリビア・コールマン)の関係が物語の軸となる。父の認知症による言動を健常者であるアンの視点から客観的に描くならありきたりだが、観始めて早々にそうではないと気づく。アンやその夫や新しい介護人が途中から別人のように見えるし、今と昔を行き来しているようでもある(住居の内装や絵などの変化、アンとパートナーの状態の違いから)。
認知力と記憶力の衰えにより、家族など身近な人の顔も認識できなくなる、今日の日付や曜日といった時間感覚もあいまいになるといった症状は、多くの人が知る悲しい現実だ。フランス語の舞台劇「Le Pere」を書き、その英語版映画化である本作で監督デビューを果たしたフロリアン・ゼレールは、認知症患者の内なる混乱と不安を観客に体験させる狙いで視覚的なギミックを駆使した。健常者が見る夢の中でも、昔過ごした場所に戻っていたり、とっくに成人したわが子がまだ子供のままだったりということはよくあるが、アンソニーはまだらになった記憶で構築される夢と現実を境目なく行き来している状態であり、そんなアンソニーの主観世界と苦悩するアンの客観世界が混然一体となった映像を私たちは目にすることになる。ある種の精神疾患を観客に体感させるという点で、クリストファー・ノーラン監督が前向性健忘の主人公を描くため時間軸に逆行して構成した「メメント」に通じる創意工夫だと称えたい。
アンソニー・ホプキンスとオリビア・コールマンの名演は言うまでもないが、真に迫るがゆえに、老いと死を避けられない哀しみが一層深く胸に突き刺さる。
アイデンティティの崩壊
アンソニー・ホプキンスの演技がただただ凄いので、見る価値ありです。
ただメンタルやられました。
認知症のアンソニーからみた世界では、
ちぐはぐで噛み合わないことばかり起こるわけのわからない状況が続きます。ホラーです。
釘付けになる作品ですが、救いがないようにも思えて、しばらく辛い気持ちを引きずりました。
しかし、マーク・ゲイティスのあのミステリアスな感じ、唯一無二だなあ…笑
映画と言う表現方式をこれほど理解している監督はそういない。
これはホラーでありSFであり、何よりも映画そのものである。🎦惑星ソラリスを想起し、🎦エクソシストよりも恐ろしく、🎦羊たちの沈黙を見た後の戦慄と🎦こわれゆく女のような理不尽と不条理に包まれた傑作。
意味がわからないけどわからなくて当然俺は認知症じゃないから これが...
意味がわからないけどわからなくて当然俺は認知症じゃないから
これがどこまで本当の認知症に近いのか定かじゃないがこうなるのは本当に怖い
迷惑をかけないようにしようと思えるはずがない本人は全て至って真面目に言ってるわけだから
じゃあ我慢するしかないのかってなると認知症のせいで離婚したり介護疲れで首を絞めた気持ちがわかるようになるんじゃないか
結局この映画を観て得られる事もできる事も何もなくただこうなんだという現実を突きつけられただけ
ラストも哀しかったな救いがない
本当にこう見えるのかも
観ている方はアンソニーと一緒に何が現実か分からず混乱していく。
ほんとうのところ、認知症の人からはどんな世界が見えているのか分からないし、分かることもない。
でも、もしかしたらこう見えているのかも、と思わせる不思議な説得力のある映画だった。
それにしても、イギリスのものは数本見ていればどこかしこに見覚えのあるキャストが出てくるので面白い。
アンソニー・ホプキンスがとにかくすごい、素晴らしい。 話はきつい、...
アンソニー・ホプキンスがとにかくすごい、素晴らしい。
話はきつい、もういかほどもなくそうなるであろう私にとっては。
人間いつかは老いていく。分かっていてもやっぱりそうなりたくない、死にたくない。秦の始皇帝の気持ちが痛いほど分かります。不老不死の薬が欲しい(笑)
記憶に生きる
認知症なのだけど、体験や記憶が視界を形作っていて、妙な腹落ち感というか実在感があって面白かったです。決してSFじゃないんですよね。
オリビアコールマンもいい。認知症は本人自体は幸せなところもあるのかなと思っていましたが、そんな優雅なもんではないよなという
お前より長生きしてお前の財産を相続してやる!
観客をけむに巻くにまだまだ表現の方法があったことにオドロキ。
それもアンソニーポプキンスありきなんだけどね。
初見は一体何を訴えようとしているのかわからない。
だって本当に人の顔が違うんだから。
しかも時系列はぐちゃぐちゃになっているし。
しかしこれがジジイの頭の中なんですよ、と言われると
なるほどと思ってしまう。
近いうちに拙もこういう状態になるであろうが
この映画を覚えていたらそんなに怖くはないかな。
そんなことねーつうの。
そら最後にオカンに泣き言も言いたくなるわさ。
80点
アレックスシネマ大津 20210525
パンフ購入
恐ろしく、救いがない
認知症になると自分に起こるかもしれない事象の一つの解を描いている映画。ただそれが本当だとすると、恐ろしさしかない。
自分と周囲の隔絶。過去の記憶と自らの主張に対して「意固地」になり、自分からどんどん人が離れていってしまう。最後は幼い自分に戻ってしまうというところも、悲しいリアリティがある。この映画の「救い」は何?
ストーリーを追いながら、そのコアにあるものを信じたくない自分がいる。リアリティ・ホラーとでも言うような、そんな映画。
今までに作られてそうだったから
前情報なしで視聴。
認知症追体験映画って今までに作られてそうだったから、本当に認知症追体験する映画ってことで評価されてるんだ〜ってちょっと驚いた。なかったのか。
アンソニーを外側から見てると、記憶能力そのものがイカれてるおじいさんなのか、常に幻覚を見てるから記憶がイかれてるおじいさんなのか、区別がつかないんだなぁ〜って思いながら見ていました。
どうとらえたらよいのか
認知症の方の見え方をそのまま見ているようだと理解できても楽しめるものでもなく、ラストに向けて真実を推理しながら視聴。だからといって面白いのかと問われれば「う~ん?!」という感じ。おじいちゃんが可哀想で、もうちょっと寄り添った言い方をしてあげてと思いながらみてしまった。
意外に凝った構成が良い
名優の迫真の演技が売りのドラマ映画と思いきや、トリック仕掛けのミステリー的な面もあり、観る側も戸惑いながらも引き込まれた。
映像的にも見処ありで、室内シーンがメインゆえ、時折映る景色が映える。特に、中庭に顔のオブジェがある建物は、かなり気になる。アングルも良い。この存在感、有名な建物なのだろう。
個人的には「感動の名作」とまでは刺さらなかったが、名演技・トリック・映像美等々、なかなか見応えありでした。
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