陽に灼けた道のレビュー・感想・評価
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台詞のほとんど無い主人公
もっとキレイな風景が観られるのかと思いきや、厳しい自然、荒れた大地が何処までも続いている。それは、それで良い、この映画にピッタリだ。
主人公の台詞はほとんど無く、目力、顔力、だけで語られていきます。日焼けしてボロボロの、でも整った、磨けば光る原石の様な雰囲気のあるお顔です。
起こってしまった悲しい出来事の記憶は、たとえ巡礼しても、消える事はない。
自分自身で受け入れて乗り越えていくしかないんだね。
手を着くことなく、パッタリと大地に倒れ、しばらく動かないシーンが、とても良かった。
圧倒的なチベット
チベット映画の秀作は、もはや一般的な中国映画ではない。
圧倒的な能力開発のための、「Awe体験」の宝庫だ。
今回の全てのチベット映画をほぼ観ている。
ほとんどのチベット映画に共通し、感動する点は「Awe体験」
その荘厳で厳しい自然でAweし
その厳しい自然をへっちゃらで乗り越え、暮らし、生きているチベットの村の人にも驚愕する。
頻繁に出てくる「ラサ巡礼」は、最初に
『ラサへの歩き方』を観ないと、真髄を看守出来ないだろう。
●2400km以上を往復、平気で歩く青年。
●砂漠で、ラマの糞を燃料にして、暖を取る翁。
●雪の中で寝ると「凍傷」で指が腐ったり、「死ぬ」事も知ってなければ わからない。
弱い設定の若者でも、それほどの強さ。 それも、さらっと表現している。
オールドドッグもそうだが、老人が素晴らしい。
若年に犯しがちな、些細な見落とし・意識不足が
取り返しのつかない事象を招く。
疑似体験として、脳の問題回避能力に寄与。
これらのチベット映画では、静かでも強いメッセージを、各人が観取されるだろう。
私達にはわからない苦悩
ラサへの五体投地の巡礼を終えた帰りのバス、というのが、面白い設定だ。そしてラサへの巡礼をもってしても、満たされず罪を軽くすることも希望を抱くこともできなかった青年。気が良さそうで少し不器用な感じだ。ラサの街での暮らしが村の昔ながらの暮らしと比べ薄っぺらいことに不満を述べる母。富や便利さや新しい生活をもとめる若い世代がこの青年の姉や、バスに同乗していた老人の娘、という出てこない人々により現れる。村での生活は自給自足助け合い近代的な利便性を補い年寄りから子どもまでそこには分断がなく、ラサのような街へ出て行った娘や息子たちとは一晩ニ晩で亀裂と分断ができてしまうようで、このような設定が面白い。老人が知り合う子ども、主人公の青年を迎えに来る子ども。子どもを見ているだけで可愛くてたまらないという老人。無口に人との交流を避けながらも老人と帰路の旅を図らずもしてしまう青年。彼は罪の意識巡礼をしても癒されず満足できず自分を許せなかったが、老人や子どもとの関わりの中で、都市的な現代的な孤独の世界ではなく、伝統的というにはあまりに平凡に毎日が連続して何世代もつづいていく村の家族のもとへ、帰還していくのだ。
車だと速すぎるんだ
ロード・ムービーは、荒涼とした風景が似合う。本作は、チベット高地だ。
幹線道路なのだろう、意外に車が多くバスも通るので、何かあったら助けてもらったり、町に行くこともできる。
なるほど、これなら「巡礼」は不可能ではない。そういうチベット事情も勉強になった。
とはいえ、毛布一枚で、寒くないのだろうか? 驚くべき人々である。
また、長旅でボコボコに凹んだ鍋も興味深かったが、わざと叩いたような不自然な凹み方だったのは気のせいか(笑)。
主人公は、とりあえず家の方向には進む。しかし、「帰宅」はどこまでも先送りしたい。
「帰る」という踏ん切りをつけることができず、半ば「行く当てもない」という心境にさえなっている。
映画「幸福の黄色いハンカチ」の高倉健のような、このキャラクターの造形は良かった。
本作の問題点は、老人のキャラ設定の弱さ、つまらなさである。
なぜ主人公の世話を焼くのか、家庭でどういう問題を抱えているのか分からない。
「もっと強くなれ」と主人公に諭しつつ、自らも鼓舞しているのか?
しかし、単なる“狂言回し”で良いならば、もっと興味深いキャラクターを発明して、ストーリーに厚みを付けられたはずだ。
映画「幸福の黄色いハンカチ」の、武田鉄矢と桃井かおりのように。
ソンタルジャ監督の長編第一作目だそうだ。
フラッシュバックの入れ方にメリハリがなく、分かりづらかった。確かに“荒削り”なのかもしれない。
ただ、繊細な表現でありながらも、「皆(みな)まで言わすな」とばかりに、剥き出しの感情表現を抑えて、どっしりと構えている感じには“風格”が感じられた。
最後は、ラサに行っても手放せなかった母の骨粉を撒くところで終わる。
そのことで母の死を克服し、次へ進もうとするのであろうか?
ラストシーンでは、唐突に兄の子供のアップが出る。かなり長い時間、じっと映している。
その意図を自分は理解できなかったものの、ここは良かった。
もしかしたら、子供は母の生まれ変わりなのだろうか?
ソンタルジャ監督チェック中
後の作品「巡礼の約束」と同様に
生と死がテーマ
五体投地でラマへの巡礼を終えても、なお
気持ちが解放されることなく
帰路を黙々と歩きながら
自分自身と向き合い続ける青年
チベットの自然に身を投げ出し
ゆっくりと流れる時間の中で
彼と一緒に旅をして
私も自分と向き合い
ズシリと心に響く言葉に
ふと涙が滲む
そんな映画でした
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