トゥルーノース

劇場公開日:

トゥルーノース

解説

北朝鮮強制収容所の過酷な環境で生きていく家族とその仲間たちが成長していく姿を、生存者証言を参考に描いた長編アニメーション。1950年代から始まった在日朝鮮人の帰還事業により北朝鮮に渡ったヨハンの家族は、両親と幼い妹とともに金正日体制下の北朝鮮で暮らしていた。しかし、父親が政治犯の疑いで逮捕されたことにより、母子は強制収容所に入れられる。極寒の収容所での苛烈な生活に耐え忍びながら、家族はなんとか生き延びていたが、収容所内の食料確保によるトラブルによって母が殺害され、自暴自棄となったヨハンは次第に追い詰められていく。そんなヨハンは、死に際に母が遺したある言葉により、本来の自分を取り戻していく。監督の清水ハン栄治が、収容体験をもつ脱北者にインタビューをおこない、10年の歳月をかけて作品を作り上げた。2020年・第33回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門上映作品。

2020年製作/94分/G/日本・インドネシア合作
原題または英題:True North
配給:東映ビデオ
劇場公開日:2021年6月4日

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(C)2020 sumimasen

映画レビュー

4.0重い題材を飲み込みやすくする、絶妙な匙加減のリアリティと娯楽要素

2021年6月9日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

 荒いポリゴンCGのビジュアルと重い題材に、しばらく観に行くか迷っていた。ヘビーなテーマと映像の軽さが釣り合わないのでは、深刻な内容で疲れるのではという心配があった。でもそれは杞憂だった。

 脱北者の青年が、TEDの舞台に立つところから物語は始まる。政治の話はしないと前置きをし、彼は北朝鮮収容所での体験を語り出す。
 帰還事業で日本から帰国したヨハン一家は、おだやかな日常を送っていたが、突如父が失踪し、残された家族も憲兵によって収容所に連行される。そこから、監視と暴力の中で過酷な労働を強いられる生活が始まる。

 ぱっと見硬さのあるCGの登場人物が、想像以上に体温のある存在感をかもしだしていることに序盤で気付く。台詞はほとんど英語だが、意外と気にならない。むしろ、この作風が物語全体に寓話のような雰囲気を与え、それが色々とプラスに作用しているように思えた。
 これがもし、実写で撮られていたらどうだろう。リアル過ぎると、収容所内のやせ細った人々、死体運びの作業、銃殺刑などのシーンが、見る側に過剰な精神的負担を与え、作品のテーマを受け入れ咀嚼する力を少なからず奪ってしまう。
 あるいは、輪郭線があってデフォルメされた絵柄のアニメだったらどうか。今度は、必要最低限の生々しさが担保出来なかったのではと思う。
 荒めで極端なデフォルメのないCGであることによって、余分などぎつさだけを濾し取った絶妙な匙加減のリアリティが生まれる。目から鱗が落ちる不思議な体験だった。

 エンターテインメントとしてもよく考えられており、重い問題提起を抵抗感なく受け止めることが出来る。「社会科の授業をやっても仕方がない」という清水監督の言葉通り、ただ北朝鮮の悲惨さのみを切々と訴えるわけではなく、ヨハンと周囲の人々の人間ドラマとしても十分見応えがある。ほんの少しユーモアもまぶしてあって、退屈しなかった。延々ときつい話ばかりを、これが現実だと突きつけられる描写に終始していたなら、思い出すのがつらい作品という印象になってしまうだろう。娯楽要素は大切だ。
 他者へのやさしさとは、生きるとはどういうことか。成長の過程でヨハンが自問する内容は、国籍に関係なく通じる普遍的な問いかけのように思えた。
 不意をつかれる結末に様々な感情が浮かび、実際の収容所の航空写真が並べられたエンドロールを見ながら考えさせられた。最後まで物語としての引力を失わないように作られている。

 TEDのYouTubeチャンネルに、脱北者のイ・ヒョンソ(Hyeonseo Lee)氏の演説動画が数本上がっている。脱北してから中国に入り、韓国に入国する体験が語られているが、脱北後も命のかかった関門がいくつも待っている。中国国内で脱北者と分かり、不法入国が明らかになると強制送還されるのだ。その後どうなるかは、想像通りである。
 北朝鮮の人々は、私達が享受する最低限の人権からさえ、遥かに隔絶されている。彼らが救われるわずかな望みは、最早国際社会の支援の中にしかない。
 この作品をきっかけに、日頃ニュースで北朝鮮の話題を聞く時以上の近い距離感で、彼らの実情に関心を持つ。一人一人のそういった小さな変化の積み重ねが、最終的に国を超えた世論の形成に繋がれば、彼らの希望を現実に近づける端緒になる。心許ない変化だが、意義があると信じたい。出来るだけたくさんの人に見て欲しい。

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ニコ

5.0人間らしさをいかに失わないでいられるか

2021年7月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

これはすごい映画だ。北朝鮮という国は、外から正確なことを見つめることが難しいが、本作はそれをやろうとしている。しかも、市井に生きる等身大の北朝鮮の人々のことを描こうとしている。
北朝鮮で生きる人々の等身大の姿を映す序盤から、過酷な収容所生活へとすぐさま展開していく。政治犯の強制収容所は、衛星写真などでしか我々は見ることができないが、本作はその内部に入り込む。過酷な生活と労働で、人間性を失っていく人々の実態がこれでもかと描かれる。
主人公家族の兄は、抑圧する側に一度は回る。妹と母親はどれだけ苦しくても人間らしさを失わない。それはいかにして可能なのかはわからない。監督はタイトルに2つの意味を込めたという。一つは北朝鮮の真実という意味。もう一つは英語の慣用句でトゥルー・ノースは、「絶対的な羅針盤」という意味だそうで、人としてのあるべき姿、生きていく道を見失わない家族の姿を重ねているのだという。監督は、絶対的な人間性の強さを信じる人なのだろう。この映画を見ると、そういうものは確かにあるのだと信じさせてくれる。

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共感した! 7件)
杉本穂高

0.5意図的に共感させて貰う。冷静に現実を見つめるべし。

2024年11月5日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD
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共感した! 4件)
マサシ

5.0素晴らしい。記憶に残る名作

2023年10月14日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

悲しい

難しい

北朝鮮 平壌に暮らす男の子の父親がある日を境に家に帰らなくなった。
間も無くすると「反逆行為があった」として小さな妹と母親と共に収容されます。

なんと理不尽で最低な行為・・・と思う一方、
自宅でのんびりNetflixを見ている間にも
中東、ウクライナ、そして北朝鮮では子供も含め同じ時間に大変な思いをしているのにも関わらず自分は何も行動していない。
映画を見てただ泣き、いい映画だったなと感想を述べるだけなのである。
その行為は正しいのだろうか・・・
「世界が平和にありますよう」とは無責任で、人任せな人生である。

だけども自分は自分に甘いので何か言い訳を考え、知っているけれども知らない生活を続けるのだと思う。

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