82年生まれ、キム・ジヨン

劇場公開日:

82年生まれ、キム・ジヨン

解説

平凡な女性の人生を通して韓国の現代女性が担う重圧と生きづらさを描き、日本でも話題を集めたチョ・ナムジュのベストセラー小説を、「トガニ 幼き瞳の告発」「新感染 ファイナル・エクスプレス」のチョン・ユミとコン・ユの共演で映画化。結婚を機に仕事を辞め、育児と家事に追われるジヨンは、母として妻として生活を続ける中で、時に閉じ込められているような感覚におそわれるようになる。単に疲れているだけと自分に言い聞かせてきたジヨンだったが、ある日から、まるで他人が乗り移ったような言動をするようになってしまう。そして、ジヨンにはその時の記憶はすっぽりと抜け落ちていた。そんな心が壊れてしまった妻を前に、夫のデヒョンは真実を告げられずに精神科医に相談に行くが、医師からは本人が来ないことには何も改善することはできないと言われてしまう。監督は短編映画で注目され、本作が長編デビュー作となるキム・ドヨン。

2019年製作/118分/G/韓国
原題または英題:Kim Ji-young: Born 1982
配給:クロックワークス
劇場公開日:2020年10月9日

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映画レビュー

4.0他者への浅はかな定義付けと無理解の罪

2020年10月13日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

 ありふれたミソジニー(女性への性差別)の体験が澱のように溜まっていって変調を来たしたジヨン。
 はたから見れば彼女のような環境に生きている女性は珍しくなく、人一倍不遇な環境とは言えないのかもしれない。2歳の娘の育児は大変ではあるものの、それなりに優しい夫、元職場の友人たち、再就職の誘いをしてくれる元上司、会いたい気持ちになれる母親や姉弟に囲まれている。分かりやすく彼女を否定してくる存在は男尊女卑思考の強い姑や実父くらいだ。
 心無い人は言うだろう、誰だってそんな環境で頑張っていると。むしろ彼女は恵まれていると。誰だってきついんだからお前も我慢しろ、甘えるなと。
 ジヨンの弱さは甘えだろうか?彼女は、表向きには女性活躍の活路が開かれた中で古典的な男尊女卑の価値観の残り火がくすぶる過渡期の時代において、性差や環境だけを根拠としたあるべき姿の刷り込みに違和感を覚えながらも、時に自分の気持ちを脇に追いやり、また時に男性なら当然許されるはずのやりたいことを諦めてきた。自分の気持ちをじわじわと押さえ付ける頑張り方をしてきた結果、とうとう心が圧に負けて割れた。それでもなお、家庭を持って活躍している女性もいるのにと、自分を責めた。
 自分の本心を蔑ろにして、つらさを他人と比べ矮小化することが、本人にとって何の解決になるだろうか。

 身に覚えのある、または身近な女性で見聞きしたのと同様のエピソードの描写がひたすら続き、他人事と思えずいたたまれない気持ちになった。それらのひとつひとつは、目をつぶろうと思えば日常のほんのひと時で通り過ぎるようなよくある話だ。それらをよく丁寧に織り込んだものだと感心する。
 特に主人公の夫の言動は、本人なりに妻を気遣うし心配もする優しさがあるにも関わらず、一番身近なはずの存在でありながら根本的に主人公の心情を理解していない、というところに根深いものがありリアルだった。

 原作では男性陣の描かれ方や物語の顛末などもっと救いのないものだそうだ。
 しかし本作では子連れのジヨンに嫌みをいう社会人グループの中に女性もいたりと、いくつかの点で原作と違いミソジニー一辺倒ではない描写もある。賛否はあるだろうが個人的には、性差に関係なく他者への浅はかな定義づけという行為を、相手の心を蝕んでゆく残酷なものとして静かに糾弾すると共に、ジヨンと同じ気持ちでいる人達にそれでも希望を捨てないよう伝えたい、そのような意図を感じた。
 他者への想像力が欠如した社会の中で誰にも言えない疲れを抱えた人にとっては、鏡のように見える作品かも知れない。

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ニコ

4.0チョン・ユミの刹那的な表情に息をのむ

2020年11月27日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

「トガニ 幼き瞳の告発」「新感染 ファイナル・エクスプレス」の名コンビ、チョン・ユミとコン・ユという人気俳優を起用しながら、韓国の現代女性が担う重圧や生きづらさをしっかりと描いており、改めて韓国映画の多様性や底力を味わえる作品です。

原作は日本でも話題を集めたチョ・ナムジュのベストセラー小説ですが、監督はこの作品が長編デビュー作だというのには驚かされます。また、まるで他人がのりうつったような言動をするようになる主人公ジヨンを演じるチョン・ユミの刹那的な表情や全身から醸し出す雰囲気には息をのみました。

結婚していて、家事や育児を奥さんに任せてしまっている世の男性にとっては少々心苦しくなるシーンもあるかもしれませんが、結婚をしていなくても、女性目線と男性目線で違った見方ができる作品だと思います。また、世代によって受け止め方も異なってくるでしょう。

男と女、他人とは、果たしてどこまで理解し合えることができるのか、見るものに問いかけてくる作品です。

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和田隆

3.5わたしたちは、個人レベルでみればお金がなければ死んでしまうが、生物レベルでみれば次世代がいなければ滅亡してしまう

2025年1月13日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

知的

難しい

結婚・出産を機に仕事を辞め、育児と家事に追われるジヨン。常に誰かの母であり妻である彼女は、時に閉じ込められているような感覚に陥ることがあった。そんな彼女を夫のデヒョンは心配するが、本人は「ちょっと疲れているだけ」と深刻には受け止めない。しかしデヒョンの悩みは深刻だった。妻は、最近まるで他人が乗り移ったような言動をとるのだ(公式サイトより)。

個々人のもつ「家族観」や「男女観」は、一見、わたしたちの日々の営みの積み重ねでできあがっているように見えるが、実はそうではなく、例えば、「国家の統治」や「資本主義」のような、ものすごく強大な枠組みへの最適化を目指して設えられているという指摘は、韓国で大ベストセラーとなり、この映画もたびたび本文中で触れられる「主婦である私がマルクスの『資本論』を読んだら」という書籍に登場する。

例えば本作でジヨンが「わたしは(夫の)デヒョンほど稼げない。働いたとしても、保育園代やシッター代にすらならないかもしれない」と呟く場面がある。日本でもおなじみ、「OECDジェンダーギャップ指数」によると、男女間の賃金格差は、日本の22.1%(女性は男性の77.9%しか賃金をもらえていない)に対して、韓国は31.1%(同68.9%)である(全体順位は146カ国中、日本125位、韓国105位)。

前出書籍はこのことを、「男性が家族賃金を稼いでくる労働者となり、女性がそのような男性労働者を無償で再生産する役割をつとめてこそ、資本が安い労働力で大量の利益創出をなしとげることができるからだ。性別分業が崩壊すれば、企業家は無料で提供されていた労働者の再生産に別途コストをかけなければならない。そうなると、利幅が減り、今のような利権を享受できなくなる」と指摘する。

わたしたちは、個人レベルでみればお金がなければ死んでしまうが、生物レベルでみれば次世代がいなければ滅亡してしまう。

主人公であるジヨンに祖母、母、義母が憑依するという設定は、次世代を育てる「仕事」をしている間、お金を稼ぐ「仕事」ができなくなる二律背反を全て「女性」「母」「妻」という個人に押し付けてきたという長い時間軸を示すメタファーであり、どの時代の価値観にも染まり得る「透明感」を持ちながら、どの時代でも前を観て進み得る強い「芯」も持つ、主演のチョン・ユミに相応しい役どころである。韓国のアカデミー賞である「大鐘賞映画祭」で、世界的大ヒットとなった「パラサイト 半地下の家族」のチョ・ヨジョンを抑えて主演女優賞を獲得したのも頷ける。

個人的には夫のジヒョンが「わたしが追い詰めてしまった」と嘆く場面が身につまされる。ジヒョンもジヨンも、義母も母も祖母も、カフェで悪態をつく3人組の男女でさえ、悪人は誰もいない。大きな枠組みの要請に従っただけなのである。

22世紀は、「個人主義」「民主主義」「個人主義」「民族主義」のように、生きていくための「仕事」と、生命としての「仕事」が、対立・押し付けではなく、両立・融合していく新たな「主義」の発明が命題になるのかもしれない。と、なぜか謎に壮大な結論となり自分でも驚くが、ジヨンやジヒョンのように誠実な市井の民の自助努力だけでどうにかすべきタームはとうに過ぎていると感じさせてくれる作品だった。

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えすけん

3.0共感半端ない。

2024年11月8日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

悲しい

ネタバレ! クリックして本文を読む
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ふたり映画