劇場公開日 2020年7月3日

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一度も撃ってません : インタビュー

2020年7月2日更新

日本映画界のスターが怪優・石橋蓮司を囲む! 阪本順治監督「一度も撃ってません」は「宝石箱のような映画」

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「顔」(00)、「半世界」(19)の阪本順治監督の最新作で、名バイプレイヤー石橋蓮司の18年ぶりとなる主演作となる「一度も撃ってません」が7月3日公開される。石橋と阪本監督をはじめ、原田芳雄さんとゆかりのあるキャスト、スタッフが結集した本作は、冴えない小説家と伝説の殺し屋という2つの顔を持つ主人公を描く、ハードボイルドかつ遊び心溢れた大人のおとぎ話。俳優生活65年、映画だけで280本以上(映画.comデータベース収録作品数)の出演作品を誇る怪優・石橋を、大楠道代岸部一徳桃井かおり佐藤浩市妻夫木聡ら様々な世代の俳優陣が囲む極上のエンタテインメントだ。(取材・文/編集部、撮影/松蔭浩之

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大鹿村騒動記」(11)で主演を務めた原田芳雄さんの自宅で本作の企画が持ち上がった。阪本監督は「石橋さんとは5年くらい前から、監督と主演の関係でやってみたいと思っていて。芳雄さんと7本やって、8本目で監督と主演という関係になって、ものすごい変化がありました。僕と作品を背負うというポジションになってくださり、演技の質ということではなく、現場のたたずまいから何からが変わるんです。それがびっくりしたし、初めて芳雄さんの本当の中の中まで手が届いた感じがした。だから、今度は石橋さんの内臓の中まで手を突っ込んでみたい。という、僕の次なるターゲットだった(笑)」と明かす。

そして、「せっかく蓮司さんとやるのだったら、軽妙にやりたいと思っていて。テーマ的なものはお客さんに見つけてもらえればいい。ある種のおかしみ、それは蓮司さんとだからできると思ったんです」と言うように、酸いも甘いも噛み分け、人生の重みを知る大人たちだからこそ出せる、心地のよい軽さの作品に仕上がった。一方で若い世代の俳優陣の存在感もしっかりと確認できる。「この作品はいわば“蓮司祭”とでもいうのでしょうか。今、蓮司さんとやったことのない俳優は、テレビ、映画含めてほとんどいないと思います。それは、若い俳優さんにとっては、同世代と芝居を交わすより、絶対面白かったと思うんです。それを期待して、寛一郎柄本佑くんらが1,2シーンでも来てくれ、いつもより張り切ったと思います」

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いぶし銀の魅力あふれる演技で、ダンディかつ、愛すべき哀愁とおかしみを湛えた魅力的な主人公、市川を体現した石橋は「俳優を長くやっていると、監督が円熟していくのがわかるんです。今、絶好のタイミングなのかな、何か見え出しているのかな? と感じます。つまり映画という世界の中で、映画に乗っている時が見えるんです。阪本さんの作品には、ここ2、3作も出させてもらって、昔は本がいまいちだよなんて思ったこともあったけど、やってみると彼は『これを言うべきだよな』『これを見落としてたな』っていうことを映像化して伝えるのがすごくうまい。監督が脚本に立体感を与え、役者も動き出す。それが無駄なく動いている。非常にポイントがいい。そんな円熟の始まりの時にこれをやらせてもらって、とてもよかった」と阪本監督の手腕を評価する。

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今作の脚本は「野獣死すべし」「探偵物語」の丸山昇一氏。「もう、B級パラダイス。俺、全然平気だから、やりますよ。さっさか撮って、さっさか解散しましょう! って思ってキャスティング見たら、これはさっさか終われねえじゃんって(笑)。でも、今回、共演者みんなと演技のキャッチボールができたし、市川以外の人物をピックアップして、主役にしたらどうかな? なんて、共演者の全員の役が市川をサイドにもっていっても違う話が撮れる、そういう力を匂わせてくれたから非常にびっくりした。僕は群像劇の中の、水先案内人だなと思わせてくれる物語でした」と、主演としての立ち位置を楽しんだ。

完成作を見た感想を尋ねると、「普段あんまり言わないんだけど、すばらしいアングルだし、録音、照明もなんだかすごくいいなあって。2回見せてもらって、その時に素晴らしいなと思いました」と石橋。

その答えを受けた阪本監督は「撮影も照明も録音も40代のスタッフが担当です。僕にとっては、彼らがこの映画の世界観をどう解釈するのかに興味があった。架空の世界で遊ぶんだから“普通は”なんてことは言うなよと。世代に合わせるのではなく、自分たちの『一度も撃ってません』を見せてくれと。今回シネスコで、音はモノラル。今ではサラウンドが一般的ですが、真ん中のスピーカーしか使ってないんです。昔は映画が面白ければ、没頭してサラウンドに聞こえた。もちろん錯覚ですが、集中できればいくらでも音は動くんです。こんなふうに作品に寄り添った技術って、古めかしくても今は逆に新鮮に思えるかもしれない。メインテーマがジャズですし、ジャズって基本的にモノラルで聴くものだそうで」と技術面でのこだわりを語った。

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半世紀以上にわたり映画界を見つめてきた石橋。「製作者ではないから、それほど変化は感じないけど、俺たちがまだ若い頃はアートシアターがあって、そのほかに5社があって、元気なぶつかり合いがあった。60年代後半から70年代前半、その頃は俺なんかも背伸びして、『じゃあノーギャラでも』とかそういう時代だった。そこから比べると作り手の意識や劇場の在り方、作品のテーマもだいぶ変わったね」と時代の流れを振り返る。

また、演技者として年月を経たからこその変化については「歳をとらなきゃ出せないことがたくさんある」と感じている。「ただ、だんだん役の幅は狭まってくるなあと。あとは、歯を抜くとかの挑み。もし高校生やらせてくれるなら挑むけどね(笑)」とあくまでポジティブだ。長年のキャリアの中で、俳優以外の転向を考えたことはなかったのかと問うと、「小さいころから、この世界にいたからつぶしがきかないんです。ほかの職業についていることを想像したことがない。役の中では、裁判長までやってますけどね(笑)。いろんな役をやっても、これで生きていきたいって思える職業はなかったですね。やはりいろんなバリエーションが出せる生き方って、役者かやくざだね」と豪快に笑う。

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そんな石橋の言葉を受け、阪本監督は「やっぱり日本の宝だな、と思いました。宝石箱のような映画になったし、手垢にまみれてはいますが、トレジャーはトレジャー。やってよかった。まずは中高年の方たちの興味を引くんでしょうけど、若い俳優さんに見てほしいな。映画の“遊び“ってこういうことだよって。今の若い俳優さんて、すごく生真面目なんです。ストイックになって何かは生まれるかもしれないけど、その先もある。そういうものを見てもらえると思う」と、若い世代への架け橋になる作品だと自負。「僕にとっても、これを1本やったかやらないかで次への考えが変わってきた。今年これを発表できて、僕のある種のバリエーションが増えた感じです」と述懐した。

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