何より、この映画のラストが好きだ。一番遠かったはずの2人が、ふっと秘密を共有する。穏やかな幸せが、じわじわと伝わってくる。一方で、彼らの着地点は、あやういバランスの上に成り立っている。だからこそ、かけがえがない。だからこそ、大切にしたい、と感じた。
同性愛者を真正面から描いた作品、として注目される本作。確かに、中心となる2人は同性愛者だ。けれども、彼らが向き合い、乗り越えようとするハードルは、誰しもが抱える、普遍的なものに思えた。いわれのない差別、普通じゃない、当たり前から程遠い、と排除されることへの恐れ。そんな諸々は、世の中の至るところに転がっている。
2人の過去は、冒頭のシーンと再会後の会話で語られる程度だ。けれども、中盤に挿入される迅の会社員時代のワンシーンに、彼の孤独がにじむ。逃げるように縁のない田舎へ移住し、他との関わりを最小限にしてきた迅。一方渚は、開放的でせつな的な生き方を楽しんできたように見えるが、むしろ満たされなさは埋められず、行き詰まっている。立ち止まり進むのをやめた迅と、立ち止まるのを怖れるように駆け抜けてきた渚。再び出会った2人が、渚の娘や村の人々との関わりを重ねながら、それぞれに葛藤し、仕切り直しを試みていく。
互いを思うからこそ、新たに前進しようとする2人。彼らの背中をそっと押す、村の老人たちの卓見が素晴らしい。普段は無口でぶっきらぼうだからこそ、ここぞ、の一言がまっすぐに届き、心に響く。日々の子育てで何かと口煩くなってしまう自身を思うと、身が縮むばかり…。いつかは自分もこんなふうに、と凝り固まった心のひだが伸びる気がした。
自然光が眩しい村で広がっていく2人の物語から一転、後半は、光が届かない室内での息詰まる法廷劇に至る。偏見にさらされるのは、2人だけではなかった。仕事に追われてきた若い母親は、親権争いで思わぬ窮地に立たされてしまう。仕事が出来るだけでは許容されない、頑張りが空回りしてしまう彼女の姿が、人ごととは思えず、身につまされ切なかった。だからこそ、あたたかなラストには心洗われた。
どっぷり映画にのめりこみ、じっくりと浸った2時間。いつもより優しい気持ちに満たされながら、いそいそと子らのお迎えに向かった。