キャッツ : インタビュー
「キャッツ」監督、作品批判に「想像の壁壊して」 「レミゼ」修正の秘密初告白
ミュージカルの金字塔を映画化した「キャッツ」が、1月24日に公開される。これにあわせ、メガホンをとったトム・フーパー監督が来日。「8歳の頃からファン」という原作ミュージカルと今作の魅力や、テイラー・スウィフト作詞の新曲制作秘話、全米公開直後のVFX修正版差し替え騒動や批判について、映画.comに語った。(取材・文/編集部)
全世界累計観客動員8100万人を記録したミュージカル「キャッツ」を、「英国王のスピーチ」で第83回アカデミー賞作品賞を獲得したフーパー監督が映画化。巨匠スティーブン・スピルバーグと、「オペラ座の怪人」などで知られる世界的作曲家アンドリュー・ロイド=ウェバーが製作総指揮に名を連ねた。英国ロイヤルバレエ団でプリンシパルダンサーを務めるフランチェスカ・ヘイワードがヴィクトリア役で主演するほか、ジェームズ・コーデン、ジェニファー・ハドソン、テイラー・スウィフト、ジュディ・デンチ、ジェイソン・デルーロ、イドリス・エルバ、イアン・マッケラン、レベル・ウィルソンらが共演している。
■「キャッツ」のために新たなVFX技術を開発! 今だからかなった映画化
――なぜ舞台「キャッツ」を映画化しようと思ったのでしょうか?
8歳のときにはじめて舞台版の「キャッツ」を観劇したのですが、今でもそのときの鮮烈な記憶がずっと残っています。「キャッツ」が持つ大きな魅力のひとつは、子ども扱いして上から目線で語らないこと。さらに、猫たちの秘密の世界にいざなわれるのが、秘密の大人の世界に招かれているような感覚だったのかもしれません。アンドリューによる楽曲も最高でしたしね。映画版の「レ・ミゼラブル」を作り終わったときに、これでミュージカルをもう作れないのは寂しいと思いました。ほかに何かないかと考えたときに、「キャッツ」が思い浮かびました。これまで映画化されていないのは、猫の表現方法がわからないからではないかと思いましたが、今のVFX技術であれば不可能を可能にできると考えたのです。タイムマシンを使って、8歳の自分に「いつか映画版『キャッツ』を監督するよ」って言ってあげたい。きっと気が狂ったように喜ぶでしょうから。
――今作のために新たに開発されたというVFX技術はどのようなものでしょうか?
今作で使った技術は革新的で、3年前なら「不可能」、2年前なら「可能だけど費用が高すぎる」と言われたでしょう。今作を製作し始めた時期が、ちょうど技術が進歩して予算的にも何とかなる時期だったんです。1番難しいのは、体毛を生やすための顔や体のトラッキングなのですが、今作の技術では、演じた人間の動きや表現を一切失わずに体毛を付けることができるのです。目の周りは少しメイクをしていますが、それ以外はすべてCGです。インド、オーストラリア、カナダを合わせて2500人ほどの視覚効果スタッフがいました。これは、舞台版の衣装やメイクを大切にしながら、映画版でどうより良く見せられるかを考えた結果です。
■VFX修正版差し替え騒動を経ての初告白! 実は「レ・ミゼラブル」も……
――アメリカで12月20日(現地時間)に公開してから2日後にVFX修正版を再リリースし、劇場で本編の差し替えが行われましたね。
そうなんです。日本では初めから最新版でリリースできて良かったです(笑)。実のところ、VFXは際限なく修正が可能です。そして、今作にとって(2019年)3月に撮影を終えてクリスマスに公開というスケジュールはタイトでした。日本のように、(公開が遅いため)最高のバージョンを届けられる市場があるとがわかっていたので、可能な限り修正を続けました(笑)。物語を変えてしまうような修正ではなく、細かなところの出来栄えを良くしただけで、シーンはすべて同じです。非常に難しい作業なので、作品を可能な限り美しく見せるためには時間が必要でした。
――すでに公開した作品の差し替えは大きな決断のように思われますが、どのような経緯で決定したのですか?
「差し替えます」と言っただけなんですよ(笑)。報道されていないだけで、皆さんが思っている以上によくあることなので、今回ニュースになったことがむしろ興味深いです。これは誰にも言ったことがないのですが、実は「レ・ミゼラブル」も公開後に修正して差し替えているんですよ。オープニングショットを直したんです。船がドック(船きょ)に入っていくところを、クレーンカメラで水中から浮かび上がるように撮影しています。最初に公開したバージョンでは十分でないと感じていたので、修正を続けて差し替えました。でも、このことは誰も知りません。スクープだね(笑)! もちろん、日本では最高のバージョンで公開されましたよ。
■巨匠アンドリュー・ロイド=ウェバー&テイラー・スウィフトによる新曲制作秘話
――舞台版「キャッツ」の原作者であり作曲家でもあるロイド=ウェバーが製作総指揮として参加し、キャストのスウィフトとともに新曲「ビューティフル・ゴースト」を提供しました。
アンドリューの存在は、この映画をとても特別なものにしてくれました。素晴らしかったのは、アンドリューが常に僕の隣にいて、舞台の成功の鍵となった要素を守ろうと気を配りつつ、映画版として変更が必要であることも理解して下さったことです。特に感銘を受けたのは、音楽を録音していたときです。ボーカルとオーケストラを収録して映像と合わせたとき、彼は「もっと映画に合うようにできるな」と言い、ものすごいスピードでオーケストラを録り直して戻って来ました。そのとき私は、自分が現存するもっとも素晴らしいミュージカル音楽家のひとりの隣に座っていることに気付かされました。彼のミュージカルへの嗅覚は驚異的なのです。
アンドリューは初期段階から、「物語の中心キャラクターであるヴィクトリアには声が必要だ。彼女のための楽曲がないといけない」と言っていて、早々に作曲していました。そしてテイラー・スウィフトがマキャヴィティの曲の練習のためにアンドリューの家にやってきたときに、彼は「こんなメロディを作ってみたのだけれど」と披露したんです。テイラーは、一節目を聞いた瞬間に歌詞が“降りてきた”ようでした。そして、それから24時間で、信じられない速さで歌詞を書き上げたんです。
(「ビューティフル・ゴースト」の)歌詞を紐解くと、かつての人気娼婦猫グリザベラが歌う「メモリー」への大変興味深いアンサーソングになっています。グリザベラは、「メモリー」のなかで「昔は幸せだった」と言うのですが、若くして捨て猫となったヴィクトリアは「私には幸せな思い出すらない。少なくとも幸せな思い出があるのなら幸運だ」と歌うのです。テイラーは素晴らしい作詞家で、私が映画でやろうとしていることのさらに特別な部分を、見事に捉えていました。
■ジェリクルキャッツは転生する? 舞台版「キャッツ」への解釈
――舞台版「キャッツ」はたくさんの解釈がされています。なかには、登場する猫たちは皆すでに亡くなっていて(!)、前世への執着を捨て去ったときに転生できるというものもあります。映画化するにあたってのあなたの解釈を教えてください。
それは面白い! 私の解釈なんかよりずっと興味深いし魅力的ですね(笑)。転生というアイデアは仏教的な宗教背景があるからでしょうか? 私は、自分の作品でいつも“許し”を描いています。許されるためには、人間が持っている自らを新たに作り変える権利を行使しなければなりません。「レ・ミゼラブル」のジャン・バルジャンもそう。“作り変える”というのは、周りから違った目で見てもらうということです。もしかしたら、この映画はそのことを伝えようとしているのかもしれません。
同時に、コミュニティの大切さも訴えています。人は、のけ者にされている人々と再び一緒になることでコミュニティとして強くなれます。排他主義がいかにコミュニティを弱くするかを描いているのです。ヴィクトリアの才能は、排他主義を理解できないほどの無垢さ。その優しい心と親切な行動で、グリザベラやほかのキャラクターたちを変えていくことになるのです。
興味深いのは、(舞台版「キャッツ」の原作者である)T・S・エリオットは、1930年代に西洋に影響を与えていた東洋の瞑想に非常に興味を持っていたということです。舞台版「キャッツ」の冒頭に、「ジェリクルキャットには3つの名前がなければならない」と歌うパートがありますが、歌詞では「3つ目は瞑想することで自らに降りてくる」というようなことを言っています。アンドリューは舞台版を作ったときにエリオットの精神性を保ったのだと思います。なので、日本のファンの方々の解釈はある意味正しいと言えるのではないでしょうか。
――今作には批判も含め様々な反応がありますが、どのように受け止めていますか?
「キャッツ」を映画として私が作りたいように作らせてもらえたことに、いまだに驚いています。今作は、全世代の方が楽しめるファミリームービーです。子どもはアイデアや想像へのバリアがないので、人間が演じる猫をすぐに“本物の猫”として受け入れられる。重要なのは、そういった純真な心で今作を見ることです。私はそういう気持ちで作りましたし、私と「キャッツ」の旅路は、子どもの頃に衣装を着てメイクアップした人間をすんなりと「猫だ」と思った経験から始まっています。大人になり、想像することに壁を作ってしまうのは悲しいことです。この映画を見て、その壁を壊してほしいですね。
「キャッツ」は1月24日から公開。