もうね、シク教徒のオッサンが走ってるだけでドラマチックに魅せてくる訳です。砂煙の舞う砂漠で、向こうから駆けてくるターバンの男。
そこにバーン!と壮大な音楽。無音で観たら面白くも何ともないシーンなのに、走る男のたぎる血の熱さが伝わってくる。
私がインド映画に求めているのは、まさしくコレだ!この高揚感だ!と、スタートから盛り上がっちゃったね。
サラガリ砦を巡る攻防戦を描いた今作は、21人で1万人を迎え撃つ壮絶な史実がベース。36シク連隊の誇り高き兵士たちに、胸熱くなること請け合いである。
そもそもサラガリ砦は通信の為の中継基地で、駐屯している兵は少なく、衝突も少なく、なんかノンビリした雰囲気に包まれている。
そこへやって来るのがロックハート砦で一騒動起こしたイシャル・シン軍曹。上官の命令を無視してしまうのは軍人的にアレだが、シク教徒の名に恥じない高潔さを感じる男である。
ゆるゆるのシク36連隊から最初は反感を買うものの、「鶏事件」を経て団結する様が非常にコミカルにインド映画らしく描かれ、ほっこりする。
この映画を観て俄然シク教に興味が湧き、成立から行動様式から、果てはタイガー・ジェット・シンの逸話まで調べに調べてしまった。
知れば知るほど興味深い。
映画の中で頻繁に「平等」が言及されるが、シク教の原点はカースト制度への疑問と形骸化した教義の批判だ。
形だけにとらわれ、個々に持ちうる神聖さを尊重せず、平等を排する思想からの脱却と自衛がシク教徒のシク教徒たるアイデンティティ。
自分がシクであることの証明がターバンと髭であり、家でもないのにターバンも巻かず下着姿でダラダラしていた訳だから、イシャルが怒るのもムリなかったのだなぁ、と思う。
難点を上げるとすれば、みんなターバンでみんな髭、おまけに軍服という三重苦で、誰が誰やら見分けに苦労するところか。
名前も全員「ナントカ・シン」だしね。
それでも生まれた土地を思い、仲間を思い、平等と誇りをかけて闘いに繰り出す21人の獅子たちはそれぞれにカッコいい。
巨大な宗教の交わる土地で、己の信じるものを貫き、他者への愛を忘れず、少数ながらにその真価を見せつけてくれたサフラン色の勇姿は、語り継がれるに値する近代の伝説として申し分ない。