燃えよ剣

劇場公開日:

解説

新選組副長・土方歳三の生涯を描き、過去に映画化、ドラマ化もされてきた司馬遼太郎の歴史小説を、「関ヶ原」の原田眞人監督&岡田准一主演の再タッグで新たに映画化。江戸時代末期。黒船の来航により、外国から日本を守るため幕府の権力を回復させようとする佐幕派と、天皇を中心にした新政権を目指す討幕派の対立が深まりつつあった。武州多摩の農家に生まれた土方歳三は「武士になりたい」という思いで、近藤勇、沖田総司ら同志とともに京都へ向かう。芹沢鴨を局長に、徳川幕府の後ろ盾で新選組を結成し、土方は「鬼の副長」と恐れられながら、討幕派の制圧のため京都の町で活躍を見せるが……。土方歳三役の岡田のほか、土方と生涯愛を貫くお雪役を柴咲コウ、近藤勇役を鈴木亮平、沖田総司役を山田涼介、芹沢鴨役を伊藤英明がそれぞれ演じる。

2021年製作/148分/G/日本
配給:東宝、アスミック・エース
劇場公開日:2021年10月15日

スタッフ・キャスト

監督
原作
司馬遼太郎
脚本
原田眞人
製作
市川南
佐野真之
共同製作
兵頭誠之
藤田浩幸
藤島ジュリーK.
杉田成道
弓矢政法
飯塚浩彦
宮崎伸夫
広田勝己
林誠
鯉沼久史
吉川英作
東実森夫
田中祐介
井戸義郎
企画
鍋島壽夫
エグゼクティブプロデューサー
山内章弘
豊島雅郎
プロデューサー
佐藤善宏
臼井真之介
撮影
柴主高秀
照明
宮西孝明
録音
矢野正人
Bカメラ撮影
堂前徹之
ステディカム
堂前徹之
美術
原田哲男
装飾
籠尾和人
衣装デザイン
宮本まさ江
VFXスーパーバイザー
オダイッセイ
ヘアー&メイクアップ
渡辺典子
SFXデザイナー
渡辺典子
床山・美粧HOD
高嵜光代
音響効果
柴崎憲治
編集
原田遊人
音楽
土屋玲子
助監督
谷口正行
増田伸弥
スクリプター
川野恵美
殺陣
森聖二
スタントコーディネーター
中村健人
土方関連殺陣
岡田准一
キャスティング
田端利江
ラインプロデューサー
和田大輔
渡辺修
プロダクション統括
佐藤毅
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受賞歴

第45回 日本アカデミー賞(2022年)

受賞

最優秀美術賞 原田哲男

ノミネート

新人俳優賞 尾上右近
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(C)2021「燃えよ剣」製作委員会

映画レビュー

3.5脇役たちの躍動が見どころ。

2021年10月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

○作品全体 『燃えよ剣』は、脇役が躍動する作品だ。幕末という時代の転換点において、本作の主人公・土方歳三が属する幕府側の勢力は新時代を迎えるにあたり錦の御旗を持たぬ脇役であるし、その幕府側に属する新選組は幕府側においても末端の浪士集団で、大きな時代の潮流に振り回される脇役でしかない。その集団に属する土方は、主人公でありながら「副長」というサブポジションに座っている。本作はその脇役たる土方を主役に据えることによって、時代の脇役達が持った信念を画面いっぱいに溢れさせていた。 物語の主軸が幕末という時代であるため土台には佐幕派と倒幕派の対立があるのだが、駆け足な物語というよりテンポの良い物語だと感じる。脇役・土方が回顧するようにして時代を追いかけていることが、そうさせるのだと思う。主軸とは違う部分で歩んできた土方の一生とすることで、その時代に生きている人々の感情にスポットを当てている。 土方の百姓時代から語られるのも、土方が政治の端に居ることを印象づける。京都へ上る前の「百姓臭い歩き方」を矯正したり、近藤勇が土方くんと呼ぶシーンはコメディチックで近藤と土方の距離感が伝わってくるシーンだが、一方で一百姓から武士という主役級へと変化しようと足掻く姿のようにも感じて、二人の青年の心情に寄り添ったシーンでもあった。 新選組に属してからの土方は脇役として時代に、そして周りの人物に振り回される。芹沢鴨をはじめ、朝廷に執拗に近づく近藤やもうひとりの副長・山南敬介の離反。局中法度作成の中心人物ではあるが「形が悪い」組織を改めるために動く土方の姿は、脇役だからこそ担わされる東奔西走の苦悩が濃く写った。 京都を去ってからの土方は時代の移ろいとともに舞台を北へ移していく。錦旗を持たない旧幕軍で一人の指揮官として戦う土方には武士として戦う矜持だけが残る。自身への手向けのように独り突撃し、死するラストは、シンプルな構図なだけに脇役武士・土方が主役となる数少ないシーンだ。しかし無力に散っていく姿には脇役としての宿命もあって、土方の生き様のラストを飾るにふさわしいものだった。 一方で土方を主役に立たせる脇役も居た。お雪だ。 土方とお雪は新選組と長州藩士の元妻という関係性があるが、それをも超えた恋仲として、時代とは別に二人だけの世界も存在している。そこでは土方は主役であり、新選組副長・土方歳三という肩書が薄くなる。脇役としての役割から開放された土方を写すことによって、人間・土方歳三としての色味も作品に醸し出すことができていた。 その他にも会津家訓に苦悩する松平容保や病と戦う沖田総司、影で暗躍する山崎烝といった登場人物たちも脇役として躍動する姿が印象的だった。 一人ひとりの脇役、それぞれが自らの立ち位置に矜持を持ち、もがき戦う。その姿が苦しくもあり、力強くもあった。この情景を作り出すことができるのは、おそらく脇役だからこそ、だろう。 ○カメラワークとか ・ファーストカットとラストカットが同一。無人のカットから始まり、斃れた土方が上手に運ばれて終わる。このファーストカットとラストカットだけは、時代や立ち位置を完全に置き去りにして土方という人間だけを映していた。真俯瞰のカットだから、ファーストカットとラストカットを合わせるからこそ作ることができる演出だった。 ・一本道の舞台が多い。上述した百姓臭い歩き方を直すシーンや芹沢を討ちに行く前に近藤・土方・沖田が組手をするシーンは長い外廊下が舞台。まっすぐと前へ進む心象風景であったり、その途中で足踏みをする状況描写として機能していた。 あとは近藤が降伏するシーン。終わりを感じさせる先の見えない丘へ、一本道を上がっていく近藤。シーン終わりはカメラを引いて、そことは別の道があることを映す。近藤が登っていく道と、そことは逸れるもう一つの道。土方の道だ。 ・お雪の元へ服を返しにくる土方。土方を上手に、お雪を下手に横位置で映す。次のカットで時間経過。次に会う日に飛んだのだろうか、夜になっていてカメラはイマジナリーラインを超える。上手にお雪、下手に土方。マッチカットっぽく写していた。親睦を深める描写としての時間経過はわかるが、日にちを飛ばしてイマジナリーラインを超えたように映すマッチカットは、正直見たことがないかも。関係性の進展、という意味で汲み取った。 土方とお雪が嘘をついていたと互いに話すシーンも、本作では珍しいど真ん中にアップショットで切り返すカット割り。土方とお雪のシーンは演出的にもカメラワークが独特で、別世界のように写していたように感じる。 ○その他 ・アクションの骨太さに目をみはる。主演・岡田准一自らが殺陣を作っているらしい土方のアクションには無骨さがよく出てる。足払いがあったり、刀の柄を使って殴っていたり。ありがちな一太刀でバッサリ、みたいなアクションもほとんどなかった。池田屋で不逞浪士が団子になって新選組と立ち向かう姿とかも新鮮だった。 ・個人的には土方の「百姓臭い歩き方」がMVP(?)。「鬼の副長」という冷徹さが染み付いた土方というキャラクターに無骨さや野暮ったい田舎臭さが滲み出てて、キャラクター付けとしても良く出来てる。小学生くらいにこの作品見てたら真似してただろうなあ…。

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すっかん

4.0原作&司馬遼太郎ファンが作った秀逸な映像化

2021年11月16日
PCから投稿

2時間半近い上映時間を長いと思われるかも知れないが、幕末、新選組、土方歳三、どれひとつ描くにも足りるわけがない。なので大胆にエピソードをぶった切るしかなく、ダイジェスト的な構成になるのは避けられない。しかし本作では、ダイジェスト的な語り口を上手く使って、省略の合間に、さまざまなドラマの残り香が感じられるようにっている。 もともとこの題材に興味がない人には説明不足に映るだろうが、歴史好き、原作ファン、司馬遼太郎ファンがピンとくるような、小ネタの散りばめ方が上手い。基本的には長編小説の『燃えよ剣』を踏襲していて、あくまでも土方歳三が主人公なのだが、短編集の『新選組血風録』や別の短編の要素を取り入れることで、脇キャラにもそれぞれにドラマがあることが伝わってくる。 戊辰戦争末期の土方が回想する、という形式は、ともすれば勢いを削ぐおそれがあるのだが、岡田准一が土方のお国言葉で喋ることで、説明的になりすぎず、人となりを感じさせるシーンとしても機能している。時代考証と関係のない近藤勇のダンスシーンをぶっ込んでくるような遊び心も、映画の楽しさに直結している。 そして、演者が全員いい。特にウーマンラッシュアワー村本の山崎烝や、はんにゃ金田の藤堂平助がコメディリリーフでなく世界観の中に溶け込んでいて、本人の持ち味をこうやって活かすというキャスティングの妙を感じた。あと、これだけ詰め込んでいるのに、土方VS芹沢、土方VS以蔵、池田屋事件など、アクションの見せ場にちゃんと尺を使っている。特に中盤までの脚色や構成はみごとだと思うし、逆に終盤テンションが落ちるのは、そういう物語なので誠実な作りだと感じた。

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村山章

4.0激動の時代に燃えて散る、滅びの美学の体現者たち

2021年10月21日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

興奮

「日本のいちばん長い日」(2015)、「関ヶ原」(2017)そして本作と、近年は壮大で重厚な歴史群像劇が続いている原田眞人監督。おそらくは時間が短くて軽いものが好まれる視聴習慣の変化もあり、映画でもテレビドラマでも時代劇が斜陽化しつつあるのは仕方ないのだろうが、先達が築き継承してきた時代劇の伝統を終わらせてなるものか、といった覚悟や使命感が原田監督作から伝わってくる。 岡田准一は「関ヶ原」の石田三成役に続き、「燃えよ剣」では幕末の新選組副長・土方歳三役と、いずれもかつては体制側に身を置きながら大きな政変の時期に新勢力に打ち負かされる、滅びの美学を体現するような武人を演じた。身体能力の高さを活かした殺陣のパフォーマンスは本格の味わいで、共演の鈴木亮平、山田涼介、松下洸平、伊藤英明らも気迫のこもった演技で応え、剣に生き激しく燃えて散っていった男たちの姿を描いている。 大長編の小説の映画化ゆえ、展開があわただしいダイジェスト的な作りになったのは仕方ない面もある。幕末維新の頃を描く過去作を通じてこの時代の予備知識があればある程度補えるが、そうでなくても、鑑賞後に興味を持って原作を読んだり、当時の歴史を調べたりするのもありだろう。 原作小説にあった「男色」の要素が排除されたのも、幅広い層の観客を動員するためには妥当な判断だった(ジャニーズ所属だと同性愛はタブーなのかと思って調べたら、東山紀之がゲイ役の舞台劇に出演していたので、そんなことはないようだ)。新選組と男色のつながりに興味があれば、同じく司馬遼太郎の小説を大島渚監督が映画化した「御法度」(1999)と見比べるのも一興だろう。

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高森 郁哉

5.0多くの映画などで登場する「新選組」の実像がやっと見えてくる本格的で面白い超大作・時代劇映画!

2021年10月15日
PCから投稿

これまで「土方歳三」「沖田総司」「近藤勇」や、よく映画で登場する「池田屋事件」など、そこまで興味がなかったので、私のなかで「新選組」は「点」(単語)の状態でした。 それが、本作では、最初から最後まで、とことん「新選組」を描いているので、そもそも「新選組」は、幕末のわずか6年しか存在しない刺客集団で、最盛期には200名を超えるまでになっていたことを知りました。 さらに、その6年の間にこれだけ多くの出来事が起こっていたのかと、「点」と「点」がつながるだけでなく、「内部抗争」も含め、ようやく「新選組」とは何だったのかを理解できたのです。 本作の大きな特徴に、岡田准一演じる「土方歳三」が“ある人”に話す形で物語が進むという上手い構成があります。 少年時代に「バラガキ」(触るとイバラのようにケガをさせる乱暴者のガキ)と呼ばれていた「土方歳三」がどんな経緯で農家の子供から武士になっていくのか、「沖田総司」「近藤勇」の背景や「新選組」の成り立ちなどが「時系列」で分かっていくのです。 しかも、映像も凄く、「世界遺産」「国宝級建造物」など60カ所という規模のロケ地を含め、徹底的にリアリティーにこだわっています。 ちなみに「池田屋事件」を再現する際は、通常は撮影所にセットが作られるのですが、本作では滋賀県彦根に全長125mにも及ぶ「街並み」をそのまま作り上げてしまっていて、中心となる「旅館・池田屋」は、わざわざ宮大工に完全再現してもらう徹底的なこだわり様となっています。 総勢3000人を超えるエキストラの動員も含め、超大作映画ならではの「画面の優雅さ」があり、岡田准一を筆頭に、鈴木亮平、山田涼介などの演技も光り、どの面をとっても大きなスクリーンで見るべき作品と言い切れる出来栄えになっていました。

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細野真宏