黒い司法 0%からの奇跡 : 映画評論・批評
2020年2月25日更新
2020年2月28日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
なぜ彼は差別のはびこる司法の場で闘えたのか? 注目すべきは“共感力”
舞台はアラバマ州モンロビール。グレゴリー・ペック主演で映画化された「アラバマ物語」の作者ハーパー・リーの出身地だ。「アラバマ物語」では、ペック扮する弁護士アティカスが、白人女性の暴行容疑に問われた黒人青年の冤罪を晴らすために不利な闘いに挑む。一方「黒い司法」では、マイケル・B・ジョーダン扮する弁護士ブライアンが、白人女性殺害の罪で死刑宣告された黒人男性の冤罪を晴らすために再審請求に挑む。アティカスは白人のベテラン弁護士、ブライアンは黒人の新人弁護士だが、それ以外、両者を取り巻く状況は驚くほど似ている。「アラバマ物語」は公民権法制定以前の1930年代、「黒い司法」は半世紀を経た1987~1993年の話であるにもかかわらず、だ。
ブライアンの依頼人ウォルター(ジェイミー・フォックス)は、「俺たち(黒人)は生まれながらに有罪。証拠など関係ない」と言う。アリバイがあっても証人がいても、黒人だからという理由で正しく裁かれない。司法の場に歴然と存在する人種差別に理不尽な思いがつのる。
とはいえ、「黒い司法」のメインテーマは人種差別の糾弾ではない。圧倒的に不利な再審への道のりを、ブライアンはどうやって切り開いたのか? なぜ彼にそれができたのかが焦点になっている。その答えのヒントとなるのが、インターン時代のエピソード。同世代の死刑囚と面会したブライアンが思い出話で盛り上がる場面だ。彼はとにかく相手の話を聞き、自分との共通点をみつけだす。この共感力の高さこそが、人権派弁護士としてのブライアンの最大の武器なのだ。
そこで思い出すのが、「アラバマ物語」のアティカスの金言。「他人の靴を履いて歩き回ってみなければ、本当にその人のことはわからない」。相手の立場に立つことがいかに大切かを娘に教えるセリフだが、ブライアンは、まさにそれを自然体で実行している。劇中、モンロビールの住民たちは「アラバマ物語」の博物館が町にあることを自慢げに語るが、彼らが真に誇るべきは、アティカスの後継者が町にやって来たことだと、この映画は静かに諭している。
(矢崎由紀子)