「果てしない人間」宮本から君へ andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)
果てしない人間
宮本...絶対嫌われそうな男である。いや私だって好きじゃない。あんな人近くにずっといたらぐったりする気がする。漫画連載時に宮本バッシングが起きたというのも分かる。もうああいう熱は流行らない時代になっていたのだ。今も。
原作も連ドラも未読、未視聴の状態で行ったので宮本という男に格別の思い入れがあったわけではない。でも、嫌だな、面倒だな、と思っても羨ましい奴だな、と思ってしまう。
羨ましい。
今時あんな生き方は流行らない、むしろ迷惑だ。何にでもがむしゃら全身全霊、周りを見ず、ひたすらに自己の感情に従い、そしてそんな自分自身を全肯定している男。書いているだけで面倒くさいではないか。でもそれって、少し欲しかったよね、と思う。あれくらい自分に従って生きて、それで幸せが掴めるなら、それをたったひとりでも分かってくれるならそれでいいような気もする。
前半の幸福からの暗転、陰鬱、蒼井優の涙と叫び、池松壮亮の表情、全てが生々しい。遠慮なんてどこにもない。
本当にこの映画綺麗じゃない。宮本は前歯折られて喋り方がホゲフガだし(池松壮亮は本当に歯を抜こうとして蒼井優に止められたらしい)、レイプのシーンは生々しく苦しく、中野靖子と同様に宮本と真淵卓馬を憎む。決闘のシーンとか、果てしなく血みどろだしバキバキだし、どちらも容赦がない(容赦なさ過ぎて逆に笑えてくる)。さすが「ディストラクション・ベイビーズ」の真利子哲也...。
実際にあんな奴いたら困るし、宮本の行動はとても利己的だ。靖子だって分かっている。宮本も自分を分かっている。それが良い。おれがおれがをあそこまで貫けるなら、もう見守るしかない。
ああいう人間は少し羨ましい。けれど私はああはなれないだろう。計算して生きていくだろう。でも、こういう映画を観て、「こういう人間」に思いを馳せるのもとても良いと思う。そして、極限になってみないと分からない生き方もあるのだろう。その深淵に触れたのだ。
池松壮亮&蒼井優の演技合戦には何もいうことはない。ふたりとも魂が凄かった。涙も怒りも笑顔も、全部刺さるのはこのふたりだからだろう。