コメディを観るには、意外と知識が必要だ。「常識」をちょっとずらすことが可笑しみを生み出す原動力だから。その為には作り手と受け手の「常識」が噛み合っている必要がある。
アメリカンジョークが日本でウケないのは、アメリカと日本との間に既に「常識」のズレが存在しているからで、違う言い方をするなら「笑いのツボが違う」、という事。
シャーロック・ホームズ関連の作品、またはシャーロック・ホームズから派生した作品は数多くあり、「俺たちホームズ&ワトソン」は「こんなホームズがあってもいいんじゃないか?」という、新たなH&Wの物語。
頭脳明晰なホームズが、魔法のように事実をピシャリと言い当てる。そのメカニズムは常人には全くもってついていけない。
本作のホームズも推理によって色々な事を言い当てるが、肝心のホームズを演じているのが真面目腐った顔をしたウィル・フェレルなことが既に可笑しいのだ。
「お前、本当はテキトーな事言ってるだけなんじゃないの?」感が拭えない。そこが既に可笑しい。
そんなホームズに心酔するワトソンをジョン・C・ライリーが全力で演じていて、それがまた可笑しいし、可愛い!
ギャングな肉屋から存在感ゼロのセロハン男、無骨なカウボーイと幅広い役柄で映画を支える名優は、こんなおバカコメディでも惜しみ無い全力投球。相変わらず歌が上手い。
ネタの解説は無粋だけど、序盤からバンバン投入されるなかでもお気に入りをちょっとだけ。
まずは今最先端のいじられ国家・イギリスのブレグジットネタ。ホームズがとっかえひっかえする帽子に「栄光あるイギリスを取り戻そう」の文字。
映画ネタでは死体解剖のシーンでの「ゴースト」ネタ。これはもう鉄板だからね。お馴染みの「アンチェインド・メロディ」が流れてきた時点でどうなるのかまるわかりだけど、解剖でやれるか、普通?
中盤でのアメリカについて「独立させてやった」と上から目線な発言はアメリカから見た(いや、世界中一緒か?)イギリスの印象。
ドラマ「Dr.HOUSE」でハウス医師を演じたヒュー・ローリー(ハウスはホームズのもじり。偏屈な天才が病気を解明する医療ミステリー)。
と、まぁこんな感じで全力おふざけに終始忍び笑いする映画だから。それでいて「今ベストだと思っていることが、将来の悲劇を招くかもしれない」という示唆に富んだ描写をしてくる当たり、ちゃんと風刺の側面も持っているところがコメディの喰えないところでもある。
日本ではゴールデン・ラズベリー賞の事が「最低な映画に贈られる賞」と認識されてる。まぁ、その通りと言えばそうなんだけど、知名度もないような有象無象にあげても何も面白くないわけ。
超有名な人や映画に与えるから話題性があるし、「お前もっと出る映画選べよ!」とか「しょうもない(笑)」とか「賞レースには縁がないだろうからラジー賞だけでも持っていって!」という、映画愛にあふれた内輪ネタなんだよね。
この映画がラジー賞に輝いている、ということ自体がこの映画の本質をよく分かっている、ということ。
ちょっとした事を楽しむ為にも、やはり知識はあったほうが良い。