「寅さん、会いたかったです」男はつらいよ お帰り 寅さん しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
寅さん、会いたかったです
"男はつらいよ" シリーズ第50作。
通常スクリーンで鑑賞。
寅さんの新作がスクリーンで観られるとは、なんて幸運なのだろう。その瞬間に居合わせられたことに感謝しつつ、この時間を噛み締めるつもりで映画館へ足を運びました。
ずっと泣きっぱなしでした。本作が公開されると云うことで全作を観た人間なので寅さんファン初心者ではありますが、すでにお馴染みの面々に懐かしさを覚え、シリーズ通してのキャストとスタッフ、そして新しい世代の力が万感の想いと共に籠められていて、常に涙腺が弛んでいました。
満男が小説家になっていたり、くるまやが喫茶店になっていたり(おいちゃんたち、本当に三平ちゃんに譲ったのかぁ…)と、22年と云う月日を感じさせられました。
とても驚いたのが、満男が泉ちゃんと結婚していなかったこと。上手くいったとばかり思っていたので、人生そうはすんなりいかないものなのかもしれないと思いました。
満男のサイン会にイズミが現れたことで思い出すあの頃のこと。そして、伯父さんと過ごした明るい日々の想い出。
お馴染みの面々の現在を描くと共に、様々な名シーンと共に紡がれていく足掛け50年分の追憶が泣かせに来る。
そこにあったのは文字通り、登場人物たちの人生そのものでした。本作のために撮った回想シーンでは無いことがすごく、シリーズ物だからこそ出来る芸当だなと思いました。
みんなの心の中には、美人に惚れ易く、底抜けに陽気で、バカだけれども憎めない、四角い顔のあの人の姿が。
寅さんが満男たちにもたらしたものは、少なからず彼らの人生に大きな足跡を残していました。それぞれの生活があり、それぞれの悩みを抱えながら、それぞれの人生を歩んでいく。
いろんなことがあった。これからだってあるだろう。でも大丈夫。何故なら、いつも寅さんがそばにいてくれるから。
満男の見る幻や回想シーンにしか寅さんは出て来ません。
もちろん、演者である渥美清が死去しているのだから当然のことです。しかし全てのシーンに確実に存在していました。
不思議な感覚でした。キャスト、スタッフはじめ、みんなの中に寅さんがいたからなんじゃないかな、と…。紛れも無く、主演は渥美清氏―寅さんなんだなと思いました。
本作にはシリーズで唯一、エンドロールがありました。シリーズ全体を総括し、上映時間50年の永い映画がここにフィナーレを迎えたような、そんな感慨に浸りました。
寅さんは今でもどこかを旅していて、みんなはその帰りを心待ちにしているんです。さくらだって、寅さんがいつ帰って来てもいいようにと、2階の部屋をそのままにしている。「ただいま」と言う元気な声に、「お帰り」と応えるために。
辛いことや悲しいことがあったら、こんな時寅さんならどうするかな。どんな言葉を掛けてくれるだろうか。そんな風に考えたらどんなことだって乗り越えていけそうです。
そう、私たちには寅さんがいる。「困ったことがあったら、風に向かって俺の名前を呼べ…」。その言葉の通り、何かと生きにくいこの時代にもう一度あなたに会いたいと願ったら、本当に帰って来てくれました。ありがとう。
寅さんの言葉、生き方、考え方、全てが沁みました。寅さんは今の社会をどう見るでしょうか。正しい答えを示すのではなく、寅さんなりのフィルターを通して世の中を見つめ、今を生きていく指針を示してくれるような気がします。
幸せを求めて生きることに、ふとすれば臆病になってしまいがちで、生きているのが嫌になることもあるけれど、「生まれて来て良かったな」と思える瞬間が来るまで、自分のために誰かのために、何が出来るかを考えていくしかないんじゃないかなぁ…。これからも頑張っていこう。楽しく、朗らかに。
[余談1]
桑田佳祐のMVじみたオープニングがイマイチでした。
本作唯一の不満です。
[余談2]
シリーズ全作制覇した翌日に観に行きたくて、仕事を早く終わらせようと意気込んでいましたが、そう云う時に限って残業になっちゃうんですよねぇ…。世の中そんなもん(笑)。
※2020年映画館初め
[追記(2020/07/21)]
実は初鑑賞で気づいていたのですが、あえて言及を避けていました。そんなゲスな深読みをしてはいけない、と思ったからです。しかし今回再鑑賞して、どうしてもその可能性が頭をよぎってしまい、書かずにはいられなくなりました。なんのことかと申しますと、さくらさん軽度の認知症説、です。
冒頭で、さくらの物忘れが多いことをしきりに強調している気がしました。そこからの発想で、実は寅さんは亡くなっており柴又に帰って来ることはない。寅さんがいつ帰って来てもいいように2階の部屋をそのままにしていると云うさくらの発言は、寅さんが死んだことを忘れているからではないか?
死んでいるとしたら、何故仏壇に遺影を置いていないのか。おいちゃんやおばちゃんのものはあるのにも関わらず。それは満男か博が、さくらが混乱しないように配慮して、わざと置いていないのではないか、と云う想像です。
[以降の鑑賞記録]
2020/07/21:Amazon Prime Video(購入)
2020/08/02:Blu-ray
2021/08/09:Blu-ray
※修正(2023/12/27)
tyzさんへ。
初めまして。
コメントありがとうございます。
大人の事情はかなり絡んでいるでしょうねぇ…。寅さんにそれを持ち込んで欲しくはなかったなと思いました。
近大さんへ。
寅さんへの愛に満ち溢れたレビューに感服致しました。
本作を観て、このシリーズを未来永劫大事にしていきたいと思いました。近大さんの仰る通り、寅さんは日本の宝ということを実感させられました。私にとっても、本当に宝物のような作品になりました。
レビューでは触れませんでしたが、歴代のマドンナをカウントダウン方式で総ざらいしていくというのは、「ニュー・シネマ・パラダイス」のキスシーンを繋ぎ合わせたフィルム同様、「男はつらいよ」を愛してくれた人々への愛の籠ったプレゼントのように感じて、涙が止まりませんでした。
何より、映画館で観られたことが幸せの極みでした。
何でも、春頃から「4Kデジタル修復版」の全作上映が行われるとか…。
本作に挿入されていた過去作のシーンに違和感が無かったことに驚いたので、Blu-rayでもいいですが、やっぱり映画館で観ないといけませんよね!(笑)
今から楽しみでなりません!
遂にご覧になられましたか~!
寅さん好きにとってはお宝のような作品でしたね。
過去のシーンの繋ぎ合わせや渥美清不在なのに、本当に寅さんが作品の柱になっていました。不思議なもんです。
風に向かって俺の名前を呼べ。すぐ駆け付けてやる。
きっと、多くの人が寅さんを呼んだのでしょう。
だから、寅さんは帰ってきてくれたのでしょう。
本当に永遠に居て欲しい、名作であり愛すべき男です(^^)