37セカンズ

劇場公開日:

37セカンズ

解説

出生時に37秒間呼吸ができなかったために、手足が自由に動かない身体になってしまった女性の自己発見と成長を描き、第69回ベルリン国際映画祭パノラマ部門で観客賞とCICAEアートシネマ賞を受賞した人間ドラマ。脳性麻痺の貴田夢馬(ユマ)は、異常なほどに過保護な母親のもとで車椅子生活を送りながら、漫画家のゴーストライターとして空想の世界を描き続けていた。自立するためアダルト漫画の執筆を望むユマだったが、リアルな性体験がないと良い漫画は描けないと言われてしまう。ユマの新しい友人で障がい者専門の娼婦である舞は、ユマに外の世界を見せる。しかし、それを知ったユマの母親が激怒してしまい……。主人公のユマと同じく出生時に数秒間呼吸が止まったことによる脳性麻痺を抱えながらも社会福祉士として活動していた佳山明が、オーディションで見いだされ主演に抜てき。母親役を神野三鈴、主人公の挑戦を支えるヘルパー・俊哉役を大東駿介、友人・舞役を渡辺真起子がそれぞれ演じる。ロサンゼルスを拠点に活動するHIKARI監督の長編デビュー作。

2019年製作/115分/PG12/日本・アメリカ合作
配給:エレファントハウス
劇場公開日:2020年2月7日

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映画レビュー

4.5居場所を求めて

2020年5月26日
iPhoneアプリから投稿

 稀に見る、キラキラした傑作。(コロナ後の再映で出逢え、本当によかったと思う。)こんな素晴らしい作品に、敢えて文章を添えなくても…と思ったけれど、やっぱり書き留めておきたい。書かずにいられない。
 なんと言っても、設定がうまい。主人公・ユマは、元同級生である漫画家のゴーストライターとして、それなりには認められ、活躍の場を得ている。とはいえ、漫画がどんなにヒットしても、その成功は所詮友人のもの。母親との生活は息苦しく、もどかしさや悔しさがつのるばかり。行き詰まりを感じた彼女は、自分の身の置きどころを模索し、もがく。
 仕事もおしゃれも性愛も、車椅子のユマは既存の枠におさまれない。(ワンピースを着て外出したがる彼女を、母親が制止するやりとりが印象的だった。)与えられた居場所に甘んじるのをやめようと、危なっかしくも大胆に迷走する彼女は、弱々しいようで力強く、目が離せなかった。
 壁にぶつかるたび、彼女が手にして見入る親子のイラスト。窮地から救われた彼女が、車窓から眺める都会の夜景。そこに彼女の居場所はなく、異次元に紛れ込んだようだと彼女はつぶやく。実写にイラストやアニメが絡む描写が、漫画を志す彼女だからこそ、説得力が増し、躍動する。彼女の目に映る「よのなか」が、切ないほどに生き生きと伝わってきた。
 後半、物語の舞台は都会から海辺の町、そして緑濃い南国へ。ああ、この場所こそ彼女の再出発に相応しい、と合点した。(パスポートとか、タガログ語のやりとりとか、細々した帳尻合わせは脇に置いたままでいい、とあっさり思えてしまった!)異国での思いがけない出会いから、これまで「与えられるばかり」だった彼女が、「与える」側になる。そして、これまでも彼女が周囲に様々なものを与えてきたこと、そしてこれからも…ということを、一瞬にして描き切る。その豊かな語り口に圧倒され、息を呑んだ。
 自分は何者なのか、どこで、何をすればいいのか。そんなもやもやは、誰しも抱くことだ。自分でもやっていけそうな場所を選択肢から選び取るだけでは、本当の居場所にはならない。他人のやり方をなぞるのではなく、自分の内側に目と耳を向けて、自分なりの居場所を作っていく。簡単なことではないし、辛くて苦い思いもついて回る。けれども、そんな一歩一歩すべてが、かけがえなく素晴らしい。文字にすると無粋で当たり前すぎることを、本作は、瑞々しく語ってくれる。これぞ映画の力、だと思った。
 旅から戻った彼女は、もううつむかない。異次元の中でも戸惑わず、まっすぐ前を向いている。キラキラした彼女の笑顔が、最高の幕切れだった。

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cma

5.0アウトサイダーが偏見も因習も忖度もぶっ飛ばし、隠されがちな存在を可視化する

2020年12月9日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

楽しい

幸せ

革命は辺境より来たる。むかし歴史で習った言葉を思い出した。

本作は多くのアウトサイダーたち(マイノリティーと言い換えてもいい)が関わって生まれ、世に送り出された。若くして単身渡米し人生模索ののち、30歳で映画監督を志したHIKARI。脳性麻痺を抱えながら社会福祉士として働き、演技未経験ながら、ヌードや性的な場面もあるユマ役をオーディションで勝ち取った佳山明。脚本には佳山自身の人生や家族の要素に加え、障害者の性に関する支援をする介護士、野良猫のように何にも縛られず介護支援を行う「のらヘルパー」らとの出会いも反映されたという。常識や前例や同調圧力にとわられずに生きる彼女ら、彼らだからこそ、障害を持つ女性が勇気を出して人生の冒険に踏み出すストーリーを、普遍の成長物語に昇華できたのだろう。

始まってものの5分で心を鷲掴みにされる。4Kの映像は美麗で、時に残酷だ。日本社会では不可視の存在とされがちな障害者の、性的な要素を含む生活と内面に光を当てた功績は大きい。この傑作が偏見や差別を減らす力になると強く信じる。

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高森 郁哉

5.0誰にだって己がアイデンティティと対峙する時がある

2024年5月24日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

知的

幸せ

自立のためにはアイデンティティが必要だ。
庇護され続けた主人公はそのアイデンティティが浸食され気味で、
求める入り口として身体(性)から入ってゆく。
やがてその向こう側、身体に左右されないルーツであり心の中心を探す旅へ。
前半、ハラハラの冒険譚であり、後半は切ないロードムービー仕立て。
主人公は障害者だがイニシエイションよろしくこれらは健常者にも同様に立ち塞がる。
同様に、と感じられるところが尊かった。

まさにハンディキャップというように、障害はきっと生きるさいのルール、
しばりがひとつふたつ、多いだけで、
ルールの問題で、
人として皆、同じなのだよなと思わずにはおれない1本だった。

ヘルパーのお兄さんがあまりにデキルヘルパーさんで、
神のようであった。

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N.river

4.0心に刺さる映画。自分自身のことを見直せる。

2024年1月15日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD
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しの