ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド : 映画評論・批評
2019年8月27日更新
2019年8月30日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
映画ファンのためのお楽しみがギュっと詰まった必見エンタテインメント
クエンティン・タランティーノ9本目の監督作は、その題名が示す通り、これまでの彼の作品以上に彼が愛する映画の世界に至近距離で寄り添い、彼の趣味を全編に散りばめながら、思いを馳せ、懐古し、創造し、妄想する60年代ハリウッドへの挽歌にして極私的グラフィティ。
舞台はその栄光に陰りが見え始めていた69年のハリウッド。主人公はレオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットが演じるマカロニ・ウエスタンに活路を見出す落ち目のスターとそのスタントマン。タランティーノはこの2人の姿に、華麗なる成功者ではなく、スティーヴ・マックィーンやクリント・イーストウッドにはなれなかった、勝ちきれなかった者たちの悲哀を込める。
だが、タランティーノが最大の愛情を込めて描くこの映画の真の主人公は、マーゴット・ロビー演じる実在した女優シャロン・テートだ。
この50年間、マンソン・ファミリーが起こしたハリウッド史上最も凄惨な事件の被害者としてしか記憶されてこなかった一人の美しき女優を、タランティーノはスクリーンに活き活きと蘇えらせ、ロマン・ポランスキー監督と過ごした彼女の最も幸福な時を観客に共有させることで彼女を映画史にもう一度輝かせる。そして“映画の神”として、ある優しくもバイオレントな奇跡を起こすのだ。
よほどマニアックな映画ファンでなければシャロン・テートを覚えている人はいないだろう。だが、それでも自分がヒロインとして出演した「サイレンサー 破壊部隊」を映画館で見た後の満足げな彼女の美しい笑顔は涙無しには見られない。
もちろん、ハリウッド現役2トップの初共演も笑わせ、ホロリとさせ、手に汗握らせて満足度は高く、アル・パチーノ、カート・ラッセル、ブルース・ダーンといったベテランの味もガツンと効いて、映画ファンのためのお楽しみが頭から尻尾までギュっと詰まった必見のエンタテインメントである。
が、すでに各方面で言及されているように、ブルース・リーやマカロニ・ウエスタン、マンソン・ファミリーに関する描写は、あくまでもタランティーノの個人的主観で描かれるので、各分野に詳しい人から見ると“ちょっと違う”という意見も出て、公開後の賛否両論激突も必至。そのあたりは当然、タランティーノ自身も織り込み済みだろう。
(江戸木純)