アメリカン・アニマルズ : 映画評論・批評
2019年4月30日更新
2019年5月17日より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにてロードショー
若者たちの果てしない承認欲求。その無様なてんやわんやっぷりに嫌な汗が…
近年でいえば「運び屋」や「ジーサンズ はじめての強盗」「ローガン・ラッキー」など、もはや失うもののない負け犬が素人ながら犯罪に最後の望みをかける映画は、クライムものの一種の定番。犯罪者が同情の余地のある社会的弱者であったり、動機に“誰かのため”という想いが含まれていたりすると、観客の共感度はグッとアップする。
しかし、「アメリカン・アニマルズ」で罪を犯す素人たちは、負け犬どころか中流階級出身の4人の大学生である。中心人物は、オラオラ系のウォーレン(エヴァン・ピーターズ)と、芸術家肌のスペンサー(バリー・コーガン)。退屈な毎日を過ごす彼らは「特別な人間になりたい」という動機から、大学の図書館に収蔵されている1200万ドルの画集(ジョン・ジェームズ・オーデュボンの「アメリカの鳥類」)を盗み出す計画を立てる。
仲間に引き入れたのは、FBIを目指す秀才エリック(ジャレッド・アブラハムソン)と、すでに実業家として成功を収めていたチャズ(ブレイク・ジェナー)。参考にしたのは「オーシャンズ11」 や「レザボア・ドッグス」といったクライム・ムービーや、ネットで検索した情報。素人が実地訓練ゼロでぶっつけ本番に挑んだ経過も結果も惨憺たるもの。その無様なてんやわんやっぷりを見ていたら、十分な準備をせずに本番に挑んで大失敗した過去の出来事を思い出し、嫌な汗が出てきてしまった…。
2004年にケンタッキー州トランシルヴァニア大学で実際に起きた窃盗事件を、ドキュメンタリー映画出身のバート・レイトンが劇映画化した本作。役者が演じるドラマに、事件を起こした本人たちへのインタビュー映像を混ぜたことで、ただの実録ドラマではなく、人間の本質に迫る深みを持ち合わせた。例えば、4人の記憶と証言には食い違いが多々あるが、役者が演じたドラマ部分のあとに、それを覆す別人の証言映像が続き、観客は狐につままれたような気分を何度も味わう。そこからわかる監督の狙いの1つは“真実の追求”ではなく、過去の出来事を自分に都合よく改ざんする人間の特性の証明だろう。
そして本作は、バカは服役ぐらいでは治らないということも証明する。刑期を終えた4人は30代になり、若気の至りを反省している気配がないこともないが、最後にテロップで語られる彼らの現在の生活や今後の目標に「マジか…」と愕然! スタイリッシュな映像と音楽で練り上げたクライム&青春映画だが、その仮面をはがして露わになる、いかんともしがたい人間の性と果てのない承認欲求にまたしても嫌な汗が…。
(須永貴子)