劇場公開日 2019年7月20日

  • 予告編を見る

「ずっしり重いレバノン版『万引き家族』」存在のない子供たち よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ずっしり重いレバノン版『万引き家族』

2019年2月5日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

 レバノンの貧民街に暮らすゼインは学校にも行かせてもらえず家族の生計を助けるために色々な仕事をさせられているが兄弟思いの優しい少年。妹のサハールが近所の商店主と強制的に結婚させられたことに耐えられないゼインは家を飛び出し海沿いの町に辿り着き、小さな遊園地のレストランで働くエチオピア移民の女性ラヒールと出会う。ラヒールの息子ヨナスの世話をすることを条件に一緒に暮らし始めたゼインだったが、ある日ラヒールが家に戻らなくなり仕方なくヨナスを連れて町に出るが・・・。

 冒頭にゼインが法廷に立つシーンから始まり、なぜ彼が法廷に立っているのかを紐解いていく構成。貧しい生活の中で身につけたサバイバルスキルと実に子供っぽいヤンチャさで厳しい世界を生き抜くゼインが辿り着いた自分の出生に関する真実、狡猾に振る舞う男達に不当に虐げられる移民達、そしてスクリーンの向こうから饐えた腐臭が漂って来そうな薄汚れた街並み。何もかもが凄惨な世界で、それでもゼインの置かれた現状を知り手を差し伸べる人達によって暗闇に微かな光が差し込む様がしんみりと胸に沁みる静かな感動作。

 リオを舞台にブラジルを代表するフェルナンド・メイレレス、ジョゼ・パジーリャ他国内外の多彩なスタッフ、キャストによる短編10作によるオムニバス映画『リオ、アイラブユー』でハーヴェイ・カイテル主演の”O Milagre”を監督していたナディーン・ラバキーの監督作。”O Milagre”は神様から電話がかかってくると信じて公衆電話の傍から離れようとしない少年を巡るファンタジー、本作とも通底する厳しい現実を真正面から見つめる強さと包み込むような母性が印象的。どちらにも出演されている監督の確固たる理性を携えた凛とした美しさももちろんカッコいいですが、自ら演じる役を通じて主人公に対する自分の思いを滲ませるかのような演技も素晴らしいです。

よね