セラヴィ! : 映画評論・批評
2018年6月26日更新
2018年7月6日よりシネクイントほかにてロードショー
笑えない事態が、笑いを生む。人間愛に溢れたドタバタコメディ
コメディは当たりハズレが大きいけれど、この映画は当たりだった。ラッキー! 「最強のふたり」監督コンビが、ある結婚式の一日を描いた狂騒劇だ。
この道30年のウェディングプランナー、マックス(ジャン=ピエール・バクリ)が、古城を貸し切ってのゴージャスな結婚式をプロデュースすることに。式の当日、大勢のスタッフと食材も揃い、準備万端……と思いきや、次から次へとトラブルが起こる。
多国籍なスタッフたちはイマイチ頼りなく、そもそも新郎が究極に自己チューでいけ好かない。右腕のはずの部下はバンドのヴォーカルと罵り合いの大ゲンカ。メインの肉は腐り、バンドメンバーは倒れ、さらに停電が――?!
あらゆる災難が、このとき、この場に降り注ぐ。笑えない事態が、笑いを生む。その状況が主人公マックスを中心とする、複数の視点で切り取られながら、現在進行形で進んでいく。王道だが大味ではなく、小気味よいスピード感とハラハラもある。マックスは降りかかるピンチを乗り越えられるのか? ブッと吹き出しつつ見守ってほしい。
臨時ウェイターとして雇われるマックスの義弟に、「女っ気なし」(11年)のヴァンサン・マケーニュを配したのもナイス。オドオドと自信なさげな外見とうらはらに、なにをしでかすかわからない「こじらせアラフォー男」(ちょっとウザい)が、事態をさらにややこしくする。
もちろん、ただのドタバタ劇では終わらない。スタッフたちのダメ加減についにキレたマックスは、しかし最後の最後で、思わぬどんでん返しをくらう。人間愛に溢れた作品でありつつ、多民族国家であるフランスの光と影、そして人を「労働力」としか見なさない雇用主の視線のいびつさという、どこの世界にも共通する問題を含んでもいる。どんなときも「その人」自身にしっかり目を向けることの大切さを、本作はほんのり示唆している。
(中村千晶)