アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング : 映画評論・批評
2018年12月25日更新
2018年12月28日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
自信を持って輝いて!すべての人々にエールを贈るロマンティック・コメディ
人は誰でもコンプレックスのひとつやふたつ持っているもの。ニューヨークの高級化粧品会社で働くレネーの場合は、十人並みの顔とぽっちゃりボディが悩みのタネだ。日々、「もっと痩せて、美しくなりたい」と努力と研究を重ねているが、モデルのような職場の受付嬢や、ジムで見かける美女たちに、現実を突きつけられてため息ばかり。
ある日、そのジムで事件が起こる。トレーニング中にバイクから落下して頭を強打したことがきっかけで、自分をスーパーモデル体型の超絶美人だと思い込むようになる。実際には何も変わっていないので、自信満々に振る舞うレネーを見て周囲の人たちは困惑するが、彼女はすべてをポジティブに受け止める。自信によって引き出された、彼女が本来もっていた明るさと賢さが、恋と仕事にプラスに働き、彼女の人生に本当のミラクルを巻き起こす。
この設定で思い出すのが、ファレリー兄弟監督作「愛しのローズマリー」。ジャック・ブラックが演じる面食いのハルは、催眠術をかけられて人の内面の姿が見えるようになり、美女ローズマリーに一目惚れをするが、彼女の外見は実は超肥満体だった……というもの。レネーの「思い込み」も一種の催眠術。それが解けたとき、レネーと観客は「外見と内面のどちらが大切か」「人生にとって大切なものは何なのか」といった、永遠のテーマに改めて向き合うことになる。
レネーを演じるのは、主演作「エイミー、エイミー、エイミー! こじらせシングルライフの抜け出し方」でゴールデングローブ賞主演女優賞にノミネートされたエイミー・シューマー。ぽっちゃり体型を個性と捉え、自信を持って輝いている彼女はまさにレネーそのもの。すべての人々にエールを贈るスピーチをするクライマックスは、彼女のカリスマ性と強さによって、実に感動的なトーンになっている。
自尊心が低い美人モデル(演じるのは、イギリス出身のスーパーモデル、エミリー・ラタコウスキー)、すべてを手に入れているのにバカっぽい声に悩んでいる美人CEO(ミシェル・ウィリアムズが楽しそうに新境地を開拓)ら、周りの人々がレネーのポジティブさに救われていく。なかでも、レネーの「あたしに気があるんでしょ」という勘違いからデートをすることになったイーサン(ロリー・スコヴェル)は、男だからといってマッチョさを求める職場や社会で自分らしさを殺していたが、レネーの強さに魅了され、「生まれ変わったら君になりたいよ」と最上級の賛辞を送る。大人のためのロマンティック・コメディとしても、秀逸な仕上がりだ。
(須永貴子)