ヴェノム : 映画評論・批評
2018年10月30日更新
2018年11月2日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
侵食されることで溢れ出た、怪優トム・ハーディのジューシーな魅力
誤解を恐れずに言うならば、トム・ハーディはその爆発的な存在感ゆえ、ある種のリミッターを必要とする俳優である。その証拠に「ダークナイト・ライジング」(12)では顔面マスクを装着し、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(15)では特殊車両の先端に縛り付けられ、「レジェンド 狂気の美学」(15)では心身を分裂させるかのように双子のギャングを演じてきた。そうやってオーラを抑え込むことで初めて我々はその魅力を直に受け止められるのだ。
そんな規格外の彼が今回挑むのは、恐れ知らずのハートを胸に世界中を飛び回るフリーのジャーナリストだ。しかし取材の過程で巨大企業の特殊ラボに忍び込んだところ、突如、得体の知れない流動体が体に付着し、侵食をはじめ……。いつしか自分とは違う別の人格が身を引き裂かんばかりにこう叫ぶ。「俺の名はヴェノム!」。かくして凶暴すぎるモンスターが主役となったまったく新しい物語が幕を開けることに。
これはてっきりダークでバイオレントな方向性に振り切れるのだろうと、誰もが思うはずだ。しかしそこからの展開はことのほか小気味よく、VFXを駆使した映像も相まって、我々の意表を突いてくる。
そもそもこの「1つの肉体に2つの個性が同居する」様がなんとも言えない可笑しさで一杯だ。腹が減ると人間を食いたくなるヴェノムの厄介な性格をなだめ、うまいこと説得しながらピンチを切り抜けるハーディの演技も実にお見事。挙げ句の果てには二人のコンビネーションがうまく回転し、本作は各々が長所を生かし欠点を補いあった極上のバディ・ムービーへと進化を遂げていく。ここまでくるともうなんだかヴェノムが意外と“イイ奴”に思えたりもするから不思議なものだ。
聞くところによると、体内に響くヴェノムの重低音ボイスも、実はハーディ自身が声をあてているのだとか。結果、またしても彼の身から溢れるオーラを彼自身の力で制御する怪作となった感は強いが、ファンにとってはそこが嬉しいポイントだろう。ヴェノムとハーディ、二人のバケモノの規格外の魅力を存分に楽しみたい。
(牛津厚信)