バッド・ジーニアス 危険な天才たちのレビュー・感想・評価
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タイ産の極上社会派エンタメ!!!
今までタイ映画を見てこなかったことを恥じるほどの大傑作。監督のインタビューどおり、社会性と娯楽性を両立させた文句なしの一本だろう。
前半10分ほどでサクッと最初のカンニングをスリリングに見せる。銃のリボルバーを彷彿とさせるペンの切り替えは外連味たっぷりで一気に引き込まれた。
すぐにリン・グレース・パッド・バンクのキャラ紹介を手際よくストーリーを進めながらすませるだけでなく、問題の種類が複数あるというテストあるあるも含まれるなど本当に隙のないストーリーテリングだ。そして、消しゴム・鉛筆のバーコード・ピアノ・時差・トイレなどの数々のアイデアや、ニュースシーンのミスリードも見事。クライマックスの先取りかと思わせつつ、それも計画の下準備だったという周到さ。
一番の白眉は物語こバックボーンにあるタイの行き過ぎた学歴社会の描写だ。頭の悪い金持ちが頭のいい苦学生を利用する。時には暴力も厭わずに。それは賄賂という形で高校の大人たちにも蔓延っている。カンニングした生徒たちを攻める校長にも後ろめたさがある容赦のなさ。生真面目に頑張るバンクの不憫さが現実世界の不条理さを際立たせ、胸を締め付ける。最終的にリンと袂を別つ彼の最後には特に辛かった…。救いがあるとすれば過去の罪に向き合ってリンが清々しいゴールにたどり着くことか。
もちろんエンタメとしても一級品。『お前らそんなことしてる暇があるなら勉強しろ!』というツッコミはおいといて、130分を煉獄に感じるほど観客とリンとバンクを追い詰めるクライマックスには痺れた!!バンクがバレた後のリンの覚醒シーンは本作最大の名シーン。序盤でもあったピアノカンニングを発展させて曲として覚えるとは!視覚効果もあってとても唸らされた!!!
強いていうならばクライマックスのカンニングの駆け引きのシーンが長すぎて演出過剰かもしれない。また、2回目のカンニングに踏み切る動機が少し薄い。トリックを思いついたからって失敗を帳消しにするほど心が動くだろうか。
主役の女の子かわいい
主役の女の子が可愛いの。「中高生しか履かないよね」っていうデニムの膝丈スカート履いたりするんだけど、それが超似合う。
カンニングの話で、まあ色々と考えられてるんだけど、「実際はそんなうまくいかないよね」っていう方法なのね。そこは、まあ、そうなってるんだってことで、納得して観ていくの。
カンニングがうまく決まってくと爽快ではあるんだけど、やっぱり悪事なんだよね。そして「なぜ悪事に手を染めるのか?」の理由が弱いの。だから、なんか、まあ、ストーリーもよれちゃうんだね。
観てて思ったのは「たまたま金持ちの家に生まれた」というのと、「たまたま勉強ができるように生まれた」っていうのは、どう違うの?ってとこだったな。
STICよりも困難な最後の問い
【SECTION 1】
本作の特徴:ケイパー・ムービー×ケレン味演出
本作はカンニングを題材にしたクライム・サスペンスであり、試験の解答を“盗み出す”という意味では、いわゆる“ケイパー(強盗・強奪)もの”とも言えます。カンニングを題材にした映画としても、ここまでシリアスなトーンの作品はこれまでなかったのではないでしょうか。
本作を特徴づけるものとして、ケレン味にあふれた演出があります。スローモーションやカメラの素早い切り替えとアップの多用、そしてこちら側に迫って来るような音の演出、これらを効果的に用いることで、カンニング場面の緊張感をどんどん高めていっているのです。
とは言え、序盤は実際に行われていることに比べると演出が過剰に見えて、ある種コミカルですらあります。リンが友達のグレースに、解答を書き込んだ消しゴムを靴に入れてわたす──という、ただそれだけのことが『ミッション・インポッシブル』のようなテンションで描かれるので、ちょっと笑ってしまいます。
序盤はリンと同級生たちとの関係もユーモアたっぷりに描かれています。特にグレースの彼氏であるパットの、過剰な“金持ち演出”には笑いました。パットは後の“スティーブ・ジョブズのパロディ”でも大いに笑わせてくれます。
しかし、しだいにカンニングの規模が大きくなっていき、クライマックスの大学統一入試“STIC”に至ると、これが全く大袈裟ではなくなります。失敗すれば全てを失うかもしれない正真正銘の“人生を懸けた”大勝負に発展するのです。
※これ以降、物語終盤や結末部分の内容にふれています。重要なネタバレを含みますので、ご注意ください。
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【SECTION 2】
本作のクライマックス:“STIC”でのカンニング計画
序盤から中盤にかけて、「リンたちが取り調べを受けている」と思しきカットが何度か挿入されます。実はこれがフェイクで、“STIC”に向けた打ち合わせの一つであることが途中で分かりますが、この演出は単なるミスリード以上の効果をもたらします。つまり、「ここから先、“STIC”でのカンニング計画がどんな結末を迎えるかは全く分からない」という事実を観客に突きつけるのです。
“STIC”でのカンニング計画は、本作のクライマックスにあたります。ここでは、計画の立案、準備、実行の全ての過程を、たっぷりと尺を取って丁寧に描いていきます。その中で、あっと驚くようなアイデアが出てきたり、仲間内での裏切りがあったり、次々に思いがけないハプニングが生じたりする様は、まさに“ケイパー・ムービー”といった趣きです。
そして、約30分間におよぶ試験本番の場面は、最高にスリル満点で、思わず手に汗握り、息を呑みます。予想を覆す数々の展開と上記のケレン味演出が相まって、「もう勘弁してくれ……」という気持ちになること請け合いです。(誉めてます!)
途中、想定の倍以上の量の解答を暗記しなくてはならなくなったリンが、序盤に出てきた“ピアノの指運び”を活用して窮地を脱する件りは、脚本的に見事と言う他なく、この場面で「リンが机ごと前方に滑るように移動していき、そこに実家のピアノが現れる」演出には鳥肌が立ちました。
【SECTION 3】
リンにとっての最後の難問「過去に犯した過ちとどう向き合うか?」
しかし本作には常に“ある疑問”が付きまといます。……そう、「そもそもカンニングって正しい行為じゃないよね?」という疑問が。
学校内でのカンニングが発覚し、校長に問い詰められたリンは、「学校で稼いでいるのは私だけじゃないわ」と、学校の賄賂問題について指摘しますが、これはリンが自身の行為を正当化するための言い訳にすぎません。リンもそれが分かっているから、学費全額免除の取り消しと、留学試験の辞退という重い処置を甘んじて受け入れるしかありませんでした。
本作では、リンたちがカンニングをすることに“正当な理由”(教師が悪の親玉のように描かれるなど)を与え、カンニングという行為にある種の“ロマン”を見出すような描き方はしていません。あくまでカンニングは間違った行為として描かれています。
だから、「リンたちが“STIC”でのカンニング計画を無事に完遂し、同級生は試験に受かってハッピー! リンとバンクは多額の報酬を手にしてハッピー!」なんていう安易なハッピーエンドには絶対にならないだろうと予想していましたが、では、「間違った行為に手を染めたリンたちは、どのような結末を迎えるのだろう……?」とずっと気になっていました。これは、ある意味“STIC”でのカンニング計画が上手くいくかどうかよりも、物語的にずっとスリリングな問題です。
結局、相棒のバンクは不正行為が発覚して捕まりますが、リンは決定的な証拠を掴まれることなく計画を完遂し、パットたちのカンニング計画は一応の成功を収めます。ここでのリンは完全に成功したとも失敗したとも言えない“宙ぶらりん”の状態です。そこで、リンにとっての最後の問いが立ち上がってくるのです。
「自分が犯した過ちとどう向き合えばいいのか?」
“STIC”での失敗によって、海外留学の夢が潰え、学校も退学せざるをえなくなったバンクは、この一件であまりにも多くのものを失ってしまいました。そんな彼が正義を見失い、リンに新たなカンニング計画を持ち掛ける姿は、ひょっとしたら、リンがそうなっていた可能性も十分に考えられるだけに、大変痛ましいものです。
しかし、リンは彼の誘いを振り切って、ドアを開け、部屋を出ていきます。そのドアの先が、真っ白な光のあふれる部屋になっていて、後に彼女が罪を告白する部屋の“白さ”と映像的に重ね合わされています。──ここでの演出は見事と言う他ありません。
罪を告白することを決心したリンの表情には、明るさが戻っています。思えば物語の中盤以降、彼女はずっと険しい表情をしていた気がします。部屋に向かう前、リンが父親に見せる泣き笑いの表情がとてもいい。この表情が物語っています。彼女は最後の問いに正しい答えを出すことができたのだと。
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