IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。 : 映画評論・批評
2019年10月29日更新
2019年11月1日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー
原作同様の構成を実現。善は悪に勝つという信念が響きを増す!
おととし公開された「IT イット “それ”が見えたら、終わり。」(17)は、モダンホラー文学の巨匠スティーヴン・キングの長編小説「IT」の再映像化として大ヒットを記録した。原作では27年ごとに現れ、平和な街に災いをもたらすクラウン姿の悪霊ペニーワイズと、ルーザーズ(負け犬)と呼び合う7人の男女たちとの対決が、彼らの「少年時代」と「壮年時代」の二度にわたって繰り広げられていく。映画はそこから前者をすくいとり、ジュブナイル形式のホラーファンタジーとして巧くまとめあげられた。
とはいえ、やはり「IT」という作品のキモは、両方のエピソードが交互し、経年による登場人物たちの成長や心変わりが物語に作用することで、ノスタルジックな叙情性と深い葛藤が展開を壮大にしていく“重量感”にある。前作の成功により「壮年時代」も発表の機会を得た今回の「IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。」は、この過去と現代とが錯綜するスタイルを踏まえ、ようやく「IT」の理想的な映像化に至ったことを実感できるだろう。
そのため上映時間が169分という、ホラー映画としては最長の部類となってしまったが、勢いある編集の効果で観ている間、画面への集中が途切れることはない。開巻からほどなく、我々はかつてメイン州デリーで展開された勇気ある戦いの記憶を呼び起こされ、そして大人になったルーザーズ・クラブとの再会を、彼らと共に喜び合うことになる。
しかし、こうした深い没入へのお膳立ては、ペニーワイズの邪悪さをより際立たせるトラップだ。それでなくても恐怖のイメージは原作よりも過激にアップデートされ、この殺人クラウンはときに形容しがたいモンスターへと変貌し、スクリーン狭しと迫り出してくる。しかもその様相は、まるでヤン・シュヴァンクマイエルやクエイ兄弟の短編に出てくるモデルアニメのように悪夢的だ。
だがペニーワイズが仕掛ける真の恐怖は、相手のウィークポイントを執拗に攻め、心を崩壊させていくところにある。ルーザーズは悪霊討伐という試練をとおし、それぞれが抱えた過去のトラウマに立ち向かう勇気を試されていく。はたして、その勇気は大人になっても不変なのか——? この試練の多層化によって、映画版は「IT」が「IT」としてあるべき姿になっただけではない。「善は悪に打ち勝つのだ」という信念が響きを増し、日常や特殊なケースを問わず、それを胸に戦い続ける者たちへの力強い励みとなるだろう。
(尾﨑一男)