志乃ちゃんは自分の名前が言えない
劇場公開日 2018年7月14日
解説
漫画家・押見修造が実体験をもとに描いた同名コミックを、「幼な子われらに生まれ」の南沙良と「三度目の殺人」の蒔田彩珠のダブル主演で実写映画化した青春ドラマ。上手く言葉を話せないために周囲となじめずにいた高校1年生の大島志乃は、同級生の岡崎加代と校舎裏で出会ったことをきっかけに、彼女と一緒に過ごすように。コンプレックスから周囲と距離を置き卑屈になっていた志乃だが、加代にバンドを組もうと誘われて少しずつ変わっていく。やがて、志乃をからかった同級生の男子・菊地が強引にバンドに加入することになり……。林海象監督や押井守監督のもとで助監督を務めてきた湯浅弘章監督が長編商業映画デビューを果たし、「百円の恋」の足立紳が脚本を手がけた。
2017年製作/110分/G/日本
配給:ビターズ・エンド
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高校生の話だが、この映画を撮影した時、志乃役の南沙良も加代役の蒔田彩珠も中学生だったという。マジか。マジですか。
思春期の揺らぎをみごとに演じられたのは、思春期の女の子たちが演じているからだろうか。いや、そんなビギナーズラックみたいな話ではない。自分たちの声を、動きを、感情をコントロールして表現しているからこそ、これだけの作品ができたのではないか。
というのも、例えば志乃が感情をほとばしらせて泣くシーンで南沙良からみごとな洟ちょうちんが垂れる。形だけの演技ではあんなものはそうそう出るものではない。蒔田彩珠の音痴という演技も、クライマックスでは最高の感情を運ぶ武器となる。
中学生だとか高校生だとかは関係がない。女優と女優の素晴らしい演技に終始惹きつけられた。そして菊池くんは本当にウザかった。物語的には彼のいいところが見えてくる構造だと思うのだが、そんな気分になれないくらいガチでウザかった。菊池、ウゼえんだよテメエ!
2018年8月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
撮影期間が2週間という厳しい条件だったそうだが、非常に素晴らしい青春映画に仕上がっていた。メインキャストの3人がとにかく輝いている。
吃音の女の子が主人公だが、原作者の「ただの吃音漫画にしたくない」という思いを映画製作サイドもよく汲んでいる。原作よりも存在感を増した菊地など、主人公と対象的な存在の、対象的な悩みを描くことで、主人公の悩みは独特なものでなく、青春時代に誰もが抱くものであることが強く押し出された。
志乃は上手にしゃべれないが、菊地はしゃべりすぎてしまう、加代は歌が下手と三者三様の悩みを等価に描くことで、吃音の特別感を原作以上に上手く打ち消している。
ラストの加代の絶妙なヘタクソな歌が心に沁みる。あの年頃の、あの瞬間ではなくては歌えないと思える、そんな特別な感動のある歌だった。
2018年7月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
高校生活が始まる。出かける前に鏡の前で繰り返した自己紹介が、みんなの前だと何故かスムーズに言えない。志乃ちゃんは吃音を抱えた女の子。冒頭の5分間、彼女の胸につかえた思いが痛いほど伝わってきたのは、かくいう私も学生時代に軽く吃音っぽかったからだろうか。
だが、本作は決して吃音だけに特化した映画ではない。そこから見えてくるのは、誰もが何かしら悩みや苦しみを抱えて生きている、ということ。そして、そこに友達が静かに寄り添ってくれるだけで、人生の見え方は180度変わる。
現に冒頭のシークエンスを抜けると、不思議なほど温かみのある映像に包まれる。そしてこれまで一人で奏でていた単音の人生にもう一つの音が加わり、映画の色調も「表現すること」をめぐる和音へと変わっていく。その神々しさ。類い稀なる青春映画を真摯に奏でた演出に敬意を表すると共に、主演の二人はもちろん、いい味を醸し出した男の子も高く評したい。
2018年7月14日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会
コミュ力が高くて新しい学校でも新しい職場でもすぐ友達ができる人や、容姿や運動神経に恵まれ小さい時から周りにちやほやされてきた人なら、共感できないかも。けれど、初対面の人と話すとき緊張したり、多くの人の前で話すのが苦手だったり、外見やそれ以外のことで劣等感があったりする人なら、きっと「志乃や加代は自分だ」と思うはず。
南沙良と蒔田彩珠が、高1の春~夏を不器用だけど懸命に生きる志乃と加代を瑞々しく体現している。2人の路上ライブのシーンもいい。ブルーハーツの「青空」、ミッシェルガンの「世界の終わり」を女性デュオでやるという発想にも感心。歌詞もちゃんと物語につながるし。
原作の舞台は押見修造の出身地・群馬県(背景に西桐生駅が描かれるコマがある)だが、映画では沼津、下田でロケを行い、多くのショットで背景に海が映り込んで青春にふさわしい「青」があふれる。心から推薦したい傑作。
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