ファントム・スレッドのレビュー・感想・評価
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ひとつの愛のかたち
主演女優は「マルクス エンゲルス」で主人公カール・マルクスの妻を演じたビッキー・クリープスである。マルクスのよき理解者であり優しい妻である女性を好演していた。本作品では女の強さと優しさに加え、女の業とでも言うべきおどろおどろしさも表現している。
主人公アルマは伏し目がちの目、声を張らない喋り方、ゆっくりとした動作、はにかむような笑顔など、女の魅力満載だが、一方で強固な姉弟関係に割り込んで自分の居場所を確保する強引さ、強かさも持っている。神経質で気難しいデザイナーは、もともと線が細くてまったく彼女に太刀打ちできない。
それにしても原題の「Phantom Thread」はどういう意味なのだろうか。翻訳し難いので邦題も「ファントム・スレッド」になったと思われるが、直訳に近い「運命の赤い糸」でいいのではないか。見えない糸で結ばれた二人。サドとマゾ、破れ鍋に綴じ蓋など、あまりいい意味ではない言葉がぴったりの二人。そういう愛のかたちはこの世にたしかに存在する。
映画は、たとえ周囲がどう考えようとも当人たちが幸せならそれでいいのだと力強く肯定しているように感じられる。常識人としての姉の存在が効果的だ。
ダニエル・デイ・ルイスはスピルバーグ監督の「リンカーン」での力強い演技が印象的だが、本作ではひとりの女に心を乱されていく情けない男を見事に演じ切った。クリープスとの掛け合いは相手を説得しようというよりも主導権争いに見える。破局するかのようだが、それでも互いから目が離せない。見えない糸に結ばれているかのようだ。最後まで観て、タイトルの意味を考えて漸く納得した。
おしゃれで上質なミステリー
映像や音楽、演技や世界観、すべてにおいて質が高く、まさに映画芸術といった印象。
はっきり言って、設定や題材は全く興味がないし、多分自分には合わないだろうと思いつつも、主演と監督の名前で見た映画。そしてその予想や不安はズバリといったところで、質に非常に感心しつつも、基本的な面白さに欠ける(そう思ってしまう原因は自分にあるのだけれど)という思いは最後まで変わらなかった。
しかしながら、ミステリー要素が盛り込まれたストーリーには結構ハマってしまったわけで、興味深い愛のカタチを見せてもったような気がする。
ピアノとストリングス中心のクラシック音楽も非常に効果的だったと思ったし、何気にサントラ欲しいかも…なんて思ったりもした。
服飾を題材にし、徹底的におしゃれな雰囲気を創り出そうという意志が最後のエンドロールまで感じられ、完全に読み切れるはずもない文字を眺めながら、心地よい音楽とともに画面を見つめていた。久々に最後の最後まで映画を見きったような気がした。
興味がない題材とか面白味に欠けるなどと言いつつ、結構楽しめていたのかも─
よかった
人を愛することを知らない創作者というのは他人事ではなく、彼にも親になってそれを知って欲しかった。そういった共感はあるのだが、何しろ洋服に全く興味がないのであんまり面白くなかった。素晴らしいドレスにうっとりするのがこの映画の魅力の3割くらいはあると思う。
デザイナーの苦悩、衣擦れの音…。
アーティストの強度は真の愛によって揺らぐ
圧倒的濃密度の映画できのうきょうで7本近く映画館はしごして最後がこ...
強い男の弱さを握る
美しい
愛→服従→嫉妬→支配
この世で最も官能的な「音」と言うと、私はいつも衣擦れの音を連想する。静寂の中で布の擦れる音が響くと、妙に艶めかしいような印象を抱く。なので、この作品のように、服を作り、それを着せるという行為もまた、衣擦れの音の中で、とても官能的な行為に感じられてくる。著名なハウスでドレスのデザインをする男と、そこにモデルとして雇われた若い女との間に起こる愛の変遷。女のためにドレスを作り、美と洗練を与え服従させる一方で、女は男を徐々に徐々にと水面下で支配していく。愛が服従へ変わり、嫉妬を経て支配欲に変わった時、男と女の関係は今までと逆転してしまう。ラブストーリー?いやこれはまるでサイコスリラーのよう。狂気に満ちたアブノーマルな恋愛にも見えるけれど、そのスリルがやはりとても官能的だった。
例えばだけれど、「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」シリーズなども、この作品のように描いていたら意味合いが違っていただろう。ただ過激なSMシーンを連ねるだけの滑稽なシリーズだけれど、男女のアブノーマルという意味では共通項がある。一方で「ファントム・スレッド」には、支配することを悦び、支配されることを悦ぶような男女の危ない心理劇の中に、官能と美と狂気と妖気がしっかりと立ち昇っていたということ。まぁ、「フィフティ・シェイズ」はあれだから馬鹿らしくて滑稽で面白いんだけれども。
この作品を最後に俳優業を引退と公言したダニエル・デイ=ルイスの貫録の演技も素晴らしかったが、個人的にはデイ=ルイスを相手取って若きモデルを演じたヴィッキー・クリープスが良かった。まだ頬の赤い垢抜けないウェイトレスから、ウッドコック氏のドレスを纏うようになり放たれる美と洗練を体現。そしてウッドコック氏に服従するうちに狂気が重なり、支配者へと姿を変えていく変遷を見事に演じ切っていた。デイ=ルイスやその姉を演じたレズリー・マンヴィルほど評価されなかった彼女だけれど、個人的に一番共感を覚える存在だった(誤解を招きそうだが)。
呪い
やっぱダニエルデイルイス
ダニエルデイルイスを意識することなく、思わずウッドコックという男を観察してしまいました。
私の父がちょうど前半のウッドコックな感じです。神経質で自分のやり方や時間に拘り、周りに対し最小限でかつ彼に配慮した接し方を求めてきます。
ウッドコックのようなイギリスを代表する天才職人ならまだしもですが。。。
なるほどこういう男はキノコで制すのかと~と思わず感心してしまいました。
一度、自信過剰な相手を無力にし、手を差し伸べる。
ただそんな形で結婚しても、すぐに夫婦関係は破綻するし、さすがに2回目のキノコはやりすぎかと。それを知ってて食べるあなたも懲りないねぇ。と。
ドレスの美しさは後半で消えてました。
サイコパス!?
自分が弱々しくなった時や意識もしなかったことが重要になり考え方や価値観が変貌して。
理解して受け入れ身を尽くすそこから徐々に自分のことも相手にそしてお互いが必要な存在になり末永く男女は幸せに。
本作のLOOKからは想像も出来ない展開に驚愕するがユッタリとした雰囲気に上品な感じは乱れずにでも話の進む方向性が狂気じみていく。
"俺はコウだ!私はコウよ!"と難しい男に割って入る健気な女に応援の眼差しで観ていたら常識をブッ壊してズカズカと悪気も無くスンとした表情でことを成す女にア然としてしまう怖さ!?
そんなサイコやスリラーな演出描写が感じられないのにサイコでスリラーだからビックリした!?
一分の隙もない
全編一分の隙もない美麗な画作り、抑制された演技。ストーリーにのめり込みはするものの納得することはない。素晴らしい。
しかしこれって、代理ミュンヒハウゼン症候群+ストックホルム症候群に着地しちゃうんだね…と思って観てました…
ゴージャスな画面に比べて官能性が低いなぁ
1950年代の英国・ロンドン。
オートクチュールの仕立屋ウッドコック(ダニエル・デイ=ルイス)は、姉のシリル(レスリー・マンヴィル)とともにハウスを経営している。
仕立ての実務はウッドコック、経営はシリルは分かれているようだ。
天才的な仕立ての技術をもつウッドコックは、自分が理想とするドレスをつくり、それを着せるに相応しい女性を絶えず探していた。
つい先ごろも、その理想的モデルの女性を追い出したところだった。
そんなある日、朝食をとった食堂で理想の女性・アルマ(ヴィッキー・クリープス)に出逢う。
自分の体形を気にするアルマだったが、彼女があげつらう欠点こそがウッドコックにとっての理想の体型だった・・・
というところから始まる物語で、監督のインスピレーションの源泉はヒッチコックの『レベッカ』・・・
というのが、ほとんど冒頭でわかる。
ウッドコックが暮らす屋敷は、『レベッカ』のマンダレー荘ソックリだし、唐突に女性(アルマ)の虜になり、屋敷に連れていくのもそうだし、ウッドコックが亡き女性(『レベッカ』では前妻、この作品では母親)に憑りつかれているのも同じ。
さらには、主人公を庇護する役どころが、『レベッカ』では召使のダンヴァース夫人だが、本作では姉に替わっているだけ。
なので、亡霊のような女性に苦しめられる男のハナシなんだろうと思っていると、ちょっと勝手が違う。
山出しの女性に自分の理想のドレスを着せ、理想の女性にするあたりは、同じヒッチコックでも『めまい』のよう。
けれども、どうにもこうにも演出がもっさりしていて、ゴージャスな衣装や装置にもかかわらず、エロティシズムが足りない。
のべつ幕無し鳴り続ける音楽も癇に障る(あまりにウルサイので、途中ウトウトしたぐらい)。
そうなんだよなぁ・・・
と気が付いた。
この監督の作品、途中で観なくなったのは、舞台設定と比べて、登場人物の人物設定が幼すぎて、底が浅いからだったような・・・
この作品でも、いちばん観たいのは、後半、それまでウッドコックに支配されていた(ようにみえる)アルマが彼を支配しだし、それに対して、ウッドコックも支配されグズグズになるのが心地よいところ。
このふたりの葛藤に加えて、別の立ち位置でウッドコックの精神バランスを保っていた姉のシリルが、どのように変化するか。
そんなところがほとんど描かれていなく、「結果、こうなりました」的なオチな物語では満足できません。
ということで、衣装や装置、撮影などは見どころはあるものの、観せて(魅せて)ほしいところは喰い足りませんでした。
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