娼年 : 特集
「すごいものを見てしまった……これは今年の“日本映画最大の事件”になる」
“想像”をはるかに超えてきた《衝撃》と“純粋”な《愛のドラマ》──
この《超・話題作》を見終えたとき、あなたは最高の鑑賞後感に包まれる
「すごいものを見てしまった……」と、そうつぶやくしかなかった。2001年の直木賞候補となった石田衣良のベストセラー恋愛小説を原作に、女性の欲望を肯定する「娼夫」となる青年・リョウの成長を描く「娼年」が、4月6日に公開を迎える。本作はR18+指定、ほぼ全編を占めるセックス・シーンに松坂桃李がこん身の演技で挑んだ衝撃作……だが何だろう、この衝撃と同時に湧いてくる感動は……。前代未聞の「愛のドラマ」の本質をひも解く──
冒頭5分で“想像以上”、邦画では久しく感じていないここまでの“衝撃”
いま解禁される“その中身”──《映画.com本編鑑賞レビュー》
「松坂桃李が、女性と濃密な時を過ごす“娼夫”を演じる」「R18+指定で、映画のほとんどをセックス・シーンが占める」。センセーショナルでインパクトの強い言葉が並ぶと、どうしても下世話な好奇心がうずうずしてしまう。私たち映画.comも当初はそうだった。でも、作品を鑑賞してきた今だから、もう最初から言ってしまおう。本作はそんな言葉から連想されるだけの映画とは違う。確かに性描写は過激。しかし、そのもっと奥にある人間の欲望、そして欲望に触れて成長していくひとりの青年の姿を描く、感動的な愛のドラマだった。ぜひ、私たちがスクリーンで見てきたことを聞いてほしい。
本作が、18年の日本映画界で最も大きな「事件」となるのは間違いない。なぜなら、冒頭から私たちの予想をはるかに超えて、いきなり“本気”のセックス・シーンが映し出されるから。16年の舞台版でも松坂の果敢な演技は高い評価を受けたが、映画版はそれ以上と思える。これまでのキャリアをかなぐり捨てるかのような熱演と美しい裸体を見るのに、迷う必要なんてまったくない。
三浦大輔監督が「性描写に一切妥協せず」と明言しているように、性表現には真っ向から向き合っていた。男と女が営む本能的な交わりを俳優たちが逃げることなく演じ切り、そしてそれをとらえきった描写に圧倒される。でも、受ける印象は他の映像作品とはまったく違った。監督が記した絵コンテで計算されたアングルやレイアウトで綿密に撮影され、色味も調整された本編の映像は、リアルなのにどこか別の世界の夢物語のような美しさと幻想的な深みに満ちていた。気がつけば、知らなかった世界観に引き込まれ続けてしまう。
ぜひあなたにも、この世界観に浸ってほしいと願う。ただ、「娼夫」となった青年が、女性とセックスするだけを描く映画ではなく──そこには、退屈な毎日を過ごしていた主人公が、多くの女性と触れ合うことで自我に目覚め、魂を解放していく物語がある。そして、そんな彼と触れ合う女性たちが抱える、さまざまな欲望や悩み、ドラマが描かれる。自分は……健全な自分を保つために、抑えられない欲望と折り合いを付けようとするある女性の姿に、共感してしまう。
一見過激でも、その奥には自分にも照らすことができる深いテーマがある──自分などは、「蛇にピアス」や「トパーズ」を思い出してしまったけれど、そんな作品にじっくりと浸るのはとても有意義な体験。女性たちの欲望に心をざわつかされ、主人公がどこへ向かうのかを見届けたくなる。誰かと一緒に見て、または見た誰かと、描かれた人たちの思いについて語り合ってみたい。衝撃度は満点、でも切なくて温かで優しい気持ちにも包まれる。「最高の鑑賞後感」を得られる作品とおすすめしたい。
「よくある邦画」には存在しない、劇場に漂う“優しさにあふれた満足感”──
鑑賞直後の《女性映画ファン》に聞いた「衝撃と感動」
「映画的事件」とも称される過激な性描写が話題の本作だが、その根底にはかつてないほどの「愛のドラマ」が横たわっている。上映を終えた劇場には、「娼夫・リョウ」の成長を見届ける2時間の旅を終えた女性映画ファンたちの、優しい心にあふれた満足感が充満していた。こんな光景は、ありきたりな日本映画では絶対にお目にかかれない。当日の試写アンケートから、衝撃と感動に満ちた彼女たちの思いを拾ってみた。
役者:松坂桃李×監督:三浦大輔監督×原作:石田衣良──
《3人の本気》から生まれた、奇跡のような作品
かつてないほどの衝撃を感じるのに、見終わった後には爽快感と感動を得られる。「娼夫」という役どころに全身全霊で挑んだ松坂桃李、監督&脚本を手掛けた三浦大輔、原作となった物語を紡いだ石田衣良──まるで奇跡のような作品が生まれたのは、きっと彼らの「本気」があったからに違いない。
私たちに最も大きなインパクトを与えてくれるのは、やはり文字通りに“体を張った”彼だろう。16年に上演された舞台版から主演を続投。「舞台版では表現できなかったこと、映像だから残せるもの」にすべてを脱ぎ捨てて挑んだという。俳優生命を懸けたと言ってもいいくらいのこの役は、本当に見たことがない「本気」に満ちている。
「愛の渦」や「何者」で、現代の若者たちの自意識を繊細に浮かび上がらせ、映画ファンからも厚い支持を集めた三浦大輔が、舞台版に続いて指揮をとった。映画版にあたっては、原点に立ち返って脚本を執筆し、全シーンの絵コンテまで準備。改めての「本気」を見せつけ、欲望の本質、青年の成長物語、美しい映像がそろう「娼年」の世界観を完璧に再構築した。
デビュー作「池袋ウエストゲートパーク」がインパクトを放つ彼だが、「娼年」「逝年」「爽年」の3部作は、刺激的な内容を描きながらも、その奥に潜む欲望(それも女性の)の本質を描いて、特に女性からの支持を集めてきた。キャリア初期に自身の枠を拡げたいと挑んだ作品であり、直木賞候補にもなった。「僕にとって特別な作品」との言葉は、「本気」の証明だ。