劇場公開日 2018年4月6日

  • 予告編を見る

娼年 : インタビュー

2018年4月2日更新
画像1

三浦大輔監督&松坂桃李が“共作”した、「今までになかった」濡れ場の撮影手法

2016年に一大センセーションを呼び起こした伝説の舞台にもなったベストセラー作家・石田衣良氏の人気小説「娼年」が、満を持して映画化。舞台版の演出を務めた三浦大輔が監督・脚本・監督、松坂桃李が主演を続投――。このニュースが流れたとき、色めき立ったファンは多いだろう。しかも、製作発表当初から、成人指定R18+と宣言。過激なセックス描写にも物怖じすることなく、文字通り出演者たちが“すべてをさらけ出した”本作は、欲望の裏側にある人々の悲哀や渇望、感情の源泉までをも描ききっている。「共同戦線を組んだ」(松坂)と互いの関係を評する“戦友”三浦監督と松坂が、全身全霊をかけた勝負作について余すところなく語った。(取材・文/編集部 撮影/堀弥生)

画像2

「女なんてつまんないよ」「セックスなんて、手順が決まった面倒な運動です」、容姿端麗ながら何にも意味を見いだせず、抜け殻のように毎日を浪費する大学生・領(松坂)は、会員制ボーイズクラブのオーナー、御堂静香(真飛聖)に見い出され、“娼夫リョウ”として働くことに。刺激を求める者、孤独を埋めたい者、特殊な性癖に苦悩する者……。さまざまな客と接するうち、領は女性たちの心の奥深くに潜んでいる欲望に気づき、客たちの願いを満たすことで自身も安らぎを見いだしていく。

本作の“主役”でもあるセックスシーンを描ききるため、三浦監督は前代未聞ともいえる「すべてのセックスシーンで画コンテを描く」という途方もない手法を選択。さらに、スタンドイン(俳優の立ち位置や照明を決めるため、代理を務める人物)によるビデオコンテを製作し、4、5日間に及ぶリハーサルを敢行。本番の撮影においても、三浦監督と松坂が標榜する「肉体を通した会話」を表現するべく、「気が遠くなるような作業」(松坂)を繰り返した。

三浦監督は、「今まで僕が見た映画では、セックスって撮りっ放しの印象があった。そうじゃなくて、本作では会話を撮るように『キスではこのサイズで、このアングルでしっかり撮って、このアングルでこの画で、次にこの手の動きを表現して』という風に、全部カメラ位置をしっかり決めて、狙って撮っていったんです。それって意外に、今までみんなやってなかったのかな、と思っています」と実際の撮影の中身を解説する。

画像3

あくまで“感情”“会話”に重きを置き、「役者さんも、普通は3回戦ぐらいやって、3方向くらいから撮って『はい、終わり!』みたいな感じなんですが、今回は『とりあえずキスからここまで行きましょう』って言ってスタートをかけて、狙った画が撮れたら、『じゃあ次はおっぱい揉んでからだけど、ちょっとそこからだと感情が湧かないので、キスからもう1回行きましょう』といった感じで、狙った画を撮るために(ラブシーンの最初から)何回も繰り返しました。1つひとつの、キスしてからの流れにも感情が含まれているから、松坂くんなり、女性なりの感情をちゃんと拾うためには、1カット1カットきっちり撮っていくことが重要なのかなと考えたんです。だから、1個の濡れ場で30カットくらいあるんじゃないかな。濡れ場のシーンはもちろん丸一日がかりでしたし、オーバーするときもありました」と効率を度外視して撮影したという。

松坂は、三浦監督の言葉をつなぐ形で「感情と(肉体同士の)会話を大切にしていたから、撮影では、(使うシーンの)ちょっと前の動きからやっていましたね」と証言。撮影のあまりの過酷さに、松坂は別の場で「ここまで精神的に追い込まれた現場は初めてかもしれません」と振り返っているが、生の感情をカメラに映し取ろうとする三浦監督の心意気に共鳴し、必死に食らい付いた。劇中では、まさに“果てる”まですべてを出し尽くした松坂のこん身の演技が全編にわたって収められており、見る者を圧倒する。

画像4

「今回は体と体のコミュニケーションがメインなので、そこの感情作りを、リハーサルの段階からちゃんと行わないとならなかった。どのシーン、どの濡れ場でも、『こういう感情で』というものがあり、動きの確認を僕も三浦さんも、カメラマンさんや技術スタッフ含めて行うという作業が絶対的に必要な作品だったんです」と語った松坂は、「この作品のもう1つのポイントとして、『逃げていない』というものが必要だろうなというのは確実にありました。だから自分も、できる限りのことをやろうとは思っていました」とあくまで控えめながらも、役者としての矜持(きょうじ)をしっかりと言葉に乗せる。

撮影期間中は渋谷のビジネスホテルに泊まりこみ、役ととことん向き合ったという松坂。「映像になったら、三浦さんのお芝居のハードルの高さ・要求が、より上がった感じがするんですよね。それがすごくうれしくて。僕もそれ以上に監督のことを信頼しているので、ここの繋がりをしっかりと自分の中で握り締めていれば、絶対にこの領という役もそうですし、『娼年』という作品もしっかりとした良い形になるっていう確信がありました」と笑顔を見せる。

彼女がその名を知らない鳥たち」のクズ男から「パディントン」の吹き替えまで、近年、なお一層役の幅が広がった松坂。中でも本作は、心身ともに役者としての限界突破に挑んだ作品といえるだろう。それだけに、公開を心待ちにしている様子で「最初面食らうし、『これ、どういう感じで見るのが正解なんだろう』って分からない感じもあるかもしれませんが、最終的には『あれ? 気持ちがなんかちょっと軽くなった』っていうようなものがもらえたんですよね。それが見てくれる方に対してちゃんと伝わっていければ、この作品は大成功だなと思いましたし、その予感は確実にしています。だから僕は、完成版を見たときに現場で感じた『いいものが絶対できる』っていうような、言葉では言い表せないような感覚に近いものが形になったなって感じはすごくしたんです」と誇らしげに語る。

画像5

対する三浦監督は、「もしかしたらこの時代だからこそ、見にくる人の許容も広がって、女性も劇場に来やすい環境にはなってるのかもしれない。本当にいいタイミングで映画化したのかなと思っています」と感慨深げな表情を浮かべる。一見アーバンでソリッドな作品に見える「娼年」だが、実際に見てみるとどこかクラシック・ムービーの雰囲気が流れ、性愛の奥にある登場人物たちの生の感情が、波のように見る者の心に染み渡っていく。なぜこのような風合いになったのか三浦監督に問うと、「そんなに僕も、懐かしい雰囲気になるとは思っていなかったんです」と意外な答えが返ってきた。「でも、(作品に流れる)哀愁といったものが懐かしさとリンクして、見た方を優しい気持ちにさせてくれたのかもしれません。意図したというよりはにじみ出た、という感じですね」。

本作には、エンドロールにもちょっとした仕掛けがあり、各役者の名前と共にそれぞれの見せ場がもう1度流れるという趣のある演出がなされている。こちらも、最近の映画においては珍しい手法だが、そこには三浦監督ならではの各出演者への敬意が隠されていた。「1人ひとりの役者さんが本当に頑張ってくださったこともあり、もう1回領の歩んできた道筋をたどって、鑑賞後の余韻に浸ってほしいっていう思いがあったんです。こういった形のキャスト紹介って僕はあんまりやらないんですが、この作品のどこかあったかい雰囲気には合ってるのかなと思って、あえてやってみたんです」とはにかんだ。

“観る楽しさ”倍増する特集をチェック!

「娼年」の作品トップへ