台北暮色 : 映画評論・批評
2018年11月20日更新
2018年11月24日よりユーロスペースほかにてロードショー
都市に暮らす人々の孤独。新鋭監督が「台湾映画」を現代的にアップデート
東京というなかなかにハードな環境で、よそ者の自分が、30年近く一人で、なんとか生きながらえている。それは、ウォン・カーウァイの「恋する惑星」やエドワード・ヤンの「カップルズ」といった、アジアの都市に漂う人々を描いた映画の記憶に支えられているからかもしれない。現代の台北を舞台にした「台北暮色」を観て、そんなことをふと思った。
メインとなる登場人物は3人。一年前に台北にやって来て一人暮らしをしている20代の女性、シュー。仕事はヨガの講師や、ゲストハウスの受付など。中年男性のフォンは、車の中で生活している便利屋だ。自閉症の少年・リーは、シューと同じ集合住宅で、母親と2人で暮らしている。カメラが台北の風景のなかに、彼らの日常を映し出していくにつれ、彼らの孤独が少しずつ浮き彫りになる。そしてふとしたきっかけで知り合ったシューとフォンは、それぞれの家族にまつわる挫折や喪失を打ち合ける。
脚本と監督は、本作が長編デビュー作となるホアン・シー。本作のプロデューサーであるホウ・シャオシェンとは父親が同窓生で、家族ぐるみの付き合いをしていたことから、20代の頃に「憂鬱な楽園」にインターンとして参加したという。都市を舞台にした孤独と家族を潤いのある映像で描いた映画という意味では非常にオーソドックスな本作だが、2種類のスパイスによって現代的にアップデートされている。
1つは、シューを演じるリマ・ジタンの個性。台湾映画のヒロインは、線が細く、色気は少なめで、少女性を持つ女優が演じる傾向があるが、レバノン人と台湾人の両親をもち、様々な文化環境で育ったリマ・ジダンは、一言で言うとダイナマイト系。スポーツで鍛えたグラマラスなスタイルや、多言語を操る語学力など、彼女が持つ資質を活かしたシューというキャラクターは、とても現代的なヒロイン像だ。
もう1つのスパイスは、シューの携帯電話にかかってくる不思議な電話の数々だ。見知らぬ男性・ジョニー宛に、彼の母親、恋人、友人と思われる人々が電話をかけてくるのだ。ジョニーへの電話の謎について考えていると、次第に、「物理的に1人でも、誰かがどこかでその人のことを考えているかもしれない」と、温かい気持ちで心が満たされていく。
そして、ぜひとも付け加えたいのは「カップルズ」で主人公のルンルン役だったクー・ユールンがフォンを演じていること。彼の俗世にまみれない少年性は、“奇跡の40代”を超えて、もはや妖精レベル!
(須永貴子)