「ライク荒木飛呂彦」シェイプ・オブ・ウォーター kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
ライク荒木飛呂彦
個人的にはハマらなかった作品でした。しかし、鑑賞後はいろいろ考えさせられたため、ジワジワと本作の魅力を味わっているところです。
鑑賞中は恋愛描写が美しいな、との印象を抱きました。
イライザはいきなり半魚人に惹かれるわけですが、それは不思議とすぐに腑に落ちました。彼女は喋れず天涯孤独な身。時代背景もあり、自己実現的な仕事にもついておらず、生き甲斐もなさそうです。彼女はこの世に生きながらどこかこの世にフィットしていない感覚を感じながら生きているように感じました。そんな彼女が、半魚人にいきなり異界に連れてこられた悲しみを見出し、運命を感じるのも無理ないかな、と思ったのです。私たちはお互いに異界に生きている、そんな気持ちを抱いたのではないでしょうか。
恋した後のイライザの盲目っぷりも美しいです。バスルーム全体に水を溜め、半魚人と愛し合う姿は狂った美しさがありました。狂おしい、とでも表現できそうです。情動の色・赤を少しずつ身にまとうのもすごく印象に残りました。恋をして成長する、という雰囲気はないのですが、恋の高揚感が伝わってきました。
もちろん、水中で半魚人と抱き合うラストシーンは有無を言わせない美しさがあったと思います。ラストシーンをポスターにするとは大胆ですが、ポスターにせざるを得ないシーンですね。
ただ、鑑賞直後はラストに納得がいかなかった。イライザは半魚人とともに水中の世界に行く、すなわちこの世に別れを告げる、という終わり方はなんだか逃避的に思えてしまったのです。恋の狂気から愛の成熟に移行しなかったように思えたのです。
イライザはあくまでもこの世に生きている人間。異界の存在と出会い惹かれあっても、あくまでも現実の枷からは逃げられないはず。しかもジャイルズやゼルダといったこの世で連帯できた仲間もいた。だからこそ水中、すなわちあの世に行くラストには強い違和感を覚えていたのです。
…が、よくよく考えてみると、イライザにとってはこの世があの世であり、本当に異界人だったのでは、との仮説を持つに至りました。
イライザは「川」で拾われた孤児とのことでした。首の傷痕はラストでエラとして機能する。何よりイライザを演じたサリー・ホーキンズの魚っぽい顔立ち!(ハゼに似ていると思う)
イライザは本来半魚人だったのでは、つまり水中こそが彼女の「この世」であり、本来住むべき世界に帰って行ったのでは、と考えるようになりました。
こう考えると、真の意味でラストはハッピーエンドなのでは、なんて感じています。
また、本作は別の視点でも大いに楽しめました。全体的にジョジョ的というか、荒木飛呂彦っぽいように感じたのです。
半魚人のシェイプは何度見てもスタンドですね!スピーディな動きもスタンドそのもの。あれは明らかに接近戦に強いタイプです。ヒーリング能力もあり、クレイジーダイヤモンドっぽいです。ラスト近く、ストリックランドに撃たれたものの立ち上がる半魚人の姿はモロに荒木節。ゴォォォォオーン!といった擬音を思わず心の中で絶叫。
また、ストリックランドが思いっきり荒木飛呂彦的悪役なんです。異常なまでにサディスティックだったり、強迫観念に駆り立てられたり。巨悪にプレッシャーを掛けられて狂乱する姿はバオー来訪者のドルド中佐のようでもあります。また顔がモロに荒木キャラなんですわ。
やはり、白眉は博士を殺すところでキャンディの説明をしだすシーンです。この異様な緊張感は荒木飛呂彦ですよ。正直、ニヤニヤが止まりませんでした。
サリー・ホーキンズは魚顔でありながらジョジョ顔でもありますね。全体的にダークな世界観もロマンホラーでした。
そういえば、ジョジョ第4部が映画されたと聞きました。そうか、これがそうだったのか、第4部の映画化ではなかったが荒木飛呂彦の書き下ろし新作がデルトロ監督の元で映画化されたか、と知り、しみじみした次第です(ウソ)。