ウインド・リバーのレビュー・感想・評価
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現実を知り、憂鬱となる映画かも知れません。
結論は物理的な破壊力であり、道徳も法規制も役には立たない。そんな風に考えると憂鬱になります。ただし、人が繁栄できた根拠は、護り合う生き物であるからこそ。それを信じるほかは無いな、と思いました。映画の冒頭で厳しく躾けられ、それでも、その厳しい父親を慕う息子の姿に、この世界の厳しさが物語られているような、そんな気がします。
本当の世界は法が規定する社会よりも広く深い
テキサス出身のテイラー・シェリダンが描く世界は、リベラルなハリウッドが見つめにくいアメリカの姿が映し出されている。
『ボーダーライン』ではメキシコ国境の街がいかに危険にさらされているかを描いている。国境は麻薬戦争の最前線であり、麻薬から国を守るためには法の枠内では対処できない。法が通用しない世界で正義を執行する、という価値観は西部劇の典型だが、シェリダンの作品には常にこの価値観がある。アメリカはある種、国際紛争に対してもこうした態度で臨むことがあるが、アメリカは法では裁けない脅威に対して異様に敏感で、超法規的措置に走りやすい傾向がある。
本作の主人公もまた、法の枠内で片付かない悪を暴力で倒す男だ。それは正しくない、だがそうでもしないと片付かない問題もある。法の枠内では正しくないが、本当の世界は法が規定する社会よりも広く深い。
シェリダンは、本作を現代のフロンティア三部作の最後と位置づけているそうだが、フロンティアとは未開拓の地であり、そこには法はまだない。そこでは生ぬるい法に守られた社会のルールは時に通用しないのだ。
その時、狙撃手は不可視の存在になる
主人公のコリーは優秀なハンターだ。前半は基本的に彼の視点で進む。驚いたのは、銃撃戦が勃発する終盤。敵味方が至近距離で撃ち合うこの場面、遠方から狙撃の腕前を発揮する主役の姿は映らず、カメラはひたすら撃ち倒される者たちの姿を追う。この非凡な演出!
脚本家テイラー・シェリダンが自ら監督も務めた本作は、現代フロンティア3部作の第3弾。かつての辺境開拓は「より強く、より豊かに」というポジティブな意志と欲望を原動力とする運動だったが、その陰で原住民やメキシコ移民は虐げられ悪者にされた。シェリダンはそんな辺境の暗部に光を当てる。
コリーはネイティブアメリカンの妻との間にできた娘を悲惨な事件で失った。だが終盤での狙撃は、復讐や、仲間を救うといった個人的な動機を超えた行為、神の裁きとして描かれる。だから狙撃手は画面に映らない。神にすがりたくなるほど辺境の現実は暗澹としている、ということか。
苛烈な極寒の地で正義が揺れる
テイラー・シェリダンは、リバタリアニズム系の作家だと思っていた。リバタリアニズムと「自分のことは自分で決める」という考え方で、国家権力からも可能な限り自由でいるべきだという思想。イーストウッドが描くヒーロー像や、『アウトロー』でトム・クルーズが演じたジャック・リーチャーをイメージするといいかと思う。
シェリダンが脚本を書いた『ボーダーライン』も『最後の追跡』も、法律に頼らない、もしくは頼れないから、自分自身の倫理観を基準に生きる人たちの映画だった。『ウインド・リバー』もまた、人間の作った法律など及ばない環境で正義を求める物語だ。
ただ、シェリダンが監督も兼ねた本作は、リバタリアニズムを感じる点は同じだが、人間の力がほとんど意味を成さない極寒の地が舞台であることによって、もはやリバタリアニズム的価値観は思想や信条というより「生きる手段」に近づいている。彼らを追い詰めるのは、人間や制度だけでなく苛酷な自然でもあるのだ。この映画が描く、屹立する現実の険しさに、ただ茫然としている。
これは忘却されたアメリカの歴史や魂の物語でもある
これまで2度にわたり“世界の果て”とも言える場所から現代アメリカの姿に光を当ててきたテイラー・シェリダンが、フロンティア3部作の最終章となる本作では脚本執筆だけにとどまらず、ついに監督までを買って出た。それだけでも彼の意気込みが伝わってくる。
舞台はネイティブ・アメリカンの保留地。いつもながらに、登場人物にも増して強烈な「土地」の持ち味がそこに住む人々の人間性を決定づける。苦しみや悲しみと共に生きる主人公(レナー)、経験は浅くても胸の内に強いものを秘めたヒロイン(オルセン)、二人が巻き起こす化学変化が力強く物語を前に進ませていく。前作『最後の追跡』と同様、本作もまたアメリカ映画が描いてきた「西部劇」が現代の視座、関係性の元でアップデートされたかのよう。シェリダンが描きたかったのは、忘れ去られたアメリカの歴史と魂なのだ。いま彼の作品が米映画界で大きな注目を集める理由もそこにあるのだろう。
雪に覆われた"辺境のウエスタン"の読後感は寒々しい
アメリカとメキシコ国境で展開する麻薬戦争(「ボーダーライン」)、廃れたテキサスを背景にした銀行強盗とテキサスレンジャーの追跡劇(最後の追跡」)と、脚本を担当した過去の2本を受ける形で、テイラー・シェリダンは監督デビュー作の舞台をワイオミングのネイティブアメリカン保留地に選んだ。"フロンティア3部作"と形容されるのはそのためだが、最新作は説明不足が若干気になるものの、画面から漂う殺伐とした空気には息を飲む。保留地で生き甲斐を奪われ、それでも何とか生き続けるネイティブたちのどす黒い絶望感が、物語のきっかけになる殺人事件を捜査する主人公の白人ハンターや、その他の登場人物たちにも乗り移っているかのよう。これは、希望に満ちていたはずの開拓の精神が、実は絶望を伴う排他主義以外の何ものでもなかったことを突き付けてくる、雪に覆われた"辺境のウエスタン"。漂う読後感は一言で言って寒々しい。
真っ白で広大な大地に渦巻く闇
ジェレミーレナー主演。メイヤーオブキングスタウンを観ていたのでこちらもチェックしようと鑑賞。
ほとんどの画面が真っ白。ただ、内容は真っ黒に近い。(あるいは灰色?)ある女性の遺体を見つけ、その女性がレイプされているとわかりFBIと主人公が真相を追っていくっていうサスペンス。謎解きがメインではなく、この土地を巡る歴史的な背景がメインやと思った。
10キロもあの雪原の中どのような思いで被害者が走ったのか。恐怖と闘いながら必死に生きようとしていたんやろうなと思うと涙が出た。
アメリカは自由で平等な国というけれど、あそこに住む人たちは強制的にあの地に連れてこられ、自分たちの自由を取り上げられ、鬱屈した気持ちで暮らしている。自由とは一体なんやろうなと思った。ネイティブアメリカンの行方不明者統計がないというのも、必要がないと考えてるのか?現代にも残る闇を感じた。
雪原に隔離されたインディアンの
雪原に隔離された先住インディアンたちの娘が何人も行方不明になっているという実話に基づいた作品で、その謎を紐解くFBIとその雪原で害獣駆除をするハンターとで捜査が進んでいく。
ちょっと重い…
この前観た、ボーンレガシーのジェレミーレナー繋がりで観ました。
ちょっとしたアクション映画かなぁ
と思っていましたが、全然ちがいました。
つい最近観た、ゲットアウトやアンテべラムは
黒人差別を扱って、差別の闇は深いとおもいましたが、
ネイティブアメリカンの方の差別もあるのですね…
社会派グライムサスペンスの傑作
2017年作品。
緊迫感が最後まで持続し、ラストの銃撃戦の迫力が凄まじかった。
ハンターのコリー(ジェレミー・レナー)は、16歳の娘を
惨殺された過去を持つ男。
ネイティブ・アメリカン保留地ワイオミング州のウインド・リバーで
起こった少女レイプ殺人事件。
殺害現場に呼ばれたのは新米のFBI捜査官ジェーン
(エリザベス・オルセン)は、いかにも頼りない若いお姉ちゃんだった。
しかしジェーンは見かけに寄らないガッツの持ち主で、
「警察権があるのは私(FBI)だけ・・・」
そして検視官が現れて、死因は、
マイナス30度の雪原を裸足で全速力で走った事により、
肺が冷気を吸い込み破裂した事で、
血を吐き、その血を吸い込んだことによる窒息死。
事故であって殺人ではないと所見を述べる。
「殺人事件と書いてくれないと、私(FBI)は上司に今すぐ帰される!」
ジェーンはそう粘る。
同じ女性として耐え難い事件だと思ったのだ。
なぜ少女は裸足でマイナス30度の雪原をで血を吐いて死んでいたのか?
真相は実に単純。そして許し難い。
ウインド・リバーはアメリカ政府がネイティブ・アメリカンを
作物も育たない辺境に追いやり、本来彼らのものだった土地を奪った。
奪われたのは「土地」だけではなく、「生き甲斐や、働く意欲」もだ。
見捨てられた土地と見捨てられた人々。
最後のテロップで「ネイティブ・アメリカンの女性失踪者の統計は
一切ない・・・統計を取ってていない」と明かされる。
見捨てられた人々、その飼いならされたネイティブ・アメリカンの
表情が悲しい・・、
ジェレミー・レナーとエリザベス・オルセンの好演が
心に残る名作でした。
開かれた閉鎖空間における犯罪
この映画は事実を土台としているだけあって非常に濃厚で考えさせられる良い映画になっています。
凄くいい映画ですが、一つだけ難点があるとすれば、途中で全ての事実が明らかになる回想シーンが流れるのですが、それが流れるのが突然すぎてちょっと納得がいかないです。
もうちょっと他のやり方が他にあったのではないかと…。
回想シーンが流れるのは最後に犯人が事実を語った時でも良かったのでは?
でも良い映画でした。
静寂が降り雪に包まれた世界の悲しい事件。でもテンポ良し!
アメリカのインディアン居留地で野生動物のハンターの職に就くコリーは少女の死体を見つける。その捜査でFBI新人捜査官として配属されたジェーンに捜査協力を求められ共に不可解な殺人事件の捜査に身を投じる。
仕方なく始めるが、犯人追求の意思は次第に強くなり復讐は宿命に変わる。それには勿論理由が大アリなのだが、思惑が複雑になりがちな展開でも登場人物の少なさと"何もなさ過ぎる"土地のおかげで分かりやすく観られて良い。まぁそれが捻りのなさを感じる理由にもなってしまうのだが。
単純で王道な流れである故に終盤の展開も読めてしまうが、死の真相は実に現実的でそれは残酷で、土地や民族の歴史も絡み考えさせられる。ラスト、それが取ってつけたようだとしても意味のある映画にしていると感じた。
一面雪の映画は大体面白い
アメリカの闇をあぶり出すタイプの作品だということは知っていたし、ネイティブアメリカンの女性の遺体が発見されるという冒頭、そしてネイティブアメリカン居留地であるウィンドリバーという舞台。これはネイティブアメリカンと白人の対立に関するストーリーだろうと思っていた。
しかし表面的にはそのようなものはほとんどなく、自分の思い違いかなと感じた瞬間のラストでネイティブアメリカン女性の失踪についてのテキスト。あれ?やっぱりネイティブアメリカンは関係しているみたいだけどわからなかったなあ。という事で少しばかり調べてみた。
まずは、ネイティブアメリカンが僻地の居留地へ追いやられたという歴史。居留地の中は自治権のようなものが与えられ一見保護されているように思えるが要は連邦政府から放置されているのだ。
人がいなくなっても捜査はされない。アメリカのどこにいても受けられるはずの権利が受けられない。雪と静寂しかない土地に無理やり住まわせて、あとは知らんというわけだ。だから失踪者が増える。
アメリカでは居留地の現実を知り観客に衝撃が走ったようだが、日本人の自分にはあまりピンとこなくて、そういうものなのかと総スルーしてしまっていた。
適当に描いた死に化粧に二重で泣けるはずだったのに、知識不足でガツンとこなかったのは残念だったが、一つ賢くなったのでよしとしよう。
ここまでネイティブアメリカン居留地についてだけを書いたが、本作が素晴らしく巧妙な脚本なのはその事を無視してもサスペンス作品としてちゃんと面白いことにある。
一面雪の町で女性の遺体が発見され、それを捜査する。いや、捜査というよりは獲物を追い詰めるハンターの狩り。そして大事な人を亡くした人間の心のあり方を描く。
最高とまではいかないけれど中々見応えのあるサスペンスでした。
あとは、マイナス20度で全力疾走してはいけないと学んだ。これは有益。
未だなく変わることの無い現実
テイラー・シェリダン監督・脚本のスリラー作品。
劇場に間に合わなかった作品で、忘れた頃にサブスクで巡り合うの嬉しいですね。
周りを厳寒の雪に囲まれた町を舞台に、ゆっくりと静かに進む物語。
ネイティブ・アメリカンとを取り巻く、米社会の闇を描いていました。
シェリダン脚本の「ボーダーライン」もそうだけど、やはりテーマに重さを感じますね。
エリザベス・オルセンは寒いだけの世界に華を添えてましたし、やはりジェレミー・レナーの存在感が大きいですね。
ここが閉ざされた厳しい世界である事を、その無骨な表情で伝えていました。
ネイティブアメリカンの少女の死によって始まる捜査。
ゆっくりと真実に近づいていくのですが、近づけば近づくほど物悲しさが増していくんですね。
中盤以降は緊張感が増して展開も早くなるので、緩急をうまく使っていたと思います。
そして起こるべきして起こった銃撃戦。
ここではハンターの本領も発揮して、恐ろしい戦闘力を見せます。もうハンターというよりスナイパーですね。
迎えたラストの背中には、少しだけ希望が見えた気がしました。
しかしエンドロールで流れる
「インディアンの失踪者の統計調査はなく、その数も不明のまま。」
この一文は本当に苦しかったです。
未だなく変わることの無い現実を突きつけられた、悲しさが残る作品でした。
雪に遺る足跡、銃声が響く
インディアン被害者への事件の不十分な調査、公平ではない取り扱い等、差別からくる問題提起が見受けられる。
それだけでなく、残された遺族がどう気持ちに向き合っていくか、シビアに現実的にどう向き合っていくのかを真摯に描いている作品だと感じた。
面白いや楽しかったという感想は抱かなかった。雪の様にしんしんと降り積もって、記憶に残る印象的な映画だった。
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