ウインド・リバー : 映画評論・批評

ウインド・リバー

劇場公開日 2018年7月27日
2018年7月17日更新 2018年7月27日より角川シネマ有楽町ほかにてロードショー

静かな怒りがこもった描写に胸打たれる気鋭脚本家の監督デビュー作

アメリカ=メキシコ国境地帯の麻薬戦争を題材にしたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品「ボーダーライン」。テキサス郊外を舞台に銀行強盗犯の兄弟の運命を描いたNetflixオリジナル映画「最後の追跡」。この極めて優れた2本の犯罪映画に相次いで脚本を提供したのがテイラー・シェリダンだ。再び脚本を手がけた「ボーダーライン ソルジャーズ・デイ」の今秋日本公開も決定し、着実にその名前が映画ファンの間に浸透しつつある気鋭のライターが、ついに自らメガホンを執った。

シェリダン自身が称する“現代のフロンティア3部作”の最終作となる本作は、ワイオミング州の先住民保留地が舞台だ。序盤、人里離れた山奥で先住民の血を引く若い女性の死体が発見される。その直前、何者かから執拗な暴行を受けた被害者は、雪原で血を吐いたまま息絶えていた。しかも、少し走れば肺が破裂してしまうマイナス30度の極寒の夜に、裸足で数キロ走り続けた果てに。ジェレミー・レナー扮する地元の猟師は、被害者の常人離れした“生きる意志”がそんなありえないことを可能にしたのだろうと推察する。

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そうした入念なディテールの描写に性犯罪への怒りをこめたこのクライム・ミステリーは、時代の流れからも社会の関心からも置き去りにされた先住民保留地の悲惨な現実をあぶり出す。シェリダンの細部への執着はキャラクターにも反映され、いかにも頼りなげなFBIの新米捜査官ジェーン(エリザベス・オルセン)の苦闘と成長のドラマ、娘を亡くしたつらい過去ゆえに捜査に協力していく主人公の猟師コリーの無言の決意には、並々ならぬ迫真性がみなぎっている。ワイオミングで現地ロケを行った映像には、雄大にして神秘的な自然環境があますところなく収められ、力強さと繊細さが同居したあらゆるショットに引き込まれながら「この映画は本物だ」と確信を深めずにいられない。

さらに、シェリダンは活劇の作家としても堂々たる才能を証明する。クライマックスに突如として炸裂する集団接近戦の銃撃アクション、その引き金となる回想シーンのトリッキーな編集の妙、法律よりも、過酷な大地の“掟”が優先される悪党への裁き、そして先住民保留地のある事実を示すラストの恐ろしいテロップ。レナーが披露するキャリアでベスト級の好演も含め、これほどの快作が賞レースで無視されたのは、きっと悪名高きハーヴェイ・ワインスタインが製作にクレジットされているせいだろう。さもなければアメリカの映画業界人の目が節穴だったことになる。

高橋諭治

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