馬を放つ

劇場公開日:

馬を放つ

解説

「あの娘と自転車に乗って」「明りを灯す人」などで国際的に高く評価されるキルギスの名匠アクタン・アリム・クバト監督がメガホンをとって自ら主演を務め、熱い信念を秘めた純粋な男の姿を通し、文化的アイデンティティーが失われつつある現代社会に静かな問いを投げかけたドラマ。中央アジアに位置する美しい国キルギス。村人たちから「ケンタウロス」と呼ばれる寡黙な男は、妻と息子と3人で慎ましい生活を送っている。騎馬遊牧民を先祖に持つキルギスに古くから伝わる伝説を信じる彼は、人々を結びつけてきた信仰が薄れつつあることを感じ、夜な夜な馬を盗んでは野に解き放っていた。ある日、馬を盗まれた権力者が、犯人を捕まえるべく罠を仕掛けるが……。

2017年製作/89分/キルギス・フランス・ドイツ・オランダ・日本合作
原題または英題:Centaur
配給:ビターズ・エンド
劇場公開日:2018年3月17日

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映画レビュー

4.0ゆったりしてるようで油断がならない。

2018年3月31日
PCから投稿

知的

キルギスの田舎の景色が印象的な作品だが、決して牧歌的な映画ではなかった。随所随所に、キルギスという国の変貌や、それぞれの人間の限界、過去の歴史や文化的背景などを暗示する表現が散りばめられていて、景色に心奪われていると大切なサインを見逃してしまいかねない。監督が伝えようとしていることは明確なのに、そのための表現が大胆であり、かつさりげないのである。しかし価値観の変化やグローバリゼーションというテーマなどは日本に住んでいるわれわれにも縁遠いわけではなく、辺境映画だと思って観ると思わぬ不意討ちを食らってハッとさせられる。賑やかな映画ではないが知的で刺激的な時間を堪能した。

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村山章

4.0遊牧民族の伝統文化と資本主義

2018年3月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

キルギスは、日本で暮らしているとあまり馴染みのない国で、こういう知らないものを見せてくれる作品はそれだけで貴重だ。 本作は、伝統的なキルギス文化と民主化以降の資本主義的な価値観の台頭と対立を軸にしている。キルギスの伝統がどんなもので、今の社会はどんな方向を向いているのかよくわかる。 遊牧民族の伝統としての馬の大切さと、現在ではそれは資産家ばかりが所有するものであること。主人公の馬を盗むという行為は、資本に縛られた文化を解放だ。 主人公の妻がロシア語しか解さないことや、かつての映画館がイスラム教のモスクになっていることなど、キルギスが辿った近代の歴史の複雑さが何気ない描写にも刻印されている。モンゴル帝国時代にイスラムの影響を受け、ソ連の一部だったころには言語も含めロシア文化に染まった。独立後、再びイスラムの勢力が強くなるなど、そうした文化の塗り替わりの痕が垣間見える。 自分の知見を拡げてくれる貴重な鑑賞体験になった。

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杉本穂高

4.0なんだか、たまらない気持ちに包まれてやまないキルギス映画

2018年3月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

幸せ

このところグローバル化と共に小さな声や小さな物語はかき消され、世界の様々な国の映画に触れる機会はむしろ遠のいたように思える。だが、そこに来て本作のようなユニークなキルギス映画に触れると、心の中のあまり起動したことのない感性が刺激され、たまらない気持ちに包まれた。 大自然広がる田舎町。貧富の差も大きく、人々は昔ながらの文化や価値観を忘れかけている。そんな中、本作では冒頭から「馬を放つ人物(馬泥棒)」が明かされており、物語の進展に合わせてその男と行為を徐々につなげて、背景にある理由や考え方を明らかにしていく流れを採る。シンプルかつ大らかなストーリーながら、そこに歴史の流れと彼らの暮らし、その縦軸と横軸がしっかりと描かれ、不思議と観る者の心を打つ。その視座が普遍性に触れる。 主人公の男も良いが、その凛とした妻と無垢な息子がとても良い。久々に映画で、世界の果てまでどっぷりと旅できた気がした。

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牛津厚信

4.0上映時間90分のキルギス旅行映画!

2018年3月20日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

悲しい

幸せ

中央アジアの美しい国。かつてのシルクロードの経由地。ソビエト連邦の解体と共に独立したまだ若い共和国。キルギスについて、そんなことしか知らないであろう多くの日本人の目に、雪を頂いた天山山脈から続く緑の森を、強引に切り開いたのであろう灰色の高速道路と、道路の脇に並ぶ移動式住居ゲルとの不釣り合いが、まず奇妙に映るはず。だがやがて、それがキルギスの現実の一端を物語る風景であることが徐々に分かっていく。主人公の"ケンタウロス"は時の流れに伴い押し寄せてきた資本主義の影で、かつて遊牧民として馬と共存し暮らした同胞たちが、本来の誇りを忘れ去っていくことを心から憂えているのだ。これは、映画を介して見知らぬ国の文化と現実に触れ、そこから日本と日本人の今とを見比べることが出来る、上映時間90分の旅映画。"帰国後"の余韻はけっこう後を引く。

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清藤秀人