「同じものをこれからずっと視ていく大人の愛をイメージさせる斬新なカッコいいラスト」寝ても覚めても Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
同じものをこれからずっと視ていく大人の愛をイメージさせる斬新なカッコいいラスト
原作は読んでおらず、あくまで映画だけを見た上でのレビュー。
今まで見たことが無い新鮮で、苦味も伴う、恋心を通じて二人が大人となる素敵な恋愛映画で、珠玉のとても愛しい映画という思いが残った。
そして、夢の様な恋に憧れ溺れた朝子(唐田えりか)が、現実的な愛に目覚め能動的に行動出来る女性に成長する物語。イプセン「野鴨」の辛い現実を知る悲劇をベースに、社会性も織り込み、愛する人間の過ちを何とかそんまま包容し克服し、前に進もうとする亮平(東出昌大)の物語でもある。
ドライブ・マイ・カーの滝口竜介監督による2018年公開の日仏制作映画。原作は芥川賞受賞作家の柴崎友香、脚本は2007年城戸賞の田中幸子と滝口監督、撮影は佐々木靖之、編集は山崎梓、音楽はtofubeats。配給がビターズエンドとエレファントハウス。
出演は、東出昌大、唐田えりか、瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知、仲本工事、田中美佐子ら。
まず、俳優が真っ直ぐにこちらを見るカメラワークが印象的であった。映画の中で2回登場の視線が刺さる様な牛腸茂雄の人物写真の構図と同じだ。ごくごく普通のヒトに見える最初の方の朝子と、亮平への愛を自覚してから津波のあった東北の海に向かう朝子、唐田えりかの凛とした美しさの対比が絶妙であった。据えられたカメラは、朝子のみならず、映画での演技を通して唐田自身の成長をも映し出している様にも思え、その二重性に惹きつけられてしまった。
麦と朝子の友人の岡崎(渡辺大知)がALSになってしまう設定は、視ることによるコミュニケーションの力、即ち映画を通しての作り手と観客の間の以心伝心の力への信頼を強調する意味あいからということか。実際に、岡崎は視線の動きだけで急な雨を朝子に伝え、朝子はそれを分かり行動した。
それから、瀬戸康史と山下リオの揉めごとを上手に捌く等、平凡ながらも頼りにはなるビジネスマンの亮平、乙女の夢を喰って生きてる様な実在感が乏しい俳優でモデルの麦、その二役を演じ分けた東出の演技と、二人の違いを上手く描出した脚本が、素晴らしい。
そして、長時間運転で疲れた亮平の足裏や背中を揉みながら「亮平のことめちゃ好き。どうしたらいいかわからんくらい」と吐露し、更に元カレの存在を好意的に考えると言う康平に真っ直ぐにハグする唐田。その姿は、少なくとも演技しているとは思えない迫真さを見せ、とてもとても可愛いかった。
劇場での地震の後、倒れてしまった「野鴨」の看板を横向きに立てかける亮平。これから野鴨をモチーフにした新しいドラマを見せていくという監督の意志宣言か。知的にさりげなく主張する監督に感心させられる。
震災後5年も同居していたのに朝子は、亮平の制止も聞かず、突然現れた元カレの麦(東出昌大の二役)と共に、夢見る様に北海道へ向かう。しかし、震災後に亮平と二人で通った思い出の仙台の手前、津波対策の防波堤が見える海のそばで目が覚める。
「ねえこの向こう本当に海なの?」「知らなかった?」「うん」。彼女は悟る、かけがえの無い場所と時間を共にした本当に大切なヒトの存在を。ここからリズムが変わって、亮平のもとにしっかりと自分自身の力で帰る朝子の映像の流れが、とても素敵で好きだ。大阪へ向かう夜行バスで見せる愛を再発見した彼女が見せる息を飲むような美しさが、とても素晴らしかった。
最後、「俺はきっと一生お前のこと信じへんのや」と言い、朝子と一生これから付き合っていく決意を告げる亮平。冷たい言葉の裏に、深い大きな愛があるセリフで痺れてしまった。
二人で一緒に水量を増した川を見て、「きったない川やで」言う亮平、「でも綺麗」と言う朝子、感じ方はそれぞれだが同じものをこれからずっと視ていく大人の愛をイメージさせる斬新なカッコいい終わり方であった。続くtofubeatsによる色々あるが二人の愛の途切れない強い流れを歌い上げた歌詞と相まって、大きな感動を覚えた。