ローサは密告された
劇場公開日:2017年7月29日
解説
フィリピンのインディペンデント映画界を代表する俊英ブリランテ・メンドーサ監督が、東南アジア最大といわれるマニラのスラム街で懸命に生きる女性とその家族を描いたドラマ。4人の子どもを持つローサは、マニラのスラム街で小さなコンビニエンスストアを経営し、地元の人々からも好かれている。彼女と夫のネストールは家計の足しにするため少量の麻薬を扱っていたが、そのことが警察に見つかり逮捕されてしまう。ローサの子どもたちは腐敗した警察から両親を取り戻すべく奔走するが……。メンドーサ監督作「サービス」にも出演したベテラン女優ジャクリン・ホセがローサ役を演じ、2016年・第69回カンヌ国際映画祭で女優賞を獲得した。
2016年製作/110分/フィリピン
原題:Ma' Rosa
配給:ビターズ・エンド
スタッフ・キャスト
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2017年7月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
麻薬のはびこり、警官の腐敗が状態化したフィリピンのスラムの実態をリアルに切り取る作品。フィリピンで麻薬と言えば、ドゥテルテ大統領が、撲滅のための過激な政策が、欧米諸国から問題視されているが、この作品はドゥテルテ政権誕生以前のスラムの現実を描いている。
雑貨屋を営む、ごく普通の貧しい家庭が生活費のために麻薬を売っている。ある日妻のローサが逮捕され、釈放に高額の保釈金か他の売人を密告するよう強要される。そうして密告が連鎖していき、地域の信頼は崩壊。警官は押収した麻薬を横流し。この人々に救いはあるのか。一筋縄ではいきそうになり、社会が腐敗していく連鎖がドキュメンタリータッチで紡がれる。
主役のジャクリン・ホセがフィリピン人として初のカンヌ女優賞に輝いたが、そのリアルな佇まいが素晴らしい。ケン・ローやダルデンヌ監督などの作品が好きな人にオススメ。
2021年9月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
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マニラのスラム街で小さな雑貨店を営むローサと夫ネストール。四輪自動車が通れないほどの小路にひしめく露店や小売業。どことなく戦争直後の日本の闇市にも似た雰囲気で、人々の絆も深そうな賑わいを見せている。ローサには4人の子供たちがおり、雑貨、駄菓子を売るだけでは家計を支えられず、本業に加えて少量の麻薬を扱っていた。ある日、密告によりローサ夫婦は逮捕される。「刑務所に入るわけにはいきません。貧しいんです」・・・
売人の密告をするか、保釈金として20万ペソ(日本円で40万強)を払えと言われ、しぶしぶ麻薬を彼らに売っていたジョマールの名前を挙げる。電話をさせられ、売人ジョマールを捕まえた警察。巡査たちはジョマールにも金を要求するが、ジョマールが上級警部へ携帯メールしたために袋叩きにする。何とか15万ペソを手に入れた巡査たちだったが、足りない5万ペソをローサ夫婦に要求する。保釈金とは名ばかりで、金を山分けし、彼らのふところへと消えていくかねなのだ。
ローサの子供たち女子高生のラルケ、長男ジャクソン、次男アーウィンが警察を訪れて、なんとか両親を解放しようと懇願するが、5万ペソの要求は変わらない。ラルケは親せきから金を工面しようと頭を下げまくり、ジャクソンは家のテレビをなんとか売ろうと頑張り、アーウィンは男色のおっさんを捕まえて体を売るという悲しくなるほど惨めな行為で金を集める。ようやく貯まった4万6千ペソを持って警察へと向かうが、足りない分はラルケの携帯を質に入れるしか道がなかった・・・
ラストのローサの涙には少なからず心を揺さぶられるが、最も悲惨だったのはやはり次男アーウィンの行為。映画はずっとハンディカメラで彼らを追い、リアルな貧困層を映し出していたのですが、警察署の周りをぐるぐる歩くシーンは何か意味があったのだろうか。ローサたちを尋問する取調室には制服の巡査がいなかったし、オネエ野郎と呼ばれる子どもまでいた。アットホームな対応をするものの、巻き上げた金を着服するという特別室みたいなものだったのかもしれない。
映画としてはラストに大きな展開もなく、驚愕のエンディングを期待していたのに裏切られた感じもする。訴えたい内容も伝わってくるのですが、まだまだ甘いようにも感じるのは、ドゥテルテ大統領が就任してからは映画以上の凄惨な現場が溢れているだろうから。麻薬の売人たちは銃殺してもかまわない。刑務所に自ら入る売人たちといったニュースも記憶に新しい。ただし、この出来事を他人事のように捉えてはいけないのだろう。日本だって共謀罪が成立したのだから、ちょっとした政治的言動によってテロリストとして扱われ、密告も日常茶飯事になる可能性があるのだから。
【2017年10月映画館にて】
2021年8月8日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館、VOD
ー 愚かしき男:フィリピン大統領に民衆からの圧倒的支持を受け1988年から国を統べるロドリゴ・ドゥテルテである。トランプが、まさかの米大統領に就任した際には、チャッカリお祝いをし、ミニトランプとも言われた男である。
今作では、無能だが悪智恵だけは働く男が、国のトップになってしまった前の市井の人々が足掻く姿、及び愚かしき警察と称するチンピラの姿を、ブリランテ・メンドーサ監督が痛烈な批判の視線で描いている。ー
◆感想
・国のトップを統べるモノには知性、器、教養、リーガルマインド、等々人間として最小限必要な事が身に備わってる必要性を改めて、思い知る。
尚、この作品にはロドリゴ・ドゥテルテは一切登場しない。彼が就任する前であるからである。でも、この混沌状態・。
・描かれるのは、マニラの混沌とした街で、必死に小さな雑貨屋で生計を立てているローサ及びその家族の姿である。
その雑貨屋では、家計を維持するために少量の麻薬も売っている。
・ある日、その事実を密告する者が出たために、ローサと、夫ネストールは警察と称する連中に摘発される。
ー この、警察と称する連中は公権力を衣に仮り、ローサ達から法外な金を引き出そうとする。そして、そこで巻き上げた金を警察に上納する・・。暴対法施工前の、どこやらの国と同じである。ー
・街中では、少年たちが、シンナーを吸っている・・。
・劇中流れる、グリッジノイズが気に障る音響も印象的である。
<鑑賞当時、この作品はドキュメンタリー作品かと思って観ていたのだが、ナント、ローサを演じたジャクリン・ホセは第69回カンヌ国際映画祭でシャーリーズ姉さんやイザベル・ユペール姉さんとクリスティン・スチュワートを制し、フィリピン初の主演女優賞を受賞しているのである。
ラスト、マニラの混沌とした夜の街を見ながら、涙するジャクリン・ホセの姿は、久方振りに鑑賞すると、受賞は納得してしまった作品でもある。>
<2017年9月23日頃、京都シネマにて鑑賞>
<2021年8月8日 別媒体にて再鑑賞>