劇場公開日 2017年10月20日

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「アメリカでは微妙なテーマなのでしょうか?」女神の見えざる手 うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5アメリカでは微妙なテーマなのでしょうか?

2025年5月20日
PCから投稿

日本語タイトルは、考え抜かれたセンスのあるものだと思いました。

原題は『MISS SLOANE』何の変哲もない、彼女こそがヒーローだと言わんばかりの直球なタイトルでした。それだと見る気にもなれませんが、ロビイストという、特殊な職業を主人公に、その職業のあるべき姿、活動内容をタイトルに入れ込むという、基本的な構成にしてあり、がぜん興味をかき立てられました。

もう少し、そのことを考えてみます。『女神の━━』とあるから、彼女は絶対的に正義の人。直感でそう信じられるように名付けてあります。ところが、劇中、スローン女史は、必ずしも正義の人ではないのです。「勝つことがすべて」であり、究極の日和見主義者とも受け取れます。

何となく、銃規制法案を通す事は「いいこと」「目指すべき姿」のようにも思えますが、劇中、規制派にとってはその信念を打ち砕かれるような出来事が起きます。そのあたり、実に脚本がよく練り上げられています。

実際、映画の帰りに、「身を守るために武装する」ことと、「無辜の市民に危害を加える」事の違いについて考えさせられました。

しかし、この映画の本質はそんなことではないのです。
主人公、エリザベス・スローンという人物の生き方。ロビイストという職業の戦いを、テンポよく、歯切れのいいセリフの応酬で見せる、人間ドラマ。

見終わったあとで、どこまでが計算ずくで、どこからが偶然なのか、分からなくなるほど。「相手が切り札を出してきたのを見極めてから、最後のカードを切る」ジェシカ・チャスティンの決めセリフに象徴される、この逆転劇は、自分も相当のダメージを負いつつ、敵に致命傷を与える構成で、「もしかしたら、全部作戦なのか?」なんて深読みをしてしまいます。

単館系の映画館で、エンタメ作品のような派手な演出は元から期待してませんが、オープニングから専門用語の会話の応酬で、字幕を追っかけるのに忙しく、それを退屈だと感じる人にはおすすめできません。
しかし私にとってはど真ん中、大当たりの面白い映画でした。

ロビイストに、銃規制という、難しい問題を取り上げて、ここまで楽しめるドラマに仕上げた脚本のジョナサン・ペレラの腕前は大したものです。この映画が、アメリカでさほど評価されなかったのは、根強い憲法修正第2条の支持者の反発があったのでしょうか。ジェシカ・チャスティンは、とかく物議をかもす題材にあえて自分からぶつかっている印象を受けます。今後、彼女のキャリアをつぶしにかかる人も現れるのではと、心配になるほどです。しばらくは、彼女の関わる作品から目が離せませんね。

あらためて、日本語タイトルを考えた人と、日本語字幕担当の松浦美奈さんの堅実な仕事ぶりには敬服します。そして、発売されれば、DVDの英語字幕で、セリフの細部の言い回しや、下ネタまじりのスラングを堪能したいと思います。

うそつきかもめ