人生はシネマティック! : 映画評論・批評
2017年11月7日更新
2017年11月11日より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにてロードショー
女性のパワーを強調した演出が、複雑なドラマに爽快な後味をもたらしている
ヒロインのカトリン(ジェマ・アータートン)は、徴兵された同僚の代理で書いた広告コピーを英国情報省映画局に認められ、戦意高揚映画の脚本家の職を得る。戦争が女性の社会進出にどんな影響を与えたかという視点から物語が始まるところがユニークな作品だ。
ユニークなのは映画の性格もしかり。女性の自立映画であると同時に、ダンケルク作戦を題材にした映画の制作現場を描く内幕ものであり、1930~40年代のスクリューボール・コメディ調の粋なセリフが飛び交うロマンチック・コメディでもあるのだ。一粒で三度のおいしさを狙ったところは欲張りすぎな感じがしなくもないが、不思議とお腹いっぱいにならないのは、イギリス映画らしい慎ましやかなトーンが作品の底流に流れているからだろう。
監督は「17歳の肖像」のロネ・シェルフィグ。内縁の夫を健気に支える秘書として生きてきたカトリンが、脚本の才能を開花させ、自立した人間に成長していく過程を生き生き捉えている。とくに、撮影現場のもめごとをとりなしたり、軍部がゴリ押しする脚本の修正に妥協点を見出したりと、カトリンが女性ならではの調整能力を発揮することでプロの映画人たちに認められていくエピソードを、リアルに描き出す腕前はさすが女性監督だ。
キャロル・リードやヒッチコックが監督を務めていたことで知られる英国の戦意高揚映画の舞台裏の描写にも興味をそそられる。近作の「ダンケルク」にも描かれた海岸に兵士が集結する情景をガラス板のスゴ技で再現したり、アメリカの参戦をうながすためにズブの素人のアメリカ人にヒーローを演じさせたり。そんな中で注目したいのは、劇中の出来事と劇中劇の内容がリンクするというメーキング映画の鉄則が守られていることだ。カトリンが脚本の腕をあげ、制作チーム内での存在感が増すにつれ、劇中劇の女性の活躍度もアップする。女性のパワーを強調した演出が、戦争の悲惨な面も盛り込まれたドラマに爽快な後味をもたらしている。
(矢崎由紀子)