劇場公開日 2018年5月11日

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ボストン ストロング ダメな僕だから英雄になれた : 映画評論・批評

2018年4月24日更新

2018年5月11日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー

人間の弱さを徹底して描き、〈強くなる〉ことの尊さを際立たせる

2013年のボストンマラソン爆弾テロ事件を題材にした先行作品に、マーク・ウォールバーグ主演の「パトリオット・デイ」がある。事件の経緯を主人公の警官を含む捜査側と犯人側の視点を交えつつサスペンスフルに描く同作に、両脚の膝から下を失う重傷を負いながら目撃証言で捜査に貢献した青年が登場する。その当人、ジェフ・ボーマンが2014年に出した回顧録を映画化したのが本作で、映画の原題は原作と同じ「Stronger」。

「ストロンガー」と聞くと、ケリー・クラークソンの最大のヒット曲(2012年のビルボードランキングで3週にわたり1位)を思い出す。同曲のサビに「What doesn't kill you makes you stronger(死ぬほどつらい逆境が あなたをもっと強くする)」という一節がある。これはニーチェの著作「偶像の黄昏」から引用したフレーズで、「ボストン ストロング ダメな僕だから英雄になれた」の主題にもぴたりと重なる(ボーマンと共著者ブレット・ウィッターが、アメリカ人なら誰もが知る大ヒット曲と同じタイトルを選んだのは偶然ではないだろう)。

邦題にある通り、映画のジェフは相当ダメな27歳だ。仕事のミスを言い訳し、デートは遅刻とすっぽかしばかりで、元恋人のエリンと3度別れている。未練たっぷりのジェフは、ボストンマラソンで走るエリンを応援しようとゴール地点で待っていて、爆発の衝撃を間近で浴びてしまう。

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自ら立ち上げた製作会社の第1作に本作を選んだジェイク・ギレンホールはプロデューサーも兼ね、両脚を切断する悲劇に見舞われた青年を、特に精神面の弱さと葛藤を強調して演じてみせる。世間から英雄視される陰で、患部の激痛、事件のトラウマ、不自由な生活、つらいリハビリに苦しみ現実逃避してしまう弱さが、ギレンホールによって繊細に表現され、観客の心を揺さぶり続ける。

スモーキング・ハイ」などフィルモグラフィーにコメディが目立つデビッド・ゴードン・グリーン監督は、ジェフがエリンと家族、友人らに支えられ、衝突や挫折を経て再起のきっかけをつかむまでを、ささやかなユーモアを添えつつ丁寧に描く。弱さ、ダメさをじっくり見せるからこそ、それを克服して〈強くなる〉ことの尊さが一層輝きを増す。

ニーチェの言葉に通じる「逆境を経験することで強くなる」という真理は、一個人に起きることだけを指すのではない。より強くなって立ち上がる人の勇気が他者を鼓舞し、さらに大勢へと波及する力を持つことを映画は伝えている。

高森郁哉

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