劇場公開日 2017年8月5日

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夜明けの祈り : 映画評論・批評

2017年8月1日更新

2017年8月5日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにてロードショー

宗教画のような厳粛な美しさが胸を突く、悲劇的実話の映画化

まるで宗教画のような美しさに、はっとさせられる作品だ。修道院が舞台ゆえに、7年前にフランスで大ヒットを記録し日本でも公開された「神々と男たち」を思い出した方もいるのではないか。この静寂、厳かで清純な空気には、観る者が襟を正されるようなところがある。だが、そんな修道女たちの密やかな平穏が、現実という無情なリアリティのもとに破られる。時は1945年終戦直後。ポーランドの田舎街に侵入したソ連兵が修道院に押し入り、彼女たちに暴行を働く。

本作は実話を元にした悲劇であり、街に派遣された赤十字の女医(ルー・ドゥ・ラージュ)が、子供を身ごもったまま誰にも相談できぬ修道女たちの命を救おうとする物語だ。確固として人道を貫く女医の誠意が、命よりも信仰や体面を優先するように教えられた修道女たちに、新たな視野と希望をもたらす。

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アンヌ・フォンテーヌ監督(「ココ・アヴァン・シャネル」「ボヴァリー夫人とパン屋」)はもちろんここで、修道院のあり方を告発しようとしているわけではない。その反対に、この映画のなかで彼女たちこそは、非道徳的で暴力的な外界からかけ離れた純真な存在として描かれている(ちなみに原題は、無垢な人々を意味する「Les Innocents」)。それを助長するのが、なんとも清貧な雰囲気を浮き立たせるカメラだ。陶器のように白い彼女たちの横顔を照らす光。それはまさに夜明けのそれを連想させるような、希望を予感させるものでもある。

鋭い方ならこの撮影監督が「神々と男たち」と同じカロリーヌ・シャンプティエだと気づいたことだろう。現在のフランス映画界を代表するカメラマンのシャンプティエは、レオス・カラックス(「ホーリー・モーターズ」「TOKYO!」)から諏訪敦彦(「不完全なふたり」)までさまざまな作品を手掛け、監督の意図を明確に視覚化する手腕を発揮している。彼女の紡ぎだす映像は、観る者に映画というマジックをあらためて思い起こさせてくれるに違いない。

フォンテーヌの堅実な演出と併せて、直球の魅力に満ちている。

佐藤久理子

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